第6話 空に舞う Aパート
空中大決戦を制したのは、無論新たな力を手に入れた奏星機だった。
帝国から提供された技術を地球人が利用した結果、その技術は更に進化、てか魔改造?され奏星機は以前とは比べ物にならない程の強大な力を手に入れた。
力ってかもうデザインからして前と全然違うしな。
以前から騎士の甲冑のような姿をしてはいたが、なんつーの?
ゲームで例えるならクラスチェンジして騎士から聖騎士になったような、無骨さが無くなりスタイリッシュでクールなデザインに生まれ変わった。
うむ、素直にカッコイイな。悪の帝国による世界征服を阻止する正義のヒーローに相応しい姿だ。
しかも先述したように、なんと空まで飛ぶようになってしまった。ブースターに巨大な翼を付けただけの、かなり無理矢理な代物ではあったが、蒼穹を舞い、我が帝国の極東方面軍幹部<恍惚なるカッサンドラ>の駆る鳥型の破壊ロボを光り輝く剣で両断し、敗北へと追いやった。
破壊ロボが大爆発を起こす中、間一髪カッサンドラは脱出装置で空へと飛び出した。
鮮明な立体映像に映しだされるその口元を確認してみると「キィー!覚えてらっしゃい!」的な捨て台詞を吐いているようだ。
悪の帝国の幹部として実に正しい姿である。見習うことにしよう。
まあ、それはそれとして、だ。
「で、どうするんすか陛下。奏星機はパワーアップして復活。それだけならまだしも、帝国はその奏星機に惜しみなく金を注ぎ込んだせいで財政は火の車。ついでに死亡フラグを乱立させたシルバリオは前線に出したらフラグ回収して死にそうなんで使えないときた」
俺、華焔候アインヴァルトは玉座と、眉間に押さえて天を仰ぐ極光のシルバリオを交互に見据えた。
「いや……うん、まあ……」
陛下がゴニョゴニョと言い訳にもならん声を出す。
「ああん?」
その煮え切らない態度が気に食わなかったのか、ヒュンケル皇帝液のジョッキを片手に、楽しそうに立体映像に見入っていた俺の嫁(予定)の傾城娘々が、愛らしくもドスの効いた声で玉座を睨みつけた。
鋭すぎる眼光は、もうそれだけで人を殺せるんじゃないかって程の力を感じ、事実玉座である培養槽がその視線だけでビシッと罅割れた。
「え、ちょ、ちょおおおおお?!」
陛下がこれ以上ないってくらいに絶望に塗れた悲鳴を上げる。あっはっは、愉快愉快。
その無様な様子に満足したのか、傾城娘々は椅子にふんぞり返った。
そして手に持ったジョッキを軽く持ち上げると、いかなる手段によるものか、培養槽の罅割れから間欠泉のように吹き出る黄金の液体が、空中をのたうつ蛇のように動き、掲げた杯の中に注ぐ込まれていく。
まあ、手段が分からんだけで、その行為自体は俺にも出来るんだが。
俺達八神将は人智を超えた能力を誇るが、人間である以上、そんな力を持っていても自分にどれ程の力があるのか、自分でも把握しきれていなかったりするのだ。
だって人智超えてるんだし。
他の八神将のお株を奪うのも気が引けるから試したことはないんだが、おそらくやろうと思えば破軍のようにバリアーを生み出すことも、クロエのように重力を操ることも可能だろう。
だが、それは逆に考えると俺の能力である、あらゆるものを焼き尽くす純白の炎を奴等も使える可能性があるということだ。
いかん、それはいかん。
悪の帝国の大幹部たる者、個性を重視しなければならない。
考えてもみろ。正義の味方がやっとのことで敵の大物を倒したと思ったら、また同じ力を持った敵が現れたりしたら興醒めも良いとこだ。
俺は培養槽の水位が危険粋に達し、錯乱し始めた陛下と狂喜の高笑いを放つ嫁(予定)を見やりながら、思えば遠くへ来たもんだ、とわずかな郷愁にかられた。
異世界より降臨して十年。新天地である地球で再び世界征服に挑むことになるとは、あの世界からケツまくって逃げ出した時は思いもしなかったぜ。
・・・・・・そういえば、傾城娘々に対し、日々熱烈で崇高な想いを送り続けているわけだが、何故か八神将達は俺の事をロリコン扱いするんだよな。
なんて失礼な奴等だろう。俺程の熟女好きはそうはいないだろうに。
相手は二千歳を超える、これ以上ないってくらいの完熟ぶりだぞ?
外見が十歳以下にしか見えないとか、起伏のない未成熟な身体つきとか、偶に見せるあどけない表情に萌えるとかなんて些細な事だろ。むしろそれが良い。
……ん。ロリコンじゃないよな、俺?