第6話 空に舞う Bパート
そう、実のところ俺達は異世界からの侵略者ではなく、逃亡者なのだ。
地球から見れば異世界である<透輝世界プルガトリオ>において、俺達は日々戦いに明け暮れていた。
早い話が、その世界においても俺達は皇帝陛下(当時は魔王と称していたが)とともに世界征服を目論み、各国に手当たり次第に戦を吹っかけていたわけだ。
当時、俺とその仲間達は六天魔将と渾名され、殺戮と破壊の限りを尽くし、世界中を恐怖のズンドコに陥れていた。
ちなみに当時の仲間達ってのは、パンツェーセンとイグナーツの爺さん、シルバリオの現八神将の連中と、こっちの世界には来れなかった二人の合わせて六人。
魔王の幹部としては妥当な人数だよな。
んでまあ、その六天魔将を中心にヒャッハーとテンションアゲアゲで世界中を蹂躙してたわけだが──
悪の栄えた試し無し、とはよく言ったもんで、突如現れた勇者と名乗る一行に、俺達魔王軍は完膚なきまでに叩きのめされた。
いや、これがまた本当に強いのなんの。
数年かけて征服した国々は速攻で奪還され、対応策を考えているうちに、あっさりと六天魔将のうち二人が討たれ、あれよあれよという間に俺達は本拠地である魔王城にまで追いつめられていた。
最後の決戦の舞台となった魔王城<黒薔薇の間>にて勇者と魔王様の一騎討ちが始まり──
始まったと思ったら終わっていた。
我等が魔王様、まさかの一発KOである。
魔性の美しさを誇った肉体は四散し、哀れ残されたのは灰色の脳味噌だけときた。
普通ならそこで死んでそうなモンだが、イグナーツの爺さんが「こんなこともあろうかと」と準備していた蘇生装置(厳密には死んではいないから蘇生じゃないが)に放り込まれたことにより、無事……とは言えんだろうが、生き延びることができた。
で、ボロ負けした俺達は脳味噌だけになったわりに結構元気な魔王様の、
「我は必ず復活し、再び世界を手中に収めるであろう」
というテンプレートな捨て台詞とともに、俺達は魔王城ごと異世界へと転移したのである。
負け犬以外の何物でもねえなあ、おい。
※
時空トンネルを抜けると、そこは異世界でした。
いつか自伝を発売するときが来たら導入部分はそんな風にしよう。
さて、俺達魔王軍改め、負け犬集団は見事、新天地である地球へと降り立った。
地図上でいえば北国アイスランドの更に北端。
無論、未知の世界なので各方面へ偵察、探索を密にして分かったのはぶっちゃけ俺達の居た世界とさして変わらんということだった。
風光明媚とは正にこれ、といった雄大な自然ではあったが、内心落胆を禁じえなかった。
だがそれは、一時のことだった。
勿論、アイスランドにも俺達の世界には無い<機械>というものが多数存在し(車とか飛行機とかな)驚愕したもんだが、その驚きは大陸の大都市を目の当たりにしたときに比べれば些細なものだった。
なんだこれは、と思ったね。
並び立つ、雲を突くかの如き建造物の数々。整備された大道を走る数千、数万の車や電車。
それらは北国とは比べ物にならない程に眩く輝き、まさに圧巻といえた。
そして、何よりも人の多さ。おそらく俺達の世界は一億もいなかったであろう人間が、世界中の至る所に溢れかえらんばかりに存在している。
なんて世界だと思ったもんさ。
魔法なんてものはフィクションの中でしか存在せず、俺達異世界人は時代錯誤のコスプレ集団にしか見えないだろう。
どうしたものかと途方に暮れていたんだが、ただ一人、滅多やたらと前向きな人物が存在した。
我等が魔王様である。
新世界を目の当たりにした魔王様は、再び世界征服という野望の火をその胸に灯したのである。
胸も何も脳味噌しかないのにな。
と、その脳味噌がボチボチ培養液を失った<玉座>の中で干からびようとしているな。
誰も率先して助けないあたりが帝国最高幹部、八神将が八神将たりえる所以であろう。
昔語りしてると時間がいくらあっても足りねえな。
後の話は、そこで未だに天を仰いでる鬼畜眼鏡にでも任せるとするかね。
きらめく星が一つだと、誰が言ったか──
少年と少女はその輝きを瞳に映す。
次回、奏星機グランセリオン第7話「新たなる星」
空に舞うは、超新星──