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奏星機グランセリオン  作者: みんと猫
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第1話 奏星機 Aパート

 西暦20XX年、人類はあまりにも唐突に種の存亡の危機を迎えた。


 太平洋上に突如として現れた巨大な鋼鉄の島。

 異世界より現出したその島の主は、自らを<皇帝>と名乗り<帝国>の力をもって地球を征服すると高らかに宣言。同時に、世界各国への攻撃を開始した。

 その軍事力は絶大であり、あり得るはずのないその力は、人類に驚愕をもたらした。

 異世界人であることを証明するかの如き<魔法>の力は非常に強力であり、理解の範疇にすら及ぶものではなかったが、人類の長い戦いの歴史の結晶、鉄と火薬はその力に対抗出来る存在であった。

 が、問題となったのはもう一つの技術<科学>だった。



 ──まさかの巨大ロボットである。



 真っ先にその存在と戦火を交えたのは、世界に名だたる軍事大国アメリカであり、自身を異世界からの侵略者と名乗る、妄想にかられた道化に正義の鉄槌を下すべく、海軍の精鋭である第三艦隊を派遣。

 圧倒的な火力による制圧で、即日戦いは終わるものだと本国の軍部、政治首脳部は思っていたのだが……


 

 攻撃開始から十分あまり、第三艦隊旗艦ペンサコーラのはるか前方に配置され、縦横に砲弾をばら撒いていたはずのウィチタ級重巡洋艦から通信が入った。

 その通信を受けた通信手は幾度となくその内容を確認し、それでも半信半疑のまま、第三艦隊司令官ウォーナー中将へと自分が受けた通りの内容を報告した。


「はあ?巨大ロボット?いつから我がアメリカ海軍の勇猛果敢な兵士達は、そんな幻覚を見るようになったのだ?戦うべき相手が誇大妄想のジャンキーどもだから、それが移ったか?それとも我が愛すべき同盟国のアニメでも見すぎて脳がイカれたのか?」


 まるで叱責を受けたかのように身体を固くし、謝罪の言葉と敬礼を送った後、視線を落とす通信手。

 無論、正確に情報を伝えただけの彼に非は無いので、ウォーナー中将は軽く手を振って彼を元の席に戻した。


 巨大ロボットだと?馬鹿げている。いまいち収まりの悪い指揮卓の椅子に深く腰を沈め、ウォーナーは視線を前方にやった。

 この位置からでは先行した艦隊の姿は見えず、通信を送ったウィチタ級重巡洋艦が何を見て巨大ロボットなどと誤認したのか、ウォーナーとしては確かめようがなく想像の翼を広げるしかなかったが、すぐにそれは中断されることになる。

 

 先のウィチタ級だけでなく、その随伴艦隊からも次々と同様の報告が送られてきたのである。

 こうなるとただの誤認と切り捨てるわけにもいかない。ウォーナーは考えを改め、先行艦隊の一時撤退を指示、自身が直接指揮する艦隊と合流、再編することを決断した。

 

 巨大ロボットの存在を認めたわけではなかったが、それに準ずるなにがしかの兵器を帝国は保有しているのかもしれない。あるいは魔法による幻覚という可能性もある。

 何にせよ混乱する先行艦隊をそのままにはしておけない、一刻も早く合流せねば艦隊への被害も大きくなる一方であろう。

 ウォーナーは自身の艦隊の前進を指示。核融合エンジンが雄叫びを上げ、砲弾の如く艦を前へと押し出していく。

 

「しかし、何でしょうな。巨大ロボットというのは」

 

 副官ラッセル大佐が特徴である眉間の皺を更に深めて問いを発した。


「さてな。最近の若い連中にはそういうのが流行ってるんだろうよ。・・・・・それにだ」


 ウォーナーはわずかに顔を歪めた。


「仮にそんなものが存在するというのなら、真っ先に我が合衆国が採用してるだろうさ」


 それもそうですな、とこちらは澄ました顔のラッセル大佐。

 自分から聞いておいてそれは無いだろう、と憮然としたウォーナーが再度声を発しようとしたその時に異変が起きた。


 轟音とともに旗艦の目前に巨大な水柱が立つと、ほぼ同時に凄まじい振動が艦橋を襲った。

 悲鳴が響き渡り、艦橋の乗組員は揺れに耐え切れずに転倒した。無論ウォーナーもそれに抗うことは出来ず、指揮卓から投げ出された。


 苦悶と罵倒の声が重なる中、ウォーナーはふらつく頭を押さえながら立ち上がり、艦橋を見渡した。

 立っているものはまだほとんど居ない。自分は衝撃の際、咄嗟に椅子にしがみついたお陰かあまりダメージはなかったらしい。

 しかし、指揮卓の横に立っていたラッセル大佐は、壁に勢いよく叩きつけられて意識を失っているようだ。

 うつ伏せになっていた身体を起こし、呼吸を有無を確認するとウォーナーは艦の状況を確認すべく、無事な乗組員に声をかけようとした時、それに気づいた。

 

 艦橋が妙に暗い。そもそも先程の衝撃により、艦橋内の照明や電子機器はそのほとんどが光を消していたが、現在の天候は快晴であり、太陽の光が燦々と艦橋内に降り注いでいたはずである。

 何故、と疑問が頭を掠めたが、その疑問はすぐに晴れることになる。


 本来であれば大海原が見えているはずの目前に鋼鉄の壁がある。

 いや、それは壁などではなく──


「巨大……ロボット?」


 旗艦の甲板上に、おそらくは海中から飛び乗ったのだろう。先程の水柱と衝撃の理由はそれか、とウォーナーは半ば意識を失いかけながら、見当違いの想いを馳せていた。

 甲板からの高さ二十メートルを超える場所に位置する艦橋を「見下ろした」その存在は、先端が巨大なドリルになっている右腕をゆっくりと振り上げ──


 重い風切り音が耳に届く前に、ウォーナーの意識は暗い井戸の底へと落ちていった。




 ※




 世界最大の軍事国家アメリカの敗北は世界中を震撼させた。特に、重傷を負いながらも帰還を果たした第3艦隊司令官ウォーナー中将の証言から得られた巨大ロボットの存在。

 各国は軍の派遣を取りやめ、長距離ミサイルによる一斉攻撃を採用、即時攻撃に移った。

 如何に巨大ロボットによる攻撃が強力であろうとも、帝国本土が消滅してしまえば元も子もないのだ。

 

 各国首脳はこのお騒がせな帝国の末路に思いを馳せ、早くも高級酒を空け乾杯のタイミングを図っていたのだが、その準備は無駄に終わることになる。

 ミサイルが着弾するわずか三分前、帝国の巨大な領土は太平洋上からその姿を消した。驚愕に揺れる各国をあざ笑うかのように──


 そして姿を消した直後、インド洋上にその偉容を顕わした。

 

 あり得ない、と頭を振る各国首脳の元へ、皇帝から世界中へ向けた二度目の宣言が発せられた。


 我が帝国を打倒せんとするならば、軍を率い正面から潔く戦うが良い、と。

 

 その宣言に嘘はないと判断出来たのは、それまでの帝国は戦いにおいて、奇襲や騙し討ちといった<汚い>方法を用いた事がなかったからである。

 帝国の戦いは再三に渡る警告の上で行われるものであり、特に市街地においては民間人の避難が済むまで待機するほどの徹底ぶりで、いっそ待機中の帝国軍に攻撃を加える地球軍の側に非難が殺到するほどであった。

 

 皇帝の宣言から三ヶ月後。地球人類は持てる全ての軍事力を集結させ、インド洋上から再度太平洋上へと移動した帝国本土への全面攻撃を開始した。

 数百、数千の艦船、航空機、そして数十万の兵士が一斉にその砲火を放つ姿はまさに圧巻の一言に尽きた。

 無論、帝国側も粛々とその攻撃を受けたわけではない。迎撃のため、百を超える巨大ロボットや魔法技術による産物、人形兵士や魔獣を矢継ぎ早に展開し、そして── 

 



 ※



 

 間に合ってよかった、とウォーナー中将は自分と乗艦するペンサコーラの双方の傷が癒え、復帰できたことを心から喜んでいた。

 生憎、自分よりも重い傷を負った副官のラッセル大佐は参戦することが出来なかったが、精々我が艦隊の華々しい戦果を語って、悔しがらせてやろうとウォーナーは目論んでいた。

 敗北の屈辱を拭うべく、ペンサコーラは常に最前線にその姿を晒し、目前の敵に砲撃をひたすらに叩き込む。


 以前、なす術なく蹂躙されたあの巨大ロボットも数十、数百にも及ぶ艦砲射撃の前では、その形を留めておくことすら容易いことではなかった。

 勝てる、とウォーナーは指揮卓の陰で拳を握りしめた。世界各国から集められた軍隊はその多国籍ぶりから、相互の連携や指揮系統にも混乱が見られたが、何より物量が違う。


 圧倒的な人員と火力により、帝国本土への上陸もあと僅かとなったその時──

 

 音もなくペンサコーラの艦橋の上部が消え去った。


「……は?」


 ウォーナーは天井を失った艦橋の椅子の上で空を仰ぎ見ることに成功した。

 美しい青空だ、と現実逃避したのも束の間──


「おいおい、何処見てるんだよ、オッサン」

 

 苦笑混じりの声が聞こえた。

 目線を空から艦橋へ戻すと、そこには時代錯誤の黒い騎士甲冑を纏った青年が操舵輪に凭れ掛かっていた。

 

「いやー、意外だったぜ。まさか俺等が出てこなきゃならんくらいに善戦してくれるとはな。暇だったから有難いといえば有難いんだけどな」

 

 青年は苦笑を浮かべながら艦橋を見まわした。


「地球の船ってのは凄いもんだな。俺等の世界の船とは比べ物にならんよなあ」


 何者だ、と問う必要などなかった。ウォーナーを含めた艦橋の乗組員は一斉に銃を構え青年に向かって発砲した。


 ──ジュ、っと水が蒸発するような小さな音がウォーナーの耳に届いた。


「危ねえなあ。当たったら死んでるぞ?」


 操舵輪に凭れ掛かった姿のまま、青年は吐息を漏らす。そして驚愕する乗組員に強い笑みを向け──


「だが、この俺に相対し、躊躇なく武器を構えるその勇気。心から敬意を払おう」


 ──青年の身体から純白の炎が溢れ出す。


「今日より忘れるなよ地球人。我等の名を」


 ウォーナーは気付いた。気付きたくもなかったが、気付いてしまった。

 青年が自身を複数形で表したことに……


 轟音が響く。ペンサコーラの周囲に展開していた七隻の戦艦が爆炎に包まれ、前進を止める。

 その炎の中に佇む七つの影。

 

 ウォーナーの顔に再び絶望の陰がよぎった。魔法の力にも、巨大ロボットにも人類は対抗してみせた。だが次は、この力にはどうすれば良いのか。


 青年は両腕を大きく拡げ、声高く名乗りを上げた。


「我等八神将!誉れ高き帝国の刃!我等を恐れぬというのであれば挑むが良い!」


 八神将と名乗る者達は一斉に炎上する艦から、防衛線を張る巨大ロボットの上に飛び乗ると、視界を埋め尽くす地球人の大艦隊へ向け狂喜にも似た表情を浮かべた。

 



 ──さあ、始めよう!

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