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デパートパニック

 こんにちは、みのりです。

 今私たちは車で三十分程のデパートに来ています。ここの辺りは結構賑わっていて、来るだけでなんだかテンションが上がってきてしまいます。


「はは、なんだか嬉しそうだね、みのり」


「はっ、私また口に出ていました?」


 口に手を当てて灯夜さんの顔を見ますと、夫はにこやかに笑いながら違うと答えました。


「ん、なんかね、歩くたびに肩が上下してたから。表現的にはルンルンって感じで」


 なんだか恥ずかしいのです。嬉しかったのは事実なんですけど。


「ったく、母さんもいい大人なんだからデパートくらいで浮かれるなよ」


 息子の真琴は灯夜さんの横で、手をポッケに入れながら言いました。

 うぅ、身に突き刺さる言葉なのです。


「それはそれとまーちゃん、ポッケに手を入れながら歩いてはダメですよ。転んだときに危ないのですからね」


 私も子供のとき、寒くて手をポッケに入れながら歩いては転んで後悔したものです。なんせ顔からいくのですから。


「……うっせ」


 なんという言葉使い、と思いきや素直に手を外に出しました。ふふ、第一次反抗期真っ只中なのです。……まあ可愛いから許しますけど。


「それにしても今日は暖かいね。僕は寒いの苦手だからありがたいよ」


 ただいま四月の初めなのです。まだまだ寒い日がたまにくるので油断ならないのです。


「っと言ってる間に着いた。第一駐車場が満車だったからね。第二からは結構あるよ」


 灯夜さんがボソボソ言いながら自動ドアの前に立ちます。するとドアはしっかりと反応して開くので、私たちも後に続いて店内へと入っていきます。


「お、服売り場はあっちだって。先にママからでいいよな? まこと」


「どうぞお好きに」


 二人のお言葉に甘えてとりあえず手近な婦人服売り場に行きます。私は大人なコーデを意識して試着室にはいり、着替えて二人に見てもらいました。


「どうですか? このベージュのロングスカートをポイントにしてみたのですが」


「「うーん」」


 灯夜さんはどこか言いづらそうにしています。と、真琴は特に気遣いもなく高々と発言しました。


「なんか大人っぽく見せようと頑張ってる女子高生みたい」


「はぅ!?」


 地に手をつけて打ちひしがれます。なんとなーく灯夜さんも同じ意見だと分かってしまって余計に辛いのです。

 しょうがなく、大人な洋服たちを元あった場所に戻します。こういうとき、畳み方が分からなくて、ぐちゃっとするとごめんなさいという気持ちになりますね。でも店員さんとお話するのは気がひけるというかなんというか……


「あ、直しておきますよ。お客様、何かお探しですか?」


「わひゃ!? で、でましたね妖怪ヘントウ二コマルーン……あぅ」


「こらこら、店員さんに失礼でしょ。また口に出てたよ、しかも今度はポーズも」


 あいた、慌てて戦闘ポーズを取ったら、灯夜さんに頭をチョップされてしまいました。


「ふふ、可愛らしい娘さんですね」


「え、あ…………」


「そちらは弟さんですか?」


「……………………妻です」


「え…………?」


 なんだか店員さんが灯夜さんのセリフを聞いた途端に微妙な顔つきになりました。固まるような感じです。


「えーと、僕、何歳かな?」


「あ? 五だけど?」


 店員さんが指を折って私の歳を五つ引きます。ただ指の感じが十八からになってたように見えたのは気のせいでしょうか。


「あーえと……どうぞごゆっくり!」


「ちょ!? 店員さん誤解ですって!!」


 引きつった顔のまま店員さんは、急ぎ足で去って行ってしまいました。灯夜さんは「ちくしょうまたか」と涙目になっています。


「んー、若くみられるのは嬉しいのですが、流石に女子高生だと考えるものがありますね」


「あーほんと……少しは老けようね……」


 夫にそんな風に言われる妻って、もしかしたら初めてなのではないでしょうか……


「ほら、さっさと父さんのも見て帰ろうぜ」


「あーもう少しまってください! まだ結局買ってないのです」


 もう背伸びでもなんでもいいですから、とりあえずさっきのを買います。やっぱり自分の好きなものを着るのが一番ですから。


「さて、では次は灯夜さんの番に移りましょう」


 今度は店の奥の方に歩いていきます。どうやら灯夜さんは、デパート内に気に入ってるお店が元々あるようです。

 しばらく歩くと、内装が木でできたなんともオシャレな雰囲気を醸し出すお店に着きました。

 そこだったらしく、灯夜さんはどんどん中に入って行きます。


「あ、あれあれ。前から気になってたんだよね……サイズはいつも通りっと」


 灯夜さんは、ズボンを手にとって試着室に入りました。しばらくすると、中から音がしなくなり一瞬の空白が空きました。

 そして出てきた灯夜さんはまっ暗い顔で


「ワンサイズ上にしてくる……」


 と言いました。

 どうやら私の目は節穴ではなかったようです。


「まこと! そんな目でこっちを見ないで!」


 真琴が底冷えするような冷たい目で灯夜さんを見ます。

 しばらくすると戻ってきましたが、しかし、残念ながらサイズはあれだけだったようです。しょうがなく他の物を買い、支払いの時、ダイエットするぞと呟いていました。


「じゃあどうする? 帰るか?」


「俺腹減った。なんか食おう」


 真琴がお腹をさすってアピールします。


「じゃあフードコートで甘いものなんてどうです? 私この前CMでやってた新発売のクレープが気になってたんですっ」


 すると、乗り気らしい真琴はうんうんと頷きました。


「え、いや僕ダイエットを決意したばっかりなんだけど……」


「「…………」」


 灯夜さんが半目で、何かを訴えかけるように見てきます。私と真琴はお互いの顔を向けると


「「じゃあパパ(父さん)は我慢ということで」」


「そ、そんなあぁ……」


 結局フードコートに行って、我慢できず灯夜さんもクレープを食べたのでした。

妖怪ヘントウ二コマルーン……18から5を引いたら13歳になりますし、流石に気が付きそうなもんなんですけどね……

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