第7話 新たなる星 Bパート
ライヒ・エンパイア帝国の居城、シャトーキャッスルブルグ<黒薔薇の間>は、もう何度目かも分からない沈黙に包まれていました。
「これも思い切りよく技術とカネを与えてやった結果ですかねえ、陛下?」
<華焔将>アインヴァルト殿がねちっこく陛下を責め立てていますが、無論私も同意見の為、擁護に回るようなことは致しません。
ぐぬぬ、と呻く陛下を横目に<剛腕>パンツェーセン殿が呆れたような、感心したような声を漏らしました。
「しかし、よくもまあこんな短期間で<次>を作り出せたもんだなあ。地球人ってのは本当に勤勉で羨ましいぜ」
「世界が征服されるかどうかの瀬戸際だからな。必死にもなるだろう」
その地球人の裏切者である<紅>の破軍殿が卓上の立体映像を眺めながら他人事のようにおっしゃいました。
釣られて目を向けると、そこには何ということでしょう、燃え上がるような赤と凍てつくような黒のツートーンカラーの新たな奏星機が映し出されているではありませんか。
私<極光>のシルバリオは、その何ともCoolなデザインにしばらく見惚れていましたが<絢爛舞踏>クロエ殿の艶やかな声が室内に響くと、渋々ながら目線をそちらに向ける事にしました。
「帝国が財政破綻寸前になるまで敵に塩を送りまくったらグランセリオンは以前とは比べ物にならないくらいにパワーアップ。それにこの二号機……えー、と、メガセリオン?もほぼ同等の力を持ってるって考えていいわけよね」
半分ほどジョッキに残っていたヒュンケル皇帝液を一息に呷るとクロエ殿は深刻さなど皆無の口ぶりで陛下に問いを投げかけました。
「もう量産型の破壊ロボじゃ手に負えないくらいに彼等は強くなったと思うのだけど、我等が皇帝陛下はどのように対処なされるおつもりかしら?」
空になったジョッキを軽く掲げると<魔動機姫>アンネロッテ殿がすかさずおかわりを差し出し、クロエ殿に手渡しました。
ありがとう、と優しくアンネロッテ殿の頬を撫でると、表情こそ変わらぬものの、幸せそうに目を細めクロエ殿の手を握る金髪の麗人。
最近なにかと百合百合してますね、お二人は。
けしからん、もっとやれ。
少々話が逸れましたね。
そこはかとなく蠱惑の花を咲かせる美女二人の姿に後ろ髪を引かれる思いで玉座に顔を向けると、そこには重い沈黙に身を浸す皇帝陛下のお姿が。
……何か思案に耽っているように見えますが、おそらく何も考えてはいないでしょうねえ。
※
さて、ここに来て唐突にグランセリオン、メガセリオンと奏星機の固有名詞出てきましたね。
何故我々がそれを知ることになったかといいますと、答えは簡単、我が帝国最大にして最良の宿敵たる地球防衛機構Aegis内部に諜報員が存在するからに他なりません。
<紅>の破軍殿の優秀な配下が敵司令部の職員として潜り込み、あらゆる情報を入手、報告する手筈だったのですが・・・・・・
優秀すぎるのも考え物でして、なんと申しましょうか、非常に<分かっている>逸材のため、彼(もしくは彼女)は我々に必要最低限の情報しかもたらしてくれません。
おそらく諜報員はAegis本部の位置や使われている通信の暗号、奏星機の詳細なスペックからパイロットの住居に至るまで把握しているはずですが、その一切を胸中にしまい込み沈黙を保っています。
破軍殿が理由を問いただしたところ、その方が面白いでしょう?と笑顔で返されたそうです。
確かに、せっかくの謎に満ちた正義のヒーローが現れたのですから、存分に愉しみたいものではありますが。
その諜報員は皇帝陛下なり八神将なりが全ての情報を公開しろ、と命令すれば素直に応じるのでしょうが、勿論そんな無粋なマネをする者がこの帝国に居るわけもなく。
で、今回諜報員から送られてきたデータが奏星機の固有名詞……だけというわけです。
まあ、確かに一号機、二号機などという呼称では恰好良くはないので、ありがたいことではありますが。
いつか我々帝国が追い詰められることになれば、Aegisの本拠地なども公開してくれるのでしょうかね。
一度くらいは<司令部を生身で蹂躙する悪の大幹部>プレイもしてみたいものです。
輝く星はひとつに非ず。しかし願いはひとつ、想いはひとつ。
さあ双星よ、願いを叶えよ、想いを届けよ。
次回、奏星機グランセリオン第8話「ダブルインパクト」
野望砕くは二つの拳──