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終章(第三部)

 ハーモニアはニコリと笑うと、セレンと共に五人の方へ足を進めた。

 ニリウスとクィーゼルに「楽になさい」と言い、皇族であるスウィングとシャルローナに一礼する。


「お二人が別邸にいらっしゃった事を知らされておきながら、ご挨拶の一つも申し上げなかった事を、深くお詫びいたします」


 本来なら、従姉弟いとこ同士、対等な会話が許されるべきであるこの三人だが、ハーモニアは事実上貴族の身分であるため、それは許されない。


「主人はちょうど家を出ていましたので、私がせめてお見送りをと思い、ここまで参りました」

 笑みを浮かべてはいるが、ハーモニアの顔色は悪い。無理を押してきたのだろう。


「馬車をお使いになるのでしたら、どうぞ、後ろに控えている馬車をお使いくださいませ。小さな型ですので、目立ちませんから」

「シャルル」

 スウィングが判断を求める。


「ここからドルチェの森へは、街も何もない長い道のりだと聞きます。お心遣い、まことに感謝いたします。馬車は喜んで使わせていただきますわ。ニリウス、クィーゼル、荷物を積んで準備を」

「「はい!」」


 二人の声が重なる。

「姉様、これ……」


 セレンが遠慮がちに差し出したのは、エルレアが本邸に置いてきたはずの鈴のブレスレットと銀の髪飾りだった。

「どうして、これを?」


「姉様は信じてくれないかもしれないけど、姉様が居なくなってから、この鈴の音が鳴り止まなくて……それで」

 鈴が一人でに鳴る?


「鳴っていないが?」


「今やっと止まったんだよ! 何でかは知らないけど、姉様の部屋からずっと聞こえてて……姉様が持ってなきゃいけない気がしたんだ。この髪飾りも、その傍にあったから」


「そうか……」

 エルレアはブレスレットを右腕に通し、髪飾りを高く結んだ髪に挿した。


「姉様! あの……僕も連れていってほしいって言ったら、怒る?」

「……お養母様」

「行くと言って聞かないの。だから、貴方が決めて頂戴。その方がこの子も諦めると思うし、連れて行くなら、私たちが諦めるわ」


 私たち、と言うと、やはりコーゼスも反対しているようだ。

(あの父に反抗するようになるとは、セレン…強くなったな)


 エルレアはセレンを見つめて言う。

「旅は危険と隣り合わせだ。自分を守れるか?」

 するとセレンは馬車の方へ走り、何かを取り出して背負うとまた走って戻ってきた。


「弓と矢……」

(そういえば、弓術を習っていると聞いた事がある……)


「うん、見てて」

 そう言うとセレンは、弓に矢をつがえて遠くにある木を狙う。


 風に散った落ち葉が宙を舞う。

 タンッ!


 小気味良い音がして、セレンの放った矢は落ち葉を木の幹に縫いとめた。


 タンッ!

 更にもう一枚。

 視覚で捕らえるのも難しい距離で、である。


「実力があるのは認める。だが、それを実戦で使った事は?」

「狩りに行った時に。」


「では、人を射た事は?」

「無い、です……」

 それは当たり前だろう。


 あったら怖い、とスウィングとシャルローナは思ったが、エルレアの言いたい事は何となく分かった。

 人を射る覚悟はあるのか、と。


 この先、敵が動物である可能性は高い。しかし、森の中に居るのは動物だけとは限らないのだ。

「できるか」


「怪我をさせるくらいなら……でも、どんなに悪い人でも、命だけは奪いたくないよ……」


(姉弟揃って頑固なのは父親譲りか? “エルレア”。)

 からかうように、そんな考えがエルレアの頭に浮かぶ。


「スウィング、シャルル、決めてほしい」

「そうね……私は構わないわ。自分の事を自分でできるのなら」


「僕も構わないよ。ちょうど、僕たちの中に遠距離戦が得意な人は居ないし」

 ちなみにニリウスとクィーゼルの武器は拳とケリ。間違えようの無い近距離型の戦士だ。


「決まりね。ついてくるなら勝手になさい。ただし、少しでも足手まといになれば、即帰ってもらうわよ」

 馬車の方から、準備ができたと合図を送るニリウス。


「行きましょ。グリーシュ夫人、では、これで」

 シャルローナの声に、ハーモニアは深々とお辞儀をする。

「お気をつけて、シャルローナ様、スウィング様。セレン、お二人に失礼の無いように。エルレア」


 セレンを先に行かせ、ハーモニアはエルレアだけに聞こえる声で言った。

「謎は解けたかしら?」

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