表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

幸せの形

 こんばんは、はじめまして。僕はみのりの夫で真琴の父の灯夜(とうや)です。

 今僕は夜の街を歩いている。同僚の飲みを断って帰宅中だ。理由? そんなの簡単、愛する妻と息子が家で待ってるからね。それ以外に理由がいるかい?

 ちなみに今日も職場でお前は親バカだ、と言われたがそんなのは分かっているんだ! しかし感情なんてどうにかできる訳もないし僕は諦めている。


 いつもの帰路を歩き、ローンで建てた我が家の前まで着く。今日も一日疲れた……が、これでやっとオアシスへと行ける。

 見慣れた玄関のドアを開けてただいまと一言。さぁ我が天使(むすこ)よ、出迎えてくれ。


「あら、パパお帰りなさい。今日も一日お疲れ様でした」


 ……目の前にいるのはエプロン姿のみのりだ。というかだけ(・・)だ。


「あれ、真琴はどうしたんだい……」


「あ、まーちゃんならリビングで何か読んでましたよ?」


 ……本当は「パパ! おかえり!」「ははは、飛び込んだら危ないだろ」的なものを想像していたのだけれど、まあ妻が出迎えてくれただけでもよしとしようじゃないか。むしろ、僕はきっと幸せな方だ。


「パパ、ご飯にする? お風呂にする? それとも……」


 おっとこれは定番のやつじゃないか。

 自分で言うのも何だが、我が妻はとても若く見える。今年で二六の筈だが、その外見は二十才……下手したら十代でも通るのではないだろうか。


「寝ます?」


 そしてちょっと天然だ。

 酔ってもいないのに、帰ってきてすぐ寝るなんてあるのだろうか。ちなみに今は七時である。


「あー、いや、ご飯でいいかな。今日は何?」


「今日はですねー、ハンバーグです!」


 思いっきり魚の焼く匂いが漂っているんだけれど……多分元々ハンバーグを作ろうとしていて言い間違えたかな?


 みのりに鞄を渡して靴を脱ぐ。そのまま廊下を渡ってリビングへ、さあ今度こそ息子と対面だ。


「ただいま〜まこと。パパが帰ってきたぞ!」


 何かを読んでいるって言ってたし、絵本か何かだろうか。


「ああ、うん。おかえり」


 はい、ほぼほぼスルー……チラッと見てすぐ本に戻っていったよ。しかもよく見たら読んでるの芥川龍之介の『羅生門』じゃないか!


「なるほど、生きるための人としてのエゴイズムが表されている訳か」


 しかも完璧に理解してるじゃん! 僕でさえ最初は意味わかんなかったのに!


「お、おーいまこと。そんな本読んでないでこれを読もうよ。ほら、買ってきてあげたよ?」


 子供が好きそうな迷路の絵本だ。本屋さんで見るに、有名なキャラクターが冒険するストーリーのようだ。

 これなら大抵の子供は喜び「パパっありがとう!!」となるに違いない。


「え、いらない」


 あー、うん、そうだよね……大抵(・・)の子供はだよね。


「こら、まーちゃん! パパが折角買ってきてくれたのですよ!」


 みのりが、鯖らしき物を乗っけた皿を運んできてそう言った。やっぱり魚だった。


「……買ってきてくれるんだったら夏目漱石の『こゝろ』がいい」


「それ人生の迷いを解くやつだからね!?」


 はあ、頭が良いと言うかドライというか……まあ可愛いには変わりないけどね。


「まあ真琴のこの性格は今に始まったことじゃないけどね……この様子だとこれもいらないか。はい、みのり、プリン冷蔵庫に入れといて」


「ピクっ…………」


「三つあるからそうだね、明日会社にでも持って行こうかな」


「…………げる」


「ん、何か言ったかい? 真琴」


「しょうがないから食べてあげる!」


 おーっとなんか腕組んで頬を膨らませているぞ。これはあれか、ツンデレか。なるほど、男のツンデレって需要があったんだな、初めて知った。


「母さん、スプーン!」


「先にご飯食べてからですよ〜?」


 小さくチェっと舌打ちする我が息子は、行儀が悪いけど……


「まあいっか。お、美味しそうだな」


 頂きますをしてみんなでご飯を食べる。急いで食べようとしてむせる真琴を、みのりが慌てた様子で背中を叩く。威力が強かったのか真琴がゲホゲホとむせて、みのりを恨めしそうに見た。


「ははっ」


「父さん、何笑ってんだ」


「いや……ちょっとね」


 本当、やっぱり僕は幸せ者だな、と思うのであった。

書いてるとき「あれ? 羅生門だっけ羅城門だっけ? そもそも書いたの誰だっけ? よっしゃウィキ○ディアへゴー!」

……作者は五歳児に負けたのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ