3話 鍛冶屋の仕事 ~ 工房とは! ~
カン!カン!カン!
鉄を打つ音が鳴り響く。
俺は無駄に汗をかきながら、レイピアの鍛錬を始める。
この工房での作業に疑問を持ち、俺は刀鍛冶について調べてみた。
刀匠になるには、親方の下で5年以上の修行(実務経験)をした後に、
文化庁主催の「美術刀剣刀匠」の試験に合格しなくてはならないらしい。
しかも試験は8日間の脇差を作る実技のみだ。
実技は完成した脇差だけで合否判定するのではなく、
作る過程も試験管であるベテラン刀鍛冶がチェックをし、合否判定をするのだ。
5年もの間、恐らくほぼ無給で修業をし、
1週間以上も緊張に包まれた環境での試験は俺には無理である。
しかも、刀鍛冶は武器ではなく美術品と言う観点から
文化庁管轄の国家資格であるらしい。
話を戻すが、この工房での仕事は機密情報なのでここだけの話にして欲しい。
まず、武器の完成図を3Dのイラストを描く。
そしてサウナのような部屋にあるピザ窯の様なもの
(俺たち鍛冶屋連中は「サウカン」と呼ぶ)に素材を入れて、
画面の表示通りに「カン!」「カン!」と音が鳴るようにボタンを押す。
名工とはイラストが上手く、暑い中で音ゲーが上手いことである。
誰だって疑問に思うはずだ。期待していた方はごめんなさい。
俺が鍛冶屋に採用されたのは
3Dのイラストを描く事が得意だったからである。
10分程度でダルさんのレイピアは完成した。
俺は汗ダクである。手拭いで汗を拭きながら小休止をとることにした。
「グリさん。いつも一人の冒険家に時間をかけすぎ!」
今更だが、俺の名前は九里虎だ。『グリコ』と発音をする。
同僚のパンさんが怒っている。
今日はすでに5回目の作業を終えたらしい。かなり疲れている。
「ゴメン!」と言いながら肩をもんであげる。
パンさんが案内をすると冒険家の武器選びは、実に早い。以前、コツを聞いたことがある。
パンさんは展示場での冒険家の目線や表情、しぐさを見れば相手から声をかけられなくても興味がある武器がほぼ分かるらしい。
だから、パンさんからそれらの武器を複数もって冒険家と練習場にいけば、その中で決まると言う。
それができない俺はおかしいと言われ、さらにAIだから仕方がないと呆れられているらしい。
パンさんはこの仕事をする前はWebデザイナーだったらしい。
しかもアルバイトを含めて接客業の経験はないとのことだ。
そんなパンさんこそ絶対にAIだなと思う。
ちなみに女性エルフのパンさんは怒っている顔も可愛らしい。
そんなパンの肩を揉みながらナツさんの事を相談してみる。
答えは、薙刀と適当に他の武器を選んで練習場に行けば決まるとの事だ。
パンさんが対応すれば100%薙刀で決まる自信があるらしい。
ポイントは。
(1)長柄武器は間合いが広いこと。
(2)薙刀はお姫様も使っていた武器であること。
(3)装飾しやすいので可愛い武器ができること。
女性相手であれば(3)はどんな武器でも最後のひと押しに使えるらしい。
ジャンヌダルクの事も聞いてみた。
ナツさんにジャンヌダルクの武器の知識があれば最初から選んでいるらしい。ごもっともだと思う。しかも、ジャンヌダルクのイメージは周りを元気づけた英雄程度の知識だろうから、『行くぞ!』と言いながら薙刀で敵を指す真似をすればジャンヌダルクもそうしたと思い込み確実に決まると淡々と言う。本当かな?
肩もほぐれたので早く決めてこい!とパンさん送り出される。
ナツさんの武器がすでに決まっている事を祈りながら、俺はレイピアを持って展示場に戻る。
だが、二人は展示場にはいなかった。練習場には俺たちがいないと入れない。と言うことは残るは喫茶室しかない。あの後直ぐに決まって待たせてしまったかな?
喫茶室で楽しそうに談笑をしている二人を見つけた。
ダルさんも俺に気が付き
「おかえりニャン。なかなか武器が決まらないニャン。」
武器はまだ決まっていなかった。息抜きにお茶を飲みながら、色々な武器の使い方やモンスターについて教えていたらしい。
まずはダルさんにレイピアを渡し、見てもらうことにした。
「流石ですニャン」
ダルさんに気に入ってもらったようだ。
隣でナツさんが
「可愛い」と「いいなー」を連発している。ダルさん以上に鞘の装飾を気に入っているようだ。
展示室あるサンプル武器は、初期に作れる物が置いてある。初期は素材が限られているので装飾がないシンプルな武器だ。
「さっき話していた装飾素材だニャン!最初から可愛くできるニャン!」
ダルさんがナツさんに余った星石をプレゼントしてくれた。これで最初から装飾つきの武器を作ること出来る。
三人で展示場に戻るとナツさんから
「ダルさんが長柄武器をオススメと言うので、グリさんがその中から選んでください」
とお願いされる。
早速、薙刀を勧める。
説明をしようと思ったが、「はい。では、それにします。」と即決になった。ダルさんも薙刀が良いと勧めていたそうだ。もし、俺が別の物を勧めたら検討しようと思っていたらしいだが、喫茶室で装飾についても二人で決めていた。
感触も確かめなくて良いというので早速、工房で作ることにする。
出来上がった薙刀を
『行くぞ!』と言いながら敵を指す真似をしながら見せる。
ナツさんはキョトンとし、「それギャグですか?」と対応に困っている。
ジャンヌダルクだったら・・・と言うと「それ恥ずかしいですよ」と笑われてしまった。
最後の最後までダメダメだなと俺も苦笑する。
薙刀を渡すと柄の部分についたキラキラを可愛くできたと喜んでいた。
ダルさんが明日、3人でナツさんのレベルアップの手伝いを提案してくる。
夜勤明けなので、仮眠しても夕方頃からなら大丈夫だ。
一緒に行く約束をする。
二人を送り出しに外へ出るとすでに太陽が沈んでいた。
「また明日ニャン」とダルさん、
「眠くて死にそうです」とフラフラなナツさんが帰って行った。
現実の世界では日付が変わるころだと思う。
恐らくこの後は退屈な時間が待っているのだろう。
夜勤の後半はいつも退屈だ。