第九章 君に誓う(第一部)
『グリーシュ』
古代リグネイの言葉で『皇室』の意味を持つ。
そしていつからか、その言葉は別の意味をも隠し持つようになった。
即ち。
『咎人』
リグネイ帝国最後の皇帝が、天に対して大罪を犯した時、その罰の一部として帝国民の半数以上の命を奪い、天は皇帝に告げたという。
“この罪科、汝と民のみで購うこと能わず。汝の子孫全てがその罪を背負い、死んでゆくであろう。大陸の滅びを招きたくなくば、狩人よ、我に贄を与えよ。”
グリーシュの継承者に選ばれれば“狩人”。そうでなければ“贄”。兄弟姉妹の内、“狩人”に選ばれなかった“贄”の者達は、希少な例を除いては、全て肉親の手により殺されてきた。
その希少な例が、“狩人”自身が“贄”となる事である。
生かすべき子供と、殺すべき子供。“狩人”の刻印が存在するのは、グリーシュにとって或いは、幸運なことだったかもしれない。殺す子供を選ばずに済むからである。
生き残る子供は、必ず一人。
どれほどの年月が経とうとも、常にグリーシュの一族が一つの家だけで成り立っていたのは、ここに理由があった。
断絶しかねない状況で、しかしそれは許されなかった。
大陸の滅び。つまりそれは、民の滅びを意味する。
血を絶やさぬこと。“贄”を捧げ続けること。
旧リグネイ帝国の大部分の民を失っても。
大陸に移り住んできたオルヴェル帝国の皇族達に、国を奪われても。
かつての皇族として、大陸を護ろうとしたグリーシュの凄絶な歴史だった。