2話 鍛冶屋の仕事 ~ 展示場での出来事 ~
フゥン~フゥフゥフフゥ~ン♪
女性冒険家が展示場でサンプル武器を選んでいる。
鼻歌を歌いながら、博物館で展示品を見るように
一つ一つ時間をかけて武器を選んでいる。
この鍛冶屋には工房のほかに、
サンプル武器が展示されている展示場、
武器の感触を確かめられる練習場
コーヒー等を飲みながら話し合いができる談話室と
4つの施設がある。
俺たち鍛冶屋の店員は展示場で冒険家を待ち、
サンプル武器をもとに、冒険家の希望通りの武器を作るのだ。
武器は形や長さだけではなく装飾等も個々に作成する事が出来るので自分好みのオリジナル武器を作成することができる。
展示場には、サーベルや日本刀などの刀、
グレートソードやレイピアなどの剣、
ランスや槍などの長柄武器、
その他、鈍武器、射撃武器、投擲武器、格闘用武器と7カテゴリー約300種類のサンプル武器が展示されている。
彼女は一通り見終えて再度、射撃武器で足を止めた。
「これを試しても良いですか?」
クロスボウに興味を持ったようだ。
だが、俺達は射撃武器を新米冒険家にはオススメしていない。
新米冒険家が最初に作れる武器は1つだけである。
弓系の武器は動いている敵に命中させることが困難な上、一射で仕留められない時に、次の攻撃に時間がかかる事など単独行動には不向きだからである。
だから、弓系の武器は接近戦用の武器に慣れて、
その後にサブ武器としての利用を勧めている。
彼女にも説明をしたが、それでも挑戦したいというので練習場に案内し、射ってもらう事にした。
まずは28m先の静止している的に向かって5射してもらう。
野球の塁間が約28mである。
人間相手でも狙いを外したら
次の攻撃準備が整う前に相手が目の前にいる距離だ。
彼女は「ヨッ!」と発しながら弓を放つ。
一射目から的に命中した。
得意げな顔で俺に「すごくないですか?」と言い、
「ヨッ!」「ヨッ!」と残りの矢をリズムよく放つ。
結果五射中四射が的に命中している。意外にセンスがある。
「初めてで四射命中するのはすごい!」と声をかけ、
続いて動いている的に向かって五射してもらう。
結果は一射も的に命中しなかった。
これで難しさを解ってもらえると思ったが、
「練習すれば当たります!」と、しかめ面になる。
余りにも悔しそうなので再度、十射挑戦させてあげることにした。
「ヨッ!」「ヨッ!」と毎度、声を発しながら弓を放つ。四射目は的に掠るものの一射も命中せずに残り一射になる。
最後の一射にはかなりの時間をかけて狙いを定める。
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「ヨッ!」・・・バシン!見事命中した。
目を大きく見開いて「やった!やった!」とピョンピョンはねている。
俺にVサインをしながら
「もっと練習すれば負けないようになります」と力強く言う。
誰に?何に?負けないと思いながら、俺は空になった弓入れを指す。
回収しないと弓がないのだ。
一瞬首を傾げ、ハッとした表情になる。
矢が尽きた事に気が付いてくれたようだ。
弓系の武器は現実の世界同様に持ち運べる矢の本数に限度があり、
使ったら回収するか買い足さなくてはならない武器なのである。
彼女は少し考える素振りをして「別の武器にします」と足早に展示場へと戻ってしまった。
俺も一人で矢を回収して展示場へ戻る。
彼女は投擲武器を熱心に見ていた。
手裏剣やトマホーク、鎖鎌など投擲武器は種類が多い。
金平糖のような武器を見て、突然きょとんとした顔になる。撒菱だ。
ほっぺをツンツンしながら考え込んでいる。
撒菱は攻撃する為の武器ではない。
ピンチの時に撒いて逃げる武器だ。
教えるとカクンと右足の力が抜けて、
こけそうなリアクションをとる。
本当に面白い娘だ。
遠方からの攻撃がしたいのであれば
魔法を覚えればと奨めるが、興味がないらしい。
魔法使いは、シワシワで鼻が三角のおばあちゃんのイメージがあるし、
ジャンヌダルクみたいな鎧を着たいと目をキラキラさせて語り始めた。
ジャンヌダルクの武器は何だろう?
旗を持っているイメージしかない。
「こんニャンは」ダルさんがギャラリーに顔を出した。
レイピアの武器レベルを上げて、
鞘に星石の装飾をして欲しいと言う依頼だ。
丁度良いタイミングで助っ人が登場した。
「触っていいですか?」
ダルさんと言うより猫族に興味を持ったようだ。
ダルさんが答えるよりも先に「モフモフ!」と言いながら、しっぽで遊んでいる。
猫好きのようだ。
勢い余ってほっぺをプニプニしたらダルさんはどんな
リアクションするだろうと思っていたが流石にそれはしなかった。
「お手々も見せてもらっていいですか?」
ダルさんも言われるがままに手を見せる。
「なんと!」目も口も大きく開けるリアクションだ。
「驚きです。肉球がないですよ!」と俺に言ってくる。
当然だ!肉球があったら物を握れなくなってしまうと思いながらも
どさくさに塗れて俺も「足にも肉球はないの?」と
ダルさんに聞いてみる。
足には肉球らしき物があるらしい。ダルさんはバツが悪そうに答える。
彼女は突然、素に戻り、
「あっすみません!私『ナツ』と言います。
今日からゲームを初めて、ここで武器を選んでいました。フレンド登録をお願いします。」
とダルさんに自己紹介を始めた。
フレンド登録をし合えば、相手のステータスが見られるようになる他、
随時連絡を取りあえるようになる。
彼女にとって1人目のフレンドだったようだ。
彼女は「ちょっと待ってて下さいね!」と言い
入り口まで駆け足で行ってしまった。
早速、ダルさんとテレパシー(通信機能)を使って
会話をしているようだ。手を振りあっている。
俺は蚊帳の外だ。
そこで、ダルさんにレイピアを鍛錬している間、
二人でナツさんの武器を選ぶようにお願いをし、工房に入ることにした。
戻ってくるまでに、ナツさんの武器が決まっていれば良いなと思いながら、俺は展示場を後にする。