第7話 新たなる星 Aパート
誰が鬼畜眼鏡ですか。
自分から話を持ち出しておいて投げっぱなしとは、彼は昔から変わりませんね。
とはいえ、任せていたら纏まらないでしょうから、手短にお話していくとしましょうか。
ええ、と……ああ、この世界に我々が逃亡、もとい侵略のため降臨したところからですね。
脚色するな?
そう言われましても、事実を述べると只の恥さらしですしねえ。
さて、この地球という新天地を目の当たりにし、再び世界征服という野望の火をその胸に灯した我等が魔王様。
チッ、今にして思えば余計な事を。私は戦いに疲れ切っており、穏やかな余生を過ごす気満々だったのですが、ままならないものです。
※
異世界を征服するということで、まずはあらゆる面での情報収集と、勇者一行にボロボロにされた魔王軍の再編成に手をつけることにしたわけですが。
ここで大ハッスルしたのが元・六天魔将の一人<天知総括>現・八神将のイグナーツ殿でした。
元の世界に居た頃から少々痴呆が始まっていた彼ですが、地球の機械文明に触れる事で脳細胞が活性化したのか、貪欲にこの世界の知識を吸収していきました。
そして、我々の持つ魔法と地球の機械を一体化させた、強大な力を生み出しました。
その技術は命を持つ機械の人形や、巨大ロボの開発、異世界の魔獣の再現、果ては宇宙ステーションや海中基地の建設など多岐にわたり、以前の魔王軍を遥かに上回る程の軍事力を持つに至りました。
勿論、そんなものを揃えればタダで済むわけがなく、魔王城の宝物庫はスッカラカンになりましたが。
異世界の宝物など売れるのか、と思う方もいらっしゃるでしょうが、その辺りは前もってリサーチ済みです。
どんな世界にも悪人は居るもので、そういった方々とコンタクトを取り、貴金属や魔道具などを高値で売却することができました。
最初は詐欺師扱いもされたものですが、魔法の一つでも目の前で使ってやれば理解して頂けるものです。
──この頃はまだ「明るく楽しい世界征服」のモットーを掲げる前でしたので、少々手荒な理解の方法を使ったりもしましたが。
そのような手口で、国家レベルでの取引も行うようになり、資金面でも問題がクリアされたことで魔王軍は体裁を整えることが出来ました。
強大な軍事力と資金を手に入れ、かつてない規模に膨れ上がった魔王軍の偉容に満足したのか、しょぼい脳味噌だけの分際で魔王様は新たに自身を<皇帝>と称し、<帝国>の建国を宣言。我々、六天魔将も<八神将>と名を変え帝国の最高幹部として世界征服の一翼を担うことに相成りました。
そして全ての準備が整った日、我等が偉大なる皇帝陛下は世界全土に向け、高らかに宣戦布告を行いました。
大失敗しましたが(笑)。
※
世界中の電波をジャックし、あらゆる情報媒体から高らかに世界征服の意思を告げた我らが皇帝陛下ですが、さすがに緊張したのか、それとも先日導入された新型<玉座>に不慣れだったのか、見事なまでに噛みました。
<大賢者>イグナーツ殿の造り出した各国対応翻訳機が芸術的な精度を見せたため、
「我が名はこうてっ……こて……こうてぃ!」
とドモりまくった皇帝陛下の発言を見事に翻訳、変換したため、当時その世界征服宣言を聞いていた地球人には<皇帝皇帝皇帝>と聞こえたそうです。
翻訳に少々の誤差があったのか、この世界征服宣言を日本で聞いていた<紅>の破軍殿は鼻で笑っておっしゃりました。
「皇帝エンペラーカイザーって何だ、馬鹿なんだろうか、って思った」
なんだろうか、ではなく馬鹿丸出しですが。
あまりにも堂々と名乗ってしまったため、今更やり直しも出来ず、皇帝エンペラーカイザーが爆誕してしまったわけですが、コレだけで済ますならまだしも、我等が偉大なる皇帝陛下は再度やらかしてくれました。
「んっん!げふんげふん!……あー、我がていきょ……ていこきゅ!……帝国!は汝等地球人に宣戦を布告するものである!」
ええ、もうお分かりですね。ライヒ・エンパイア帝国などというふざけた国名になったわけが。
宣戦布告の後半はどうにか持ち直した皇帝陛下が、噛まないように噛まないようにと棒読み口調になりながらも完遂。
最低限の体裁は繕えた……とは思いたいところですが、当時のメディア媒体などを確認してみるに、傍迷惑なパフォーマー集団扱いされてたみたいですね。
間違っているとは言い難いのが何ともはや。
ちなみに帝国の本拠地<シャトーキャッスルブルグ>も翻訳すると<城城城>ですね。これは自棄になった皇帝陛下がもうコレでいいよチクショー!と命名したという由来があるのですが、帝国の恥部でしかないので伏せておきましょう、永遠に。