終章(第一部)
朝日がグリーシュ別邸、オパールを照らし出した頃。
金の髪が腰のあたりまである少女が、肩に白いカバンをかけ、オパールの回廊にある一枚の肖像画の前に立っていた。
☆☆☆
(……よし!)
気合いを入れて、ニリウスは部屋を出た。
殴られた頬は案の定青アザになっていたが、放っておいてもじき治るだろう。
今はそれよりも、クィーゼルに同行を許可されなくてはならない。
(って言っても、どうするかな~、下手な事言ったらまた……)
いや、今度はアッパーが来るかもしれない。
(いっそ、何も言わねぇ方が良いのかも……)
と考えながら歩いていたニリウスは、角を曲がろうとした時、誰かとぶつかってしまった。
「んあっ! す、すまねぇ……って」
体格の差から後ろに倒れそうになった相手を、とっさに腕を掴んで支えたニリウスだったが、そのぶつかった相手に気付くや否や、パッと手を放した。
(ク、クィーゼル……)
あからさまに嫌そうな顔をして、彼女はニリウスを見上げた。
(いけねぇ、怒ってる……)
向けられた視線の意味を、“何? 一緒に行くつもりな訳? お前”と解釈したニリウスは、焦って言葉を続けた。
「俺っ、ついてったら駄目か…!?」
瞬時に、クィーゼルの目元が更に厳しくなる。
バシッッ!!
「……っ!!」
昨日殴られた頬を再び引っぱたかれ、ニリウスはその激痛に唸る。
(……ん?)
「下らないこと聞いてる暇があんなら急ぎな」
スタスタスタ、と通り過ぎていくクィーゼルを、ニリウスは呆然と見送った。
湿布だったのだ。
今、クィーゼルに貼られたのは。
ニリウスは勘違いをしていた。
クィーゼルが苛立ったのは、彼が頬に何の処置もしていなかったからなのである。
(……?)
しかしこの時ばかりは、幼なじみの彼にも、彼女の気持ちを理解する事ができなかったようである。