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1話  この世界

ピピピ!ピピピ!ピピピ!


音と共に左上あたりで時計のマークが点滅をしている。

町に戻らなければならない時間だ。


コフリンがこん棒で襲いかかってくる。俺は難なく攻撃をかわす。

コフリンは上からこん棒を振り下ろす攻撃しかしてこない。

だから、コツを覚えればコフリンの攻撃を簡単に避けることできる。


「ダルさん!今日は、これがラストね」


新米冒険家のダルさんに声をかけ、コフリンの腿を切り裂く。

コフリンの攻撃は単調であるが、すばしっこい。

経験が浅いダルさんでは攻撃を当てることが難しい。

だから、俺が機動力を奪って、ダルさんがとどめを刺す作戦だ。


ダルさんが「オッケーニャン!」と言いながらレイピアでコフリンの胸を突き刺す。

「ギャピー」と絶叫しながら、コフリンは後ろに倒れこんだ。

今日は2人で8匹のコフリンを倒すことができた。ダルさんのレベルも3になり、

コフリンを一人で倒せる力が付いた。


ここはラックス社が2032年に発表したMMORPG「リアールフリー」の世界である。

AIの技術も進化をし、今やNPC(ゲーム内の住人)も感情を持ち、

状況に応じて回答も行動も出来るように進化をしている。

この世界では、NPCの中に人間が操作しているキャラクターを配置し、

それを見破ると豪華プレゼントがもらえるイベントを実施している。


この町には50人ほどのNPCがいる。その内5人の住人は人間が操作しているらしい。

そして俺はその一人として、この世界の鍛冶屋で働いている。


仕事以外の時間も同じキャラクターでプレイすることが許されている。

だから俺は鍛冶屋をしながら、休みの日は狩りや探索にも出かける。

この世界では、新米冒険家が町の外に出る前には必ず鍛冶屋で武器を作る必要がある。

必然的に、新米冒険家と出会う機会が多い。

だから、今日のようにレベルアップの手伝いもしている。

ダルさんもレイピアを作りに来た客である。


ダルさんの名前は、「ダルタニャン」である。

三銃士が好きで主人公の名前を付けたらしい。

(三銃士の主人公はダルタニアンだと思ったが、

後で調べたら「ダルタニャン」で正しいらしい。)

しかも、ダルさんは、名前の「・・・ニャン」から種族は猫族を選び、

言葉尻には「ニャン」をつけるおまけつきだ。


この世界では種族や性別を含めた外見などを自由に設定することができる。

俺は男性ヒューマンを選んだ。白髪の短髪、小柄で細身の筋肉質、

そして酒焼けしている鼻など俺なりの職人をイメージして設定した。

しかし、ヒューマンを選ぶハンターは、ほとんど美男美女になるように設定している。

時々、受け狙いで個性的な風貌に設定する冒険家を見かけるが、

俺はどちらかというと控えめなタイプだ。外見では目立ちたくはない。

格好良く設定するか、ファンタジーの世界で鍛冶を得意とされている

ドワーフを選べば良かったと思う。


だが、リセットをする事は出来ない。

現実とは異なる性別を設定して後悔している冒険家も実は多いと思う。

話をしていると残念ながら本当の性別がわかってしまうものだ。


先程のアラームは鍛冶屋での仕事が始まる一時間前の合図である。

今日は現実の世界で17:30から始まる夜勤シフトだ。

現実の世界が4:00に、この世界では0:00を迎える。そして2倍の速さで時間が進む。

つまり、この世界で今は2:00頃である。


空を見上げれば、都会では見ることのできない星空が広がっている。

街道沿いの草むらでは虫が鳴き、心地よい風も吹いている。

現実世界の山郷に来ている感覚を味わうこともできる。

雨も降るし雷が落ちることもある。

そして、暑さ寒さもある。時間の進みが早い以外は、

ほとんど現実の世界と変わらない環境が再現されている。

これは今どきのRMMORPGの標準的な仕様である。


「虎の実食べるニャン?」


町への帰り道で、ダルさんがポーチから黒と黄色の虎模様の果実を取り出す。

コフリンを倒していた森で採ってきた果物だ。この果物はスタミナ回復の効果がある。

「ありがとう」と答え、かぶりつく。

「クァ!」顔のパーツがすべて中心によってしまう。

ものすごく酸っぱい。隣のダルさんも耳を立てて目が完全に閉じている。

表情が猫顔なのでわかりづらいが、酸っぱい時の表情なのだろう。

体も完全に硬直し尻尾も猫じゃらしのように膨らんでいる。


この果実はリンゴの食感で味がレモン!

このゲームで重要なアイテムだと俺は考えている。

スタミナ回復のアイテムは別の物もあるが、

お金を使わずに簡単に手に入るアイテムなのである。

森で手に入るのでお金を使う必要もないし、

回復アイテムがないからと言って都度、町に戻る必要がないのである。

この果実が食べられればレベルの低い新米ハンターでも長時間、冒険をする事も出来るのだ。

俺もはじめは一個食べるのに苦労したが、今はこの感覚が癖になっている。


このゲームは世界初の味覚を含めた五感全てを体感する事も売りにしているのだ。

但し、攻撃を受けた時は衝撃だけで痛みはない。

痛みがあったらハンターが集まらないから当然の仕様だと思う。


俺たちは町に向かって再び歩き出す。

ダルさんから貰った虎の実のお陰でスタミナがMaxに回復し足取りも軽い。

これからの始まる鍛冶屋の仕事も頑張れそうだ。

町に着くと、ダルさんと別れ俺は鍛冶屋に向かう。

深夜だというのに酒場からの笑い声が響いている。文字通り眠らない町だと思う。


俺は現実の世界のトイレに行くために一旦ログアウトをする。

これから長い深夜勤務が始まるのだ。今日はどんなお客さんが来るのだろう。


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