表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/29

第九章 君に誓う(第二部)

「グリーシュの、罪? グリーシュの、罰……? 何だよそれ、訳分かんねぇよ!! そんなものの為に、あいつは死んだってのか!? どうかしてる……!! あいつも、お前も!!」


 ニリウスへの怒りを消せないまま、クィーゼルは叫んだ。

「“エルレア・ド・グリーシュ”は、自ら死を選んだ」


 金髪の少女は、スカートが汚れるのも気にせずにスウィングの横に膝をつき、緑の瞳で十字架を見上げた。そして、静かな声で続ける。


「彼女の願いは叶えられた」

「それが何だよ! 分かってるよ、そんな事は!!」

「なら何故彼女の答えを受け止めてやらない!! それがどんな結果であろうと、“エルレア・ド・グリーシュ”が必死で導き出した答えなら、認めてやるのが友達だろう!」


 強い、しかし冷静さを保った口調で金髪の少女は言った。

「……お嬢に何が分かるんだよ……!」


「ああ、分からない。“エルレア・ド・グリーシュ”がどんな人間だったのかも、今聞いて知っただけだ。だがそれでも、彼女の気持ちは身近に感じる」

 恐らく今、自分が彼女と同じ立場に立たされたなら、同じ事をするだろう。


 自分の為に誰かの命が奪われるのは辛く、そして怖い。

 大切な人の命であれば、尚更の事。


「彼女の選択を否定したなら、彼女の気持ちまで否定する事になる。クィーゼル、生前(かこ)の“エルレア・ド・グリーシュ”に未来(いま)のお前がしてやれる事は、“エルレア・ド・グリーシュ”の遺した気持ちを認めてやることなんだ!!」


「……」

「お前が認めてやらなくてどうする……親友じゃないのか、“エルレア”は」


 クィーゼルは何も言わずに身を翻し、来た道を走り下っていった。

「まるで……浅ましい自己弁護だな」


 金色の髪の少女の心には、嫌なわだかまりが残った。

 “エルレア・ド・グリーシュ”を想っての言葉だったのに、自分が言ってしまうとまるで。


(己の存在を認めてほしいと言っているようだ……)

 自分が、“エルレア・ド・グリーシュ”としてここに在る事を否定するなと言っているようだ。


「気にしなくていい、嬢さん。あいつはちゃんと分かってる。あいつは自分が正しいと思っている内は、どこまででも食いかかってくるんだ。あんな風に逃げるのは、頭で分かっててもそれを認めたくねえ時。時間をやれば、自分で頭の整理をする奴なんだよ。……でも俺にはもう二度と、まともに口きいてくれねえかもしれねえな……」


 口元に滲んだ血を手の甲で拭うと、ニリウスは空を見上げた。

「これで良かったんだ、エルレア……」 


「……ニリ」

 スウィングは立ち上がり、ニリウスを見た。

「“罰”を終わらせることは、できないのか?」

「……分からねえ」


「確実なのは、何もしない限りそれがこれからも続いていくという事だな」

 金髪の少女が言う。

 セレンからセレンの子供達へ、そのまた子供達へと。


 殺され、殺し続ける。

「貴方は間違っていなかった、“エルレア”……セレンを助けるためには、そうするしかなかったのだから。でも今なら、まだ他の方法があるはず。貴方には無かった時間が、貴方が作ってくれた時間が、私達には有るから」


 少なくとも、次の“狩人”が現れていない今ならば。

「きっと、終わらせる」

 木の陰に身を潜めていた黒髪の少女も、これを聞いていた。


 白い十字架の下、四人はそれぞれ自分の心に誓った。

 ゆっくりと、ゆっくりと、歯車が動き出す。


 緑の瞳に秘められた避けようのない運命が、追憶の中で少女を待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ