死んだ村
この国の端っこ。
王都から遠く離れたところに、とある村がありました。
その村には、なんにもありませんでした。
街で開かれているような大きな市場も___。
レンガ造りの立派な家も___。
お金持ちの雇うボディーガードも___。
なんにもありませんでした。
でも……。
澄んだ川と、広い広い土地と、美味しい空気がありました。
村は決して豊かではありません。
ですが、村の人が誰一人飢えないだけの実りはあります。
穏やかに、緩やかに村の生活は回っていました。
ただ、村には悩みの種がありました。
村人が、なぜか次々と死んでゆくのです。
殺されたわけではありません。
ある者は、畑の溝で足を滑らせ___。
ある者は、増水した川に流され___。
ある者は、珍しい毒茸を食べて___。
事故で、死んでしまいました。
そして、ある嵐の日……。
村を土石流が襲いました。
遠く離れた隣村の住民が、土砂を掻き分け、次々と村人を救出しました。
でも、息をしていた村人は、誰もいませんでした。
この村の住民の数は、31人。
掘り起こされたのは、30人。
何度数えても、あと1人見つかりませんでした。
隣村の村人は、土砂に深く埋もれてしまったんだろう、と言いました。
生きていたとしても、これだけ時間が経ってしまえば見つからないと。
こうして、あと1人の村人の捜索は打ち切られました。
そして、その村には誰もいなくなりましたとさ……。