隣村にあった手紙
愛するカローナへ。
元気にしてるか?
俺は、正直元気じゃない。
最近、妙なことが続くんだ。
「明日、畑には行くな」
突然だったんだよ。
俺の頭に、何かが棲みついたんだ。
毎日毎日声が響いてさ。
別に、俺、何にもしてないんだぜ。
ただ「先のことがわかれば便利なのに」って思っただけだよ。
それなのに、何かの声が警告するんだ。
「川には近寄るな」
「明日採れた茸は口にするな」
「大雨が降るから傘を持っていけ」
それがさ、全部当たるんだよ。
怖いくらい。
いいだろ?
明日のことを教えてくれるんだ。
この声に従っていれば、俺は一生困らないんだ。
そう、思ってたんだけどな。
村のみんなが、死ぬんだよ。
俺が回避した危険がさ、村の人たちのところに行っちまうんだ。
畑の溝で足を滑らせ。
増水した川に流され。
珍しい毒茸を食べて。
もう何人も死んだ。
俺が殺したようなもんだ……。
俺の村は31人しか人がいない。
1月もすれば、みんな死んじまう。
俺が声を無視して死ねばいいのに、どうしてもできねぇんだよ。
そうやって今日、な。
また、声がしたんだ。
「土砂崩れでお前の村は滅ぶ」
なぁ、俺、どうしたらいいんだろうな?
今度こそ、みんな死んじまう。
どうすればいいんだ?
土砂崩れなんて俺1人が死ぬだけじゃ済まない。
本当の本当に、みんな死んじまう。
俺はもう嫌だ。
今から、俺は死のうと思う。
俺が死ぬって運命を回避したせいでみんなが死んでるんだったら、俺が今死んだら明日の土砂崩れはなくなるかもしれないからな。
最期におまえに会えないのが心残りだ。
カローナ、愛してる。
実は、来月おまえの村へ行ってプロポーズするはずだったんだ。
だけど、もう、無理だ。
ごめんな。
俺がまたどこかで生まれ変わったら、今度こそ一緒になろう。
愛してる。愛してる。愛してる。
何度でも言う。
最期まで、俺はおまえを愛してるから。
じゃあな。またいつか。