第八章 生きる資格(第二部)
エルレア。
俺達は、お前の為に何ができたんだろう。
☆☆☆
陽の光が弱まった。
夕日がついに世界から消えようとしているのだ。
ニリウスは金色の髪の少女の対峙したまま動けなかった。
夜になれば、“儀式”が行われる。
「さ、早く、ニリ。間に合わなくなる前に!」
「………」
「ニリ。お願い!!」
この世の全ての物が、時を止めたように変に静かだった。
自分の鼓動の音だけが聞こえる白い空間で、構えなおした重い剣だけが唯一存在感を保っていた。
狙いを定めた自分は、そのまま駆けた。
嫌な感触が手のひらに伝わり、生ぬるい液体が自分の顔や手に飛び散る。
急速に現実に引き戻されていく自分を、ふんわりと優しいぬくもりが包んだ。
手には再び、押されるような抵抗。
「エルレア……?」
剣は一寸の狂いも無く少女の胸を貫いていた。
少女の身体を貫き、赤く染まっている刀身。
抱きしめられた腕から、力が抜けていくのを感じる。
「エルレア、エルレア……!! ごめん……っ、ごめん……っ!!」
崩れるように床に座り込んで、ニリウスは涙をこぼした。
「……ぅして?」
『どうして?』
震える手をニリウスの頭に伸ばし、少女はその茶色の髪を撫でる。
やがてその手が空しく落ちるのを、その顔から笑みが失われるのを、ニリウスは見ている事しかできなかった。
明日、三人で花を摘みに行こう。
次の春も、また次の春も、きっとそんな風に三人で過ごせると、何の疑いもなしに信じ込んでいた。
自分が……この手で。
「うわぁぁぁぁぁ―――!!」
ニリウスは動かなくなった少女の身体を抱きしめて、大声を上げて泣いた。
声が枯れてしまうまで泣き続けた。