くじ引き合戦
ガラガラガラガラ。
「…………おーい」
ガラガラガラガラガラガラ。
「おいってば」
ガラガラガラガラガラガラガラガラ。
「……おい坊主!もう諦めろ!!」
「うおらああああアァァァ!何故出ねえエェェェんだゴラああああああぁぉぁぁぁああああああ!!?」
こんにちは、みのりです。
今日は商店街にお買い物にきています。
その帰りに、八百屋のおじさんから貰った福引券でガラガラ回すくじをやりに来ています。
「どう考えてもおかしいだろうが!!これで500回は引いたぞおい!」
「んなこと言われたって坊主の引きが悪りぃだけだろうがい!」
私たちは10回分くらいしか無かったのですが、本気で一等賞狙った真琴が全部白玉……つまりハズレを引いて目に見えるほど落ち込んでいたので、それを見兼ねたみなさんが分けてくれたのです。しかしそれすらもことごとく外して、いつのまにかここまできたら当てちゃえー、みたいな雰囲気で人集りが……
「ぐぬぬぬ!」
5歳の真琴が頭に青筋を立てながら唸っています。私は息子の将来が心配です。
「あら、室田さんじゃないですか」
ふと聞き覚えのある声が人集りの中から聞こえてきました。
「町田さん! お久しぶりなのです!!」
そこには真琴の友達である雄二くんと、そのお母さんが一緒にいました。
「室田さんも福引? ってすごい量の白玉ですね!?」
「いやー……あははなのです」
町田さんが山盛りになった白玉を見て目を剥いています。それもそうなのです、1000円で10回ですから5万円分ですからね。
「うおー! ゆうじくんもあいびきしにきてたのかあ!!」
「誰がハンバーグ作ろうとしてんだよ。福引だ福引、最近人が減ってきた商店街をどうにかしようとしたおっさんの安い策略に乗ってやってんだよ」
「おいこら坊主、聞き捨てならねえな。商店街の顔役である俺のナイスな考えに文句があるってのかい?」
ひゃあああ!?なんかいつのまにか険悪な雰囲気に。
「つーかやめとけ、このくじ当たんねえから」
「だから坊主の運が悪いだけだってえの!べらんぼうめ!」
「うおー!ひくぞー!!」
「ダメだ聞いてねえ」
真琴がやれやれという風に順番を譲ると、3枚の福引券を会長さんに渡します。
残りの7枚は……あ、町田さんの顔がしょんぼりしてます。たぶん雄二くんが転んで飛ばしちゃったとかでしょうか。
「はん! バカめ、そんな枚数で当たるわけがな「おめでとう!一等賞!」……は?」
カランコローンという景気の良い音が鳴りました。真琴の頭上から覗き込むと確かに金色の玉が転がっています。
「な、なぜだ……っ」
真琴がガックシという様子で項垂れています。しかしこればっかりは順番が関係するものでもないですしね……
「うおーおっちゃん! あとにかいだな」
おっちゃんが頷くと雄二くんはすぐさまガラガラを回します。
まあ、流石に次は白た「おお!おめでとう、2等賞!」……はい?
「「えええぇぇぇ!?」」
思わず叫んでしまいました。恥ずかしい。
それにしても雄二くん運が良すぎではないでしょうか?
「1等はハワイ旅行ペアチケット、2等はお米1年分だぜ!」
「くそ、突っ込みどころが多すぎる。それハワイ旅行より米1年分の方が高えだろ! あと雄二おまえの運はどうなってんだ!?」
てへへと頭を掻く雄二くん。いや、私も流石に驚愕です。
「ほら坊主3回目も引きな」
「なんか嫌な予感がする」
「まーくん、私もです」
カランコローン、景気の良い金が鳴り響きます。
嬉しそうにお菓子の詰め合わせを受け取った雄二くんが、町田さんにピースのしました。
「納得いかない……」
「やったねおかあちゃん! これでねんがんのはわいりょこうにいけるぞ!」
そう言われて町田さんは困ったような顔をしてしまいます。そうですよね、だって……
「雄二、内は3人家族だからこれは行けないんだ。だから残念だけど誰かに譲ろうか」
すると雄二くんが泣きそうな顔をしてしまいました。
「だ、だったらとうちゃんとふたりでいってきなよ! おいらひとりでおるすばんしてるから!」
町田さんも悲しそうな顔になり
「んー、そうもいかないんだ。私はあんた1人を置いてって行っても楽しくないよ」
「でも、だってかあちゃんすごくいきたがってたじゃないか! うぅ……」
雄二くんはいよいよ涙が崩壊しそうです。なんだか私ももらい泣きしちゃいそうです。とよく見たら周りの人たちも目に涙を浮かべていました。
「ったく……しょうがないな。雄二待ってろ」
すると突然、真琴が雄二くんの肩に手を乗っけてそう言いました。残り1枚となった福引券を会長さんに渡します。鼻の赤い会長さんが真琴の目を見て静かに頷きました。
「はー、ラスト1回か……」
ガラガラに手をかけ集中する真琴。そしてゆっくりと、力を込めてガラガラを回します。
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ
永遠にも感じられたその音が、突然止みました。ゆっくり出た玉を確認すると、
「おめでとう坊主! 一等のハワイ旅行ペアチケットだぜべらんぼうめ!」
やっと当たった一等の金色の玉を手に持つと、真琴は雄二くんの元へ行きます。そして
「俺、ハワイ旅行よりその菓子の詰め合わせが欲しかったから交換してくれ」
金色の玉を静かに雄二くんに渡しました。雄二くんは、ものすごく嬉しそうにうん! と頷くと町田さんをぎゅっと抱きしめました。
「ありがとうまーくん!」
そう言われて照れたようにそっぽを向く真琴。福引会場が拍手に包まれます。
普段はドライですけど、本当に優しく育ってくれました。
ふぇ、あれ? なんだか涙が。
私の元に寄ってきた真琴の頭をこれでもかというほど撫でます。まあ、すぐに手を払われてしまいましたが。
その後、町田さんにものすごくお礼を言われてさよならしました。
さて、私たちも帰りましょうか。
「まーくん、今日は特別にそのお菓子全部食べていいですよ!」
「っ!? ……まあ、たまには甘いものでもたべようかな」
そう言って、またそっぽを向く口の端がニマニマ吊り上っているのを私は見逃しませんでしたよ。
自然と手を繋いで帰る2つの影、夕焼けがそんな私たちを優しく包んでいました。
「会長、一等は用意してたの1つだけでしょう。あんたもう1つハワイ旅行は奥さんと行く予定のやつじゃないか。いいんですかい?」
「ばっきゃろう、こりゃ人間のドラマを見させてもらったお礼でい! そもそもこんな状況であいつとの旅行優先してみろい、ぶっ飛ばされちまうわ!」