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親友雄二くん

 こんにちは、みのりです。

 もうすぐ真琴が幼稚園から帰ってきます。

 と、思ってるうちに帰ってきたようです。バスのエンジン音が聞こえてきました。

 玄関を開けると、いつものようにお迎えのバスがうちの前に止まっていました。


「じゃあまたね、真琴くん」


「はい、失礼します」


 我が息子のピシっとした大人な振る舞いに、未だに慣れそうもない幼稚園の先生は、苦笑しながら手を振っています。

 先生に私もあいさつするため真琴の元は近づこうとすると、バスの中から一人の男の子が降りてきました。


「あ、雄二くんのお家はまだだよ?」


 先生が慌てた様子で男の子を止めます。

 するとツンツン頭の活発そうな男の子は、真琴の友達の町田(まちだ) 雄二(ゆうじ)くんです。雄二くんは、先生の顔をじっと見つめ言います。


「せんせえ! オイラまだあそびたいない!! な、まーくんもだろぉ!?」


 まだあまり呂律(ろれつ)の回らない言い方の雄二くんは、真琴に向かって元気よく叫びます。

 するとうちの息子は雄二くんの元へと近づくと、彼のシャツを直しながら言いました。


「雄二、もう散々遊んだだろ。帰れ」


 なんといいますか、幼稚園児なら一緒になって駄々をこねるシーンなのですが……うちの息子は例のごとくキッパリ切り捨てます。

 しかし、雄二くんは諦めきれない様子で「あそぼうよぉ!」と叫び続けます。

 先生も困った顔になりオロオロし始めました。


「いいですよ、町田さんには私から連絡しておきますから」


「そ、そうですか? じゃあすみませんお願いします」


 真琴が、俺は遊ぶとは言ってないんだけど、という目で見てきますが知りません。これも息子のコミュニケーション能力を高める教育なのです。


「おっじゃまーす!」


 雄二くんが元気よくうちに入り、真琴がため息を吐きながらついていきます。なんというか……正直雄二くんはちょっぴりおバカです。今も『しま』が抜けていますし。

 さて、私も雄二くんのママに電話しなければなりません。


『プルルル……ガチャ。はい、もしもし町田です』


「あ、もしもし、室田です」


『あらぁ! 室田さん、突然どうしたの? お元気にしてる?」


「あ、はいお陰様で体調は万全なのです! えーとですね、今雄二くんが遊びたりないそうでうちに来てるんですが、よろしいですか?」


『あらら、本当? ごめんねぇ、いつも。じゃあお願いしちゃうね、後で迎えに行くから!』


「はい、うちはいつでも大丈夫なのですよ!」


 電話を切ります。今日はもうお買い物も済ませてあるので、二人の様子を見られて安心なのです。

 早速、二人が遊んでいるだろうリビングに行きます。


「まーくん、これやろうぜ!」

「え、いい」


「じゃあこれ!」

「やんない」


「わかった! これだな!!」

「却下」


 どうしましょう、様子を見ている方が心配になります……


「まーちゃん、折角雄二くんが遊びに来てくれたのですから何か……トランプですか……確かに二人だと厳しいですね」


 私の知る限り、二人でやって楽しいトランプゲームは『スピード』だけですね。


「いや、オイラふたりでできるトランプゲームしってる!」


「え、どんなものですか?」


 まさかポーカーとかブラックジャックとかでしょうか。確かにあれなら二人でも割と楽しいらしいですが、そんなことを知っているなんて雄二くん実は頭がい……


「……そのなも『ばばぬき』!!」


 そっちでしたか!


「あのなあ、あんなん二人でやったらただ二分の一を争うだけのつまんねえ勝負だぞ。それならじゃんけんの方が早いし楽しい」


 まあ数Aなんかで習う確率問題がすらすら言える幼稚園児もどうかとは思いますが……


「じゃあ一回だけ私も入るのでそれなら楽しいですよね?」


 ご飯も作らなきゃいけないですし。


「まあ、それならいいけど……」


「! おっしゃあ、さんにんならもっとやるきでてきた!!」


 雄二くんがおぼつかなく手札を分けてくれたので、ありがとうと言って自分の前の手札を拾います。


「えーと、二と二に九と九、三と三にババとババ……あれ!?」


 何故でしょう、ババが初期から揃って捨ててしまいました。


「おぉ、まーくんのかあちゃんすげえ!」


「いや、おまえババ二枚入れて分けたろ。ぴったり三で分けてたからおかしいと思ったんだ」


 なんだか子供同士の会話に聞こえません。普通は雄二くんが正しいですよね。


「まあそんなことだろうと思って……ほら、一枚抜いといた」


 なるほど、これならそのまま『ジジぬき』で遊べますね。


「え、ババにまいぬいたからおわりじゃないの!?」


「んな天和(テンホー)みたいなルールねえよ!」


「まーちゃんはそういう知識どこから持ってきてるのです!?」


 別に駄目とは言いませんが結構マニアックな知識です……


「とにかくこれはジジぬきだ。ほらさっさとやるぞ」


「ババがないのにジジがあるわけないじゃん、まーくんバカだなぁ」


「…………よし、雄二歯を食いしばれ」


「まってくださいまーちゃん! 抑えて抑えて!!」


 本気で握りこぶしを作る真琴を必死で止めます。はぁ、子供と遊ぶのは、なんだか想像以上に疲れますね。

 とにかく一から雄二くんにジジぬきのルールを教えます……これなら切り直した方が早かったのでは?


「じゃあ、まずは俺からだ。ほら母さんくれ」


「はいどうぞです」


 真琴の手札は運が良かったようでいきまなり一枚。私は四枚で、雄二くんは逆にとことん運がないのか十枚。これは真琴が一番乗りですかね。


「ちっ、ハズレか」


 流石に一発で一枚を引き当てることはできなかったようです。

 次は私が雄二くんのカードを引きます。私もハズレました。


「うぉ! やったあ、あたりだ!!」


「いや、そんだけあれば引くの当たり前だ……ちっ」


 十五分後


「やったぁおがりだ!!」


「くそ! 何故おまえが最初に終わるんだっ!」


 ()がりについてはツッコミなしなんですね……あ。


「私も終わりました」


「まじかよ! くそ、もう一回だ!」


 相当悔しかったのか真琴がいつもの冷静さをかいて再戦を申し込みます。雄二くんは嬉しそうに「うん!」と返事をしました。どうやら私もまだ終われませんね……


「次は勝つ!」


 真琴の宣言により、ゲームが再開されました。



 ーーーーーーーー



『ピンポーン』


「あ、雄二くんのママが迎えにきたみたいですね」


 ちょうど私がカードを引いてゲームが終了したときにチャイムが鳴りました。


「くそ! なんで一回も勝てないんだっ」


 結局、全試合結果は一緒。どうやら雄二くんはとてつもなく運が良かったようです。


「いやあ、お世話になりました! ほら雄二、あんたもお礼言いなさいっ」


「またあそぼーねー」


「はい、また遊びましょう」


「はぁ……好きにしてくれ」


 バイバイをして町田さん親子を見送ります。二人は楽しそうに夕焼けの中消えていきました。ただ何かを忘れているような……


「あ、そうだ母さん」


「なんですか?」


「結局ずっとトランプやってたけど、夜飯作んなくていいのか?」


「…………あ」


「俺しーらね」


「ちょっと待ってくださいまーちゃん! 一緒に! 一緒にパパに謝ってくださいよー!!!」


 結局間に合わず、また灯夜さんに苦笑で「いつものことだから」と言われてしまうのでした。

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