第8話 ダブルインパクト Aパート
極寒の風が吹き荒ぶ、凍結した大地、ロシアはツンドラ地帯の奥深くに、悪逆非道の侵略者たるライヒ・エンパイア帝国アジア方面軍の秘密基地が、その偉容を燦々たる日差しの下に晒しておる。
ん?全くもって秘密じゃないではないか、じゃと?
八神将<傾城娘々>の住まう城が何故にコソコソと人目を忍ばねばならんのか。
最も、そのお陰か、建設当初は毎日のように爆撃やら砲撃やらが雨あられの如く降り注いできたものじゃが、吾の力を持ってすればあいしーびーえむでさえ小雨のようなものであるがの。
さて、絢爛たる装飾に彩られた私室で吾はスクリーンに映し出された光景を見やっていた。
そこには青と白、そして黒と赤のツートンカラーの二機の奏星機が寸分違わぬタイミングで我が下僕<双極>の瑤姫、瑶草の駆る破壊ロボを打ち砕く様が映し出されていた。
<双極>に与えられた一対の破壊ロボは、最近久方振りに真っ当な理性が戻った<大賢者>が、何やら小難しい技術を用いて造り出した代物で、たとえ片方が破壊されたとしても、無事なもう一方の機体の状態をコピーして復活するだとかで、確かに大した発想と技術ではある。
──が、弱点がバレバレではないかと危惧しておったんじゃが。
で、結果としては一度はその性能を遺憾なく発揮し、見事に奏星機を撤退に追いやったものの、まあ、ちょっと調べればすぐに気付くような特徴だからの。
翌日、再戦となったウラジオストク沖の小島にて、奏星機二体の同時攻撃によってものの見事に撃破。折り重なって倒れ、二体の破壊ロボは爆発。
コクピットから這い出た<双極>は抱き合いながら爆炎の中にその姿を消していった・・・・・・
「そこで死んでおれば格好良かったと思うのじゃがなあ」
床に敷かれた虎皮の絨毯に寝そべる吾に平伏する<双極>がそこに居た。
双子の姉妹である<双極>は顔立ちから身体つき、髪型に至るまで瓜二つで、育ての親である吾でもなければ見分けはつかぬであろうな。
「おめおめと生きて帰ってきたからには、相応の処罰を覚悟しての事だと思ってよいのであろうな?」
吾の言葉に<双極>が下げていた頭を勢い良く上げる。
その拍子に薄いチャイナドレスに包まれた豊かな胸がたゆんと跳ね上がった。
……ぬう、ほんの三年前に路地裏で拾った時は、起伏なぞ皆無な体だったのに生意気に育ちおってからに。
「そのおめおめと帰ってきた負け犬に、生きてて良かったああああ、なんて大泣きしながら抱き着いてきたのはどこのどなたでしたっけね、お母さま?」
吾から見て右側に居る姉の瑶姫が鼻で笑った。
……しとらんぞ、そんなことは。
「ついさっきまで泣き疲れて、私達の胸に挟まれてスヤスヤと眠っていたのはどなたでしたか覚えてらっしゃるかしら、お母さま?」
溜息混じりに首を振る妹の瑶草。
……しとらんからな、絶対に。
「悠久の時を生きる吾が、そんな子供のような真似なぞするわけがなかろ。失態を誤魔化すのも大概にせい、汝等」
しばらくの間謹慎せよ、と告げると<双極>が顔を見合わせ、残念そうに首を振った。なんじゃ一体?
「残念ですお母さま。折角ですから今日は一緒にお風呂に入って差し上げようと思ってたのですけど」
──なに?
「夜は一緒に寝ようと思ってたのですけど、謹慎しろというなら仕方ないですね」
──まて。
失礼します、と頭を下げて退室する二人に吾は慌てて声をかけた。
「待て瑶姫」
「私は瑶草です、お母さま」
あれ?
「お母さまには失望しました。私達はこんなにも娘としてお母さまに愛を捧げてますのに、お母さまは娘の見分けすら未だに付かない程度にしか、私達を愛してくれていないのですね」
「いや決してそういうわけでは……」
「謝ってください。でないとお風呂も添い寝も無しです」
「えー、あー、うん、すまぬ」
あっれ、なんでいつの間にか、吾が責められる立場になってるの?
「誠意が足りません、お母さま」
頭を下げる吾に容赦なく<双極>が追い打ちをかけてきた。
この悪鬼どもめが!
「……どうしろというんじゃ、汝等」
<双極>は吾の左右にしゃがみ込み、目線を同じ高さに合わせると、ふいっと顔を逸らし、自分の頬を指差した。
「ほっぺにちゅーで許してあげましょう。もちろん、愛情たっぷりで」
……前言撤回。吾の娘たちは最高じゃな!