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第四章 理由を知りたい(第二部)

 紅の髪が、首を傾げる動きに合わせて揺れた。

「どうして、あんな北の辺境へ?」

「さぁ……それは分からないけど、兄さん達がドルチェの森に向かったのは確かだよ」


 スウィングはベッドから半身を起こした姿勢で応じる。

 シャルローナの横には黒い髪の少女と金髪の少女が立っていた。

 ニリウスはオパール邸内で仕事をしている。


「理由はどうあれ、今すぐに出発は無理ね。あと一日は休んでもらうわよ、スウィング」

「先に行ってもいいんだよ、シャルル」


「そう言って、後をこっそりついて来るつもりでしょう。却下です」

「どうしてそんなに信用ないかな、僕は」

 苦笑いをした後、スウィングはシャルローナからずっと黙り込んでいる金髪の少女へと視線を移した。


「エルレア? どうかした?」

 そう言われてからも、緑の瞳は少しの間物思いにふけっていた。

 やがて、少女がスウィングの青い瞳を見返して口に出した言葉は。


「私は……旅をやめる」


 雨の音が少し静かになる。

「ニリとクィーゼルは、二人の身の回りの世話を続けてくれ」

「ちょっと待て、お嬢!?」

「どうして?」とスウィング。


(これ以上、迷惑をかけたくない……と言っても通じないだろうな)

「……調べたい事がある」


 クィーゼルが、『は?』と言うような顔をする。

「僕達には話せない? 君の調べたい事」

 自分を射抜く、真剣さを秘めた青い双眸。


 初めて皇宮の庭で出会った時、同じように見つめられ問われた言葉。


『エルレア・ド・グリーシュを』


 私ではない“エルレア”を。


『知っているか……?』


———知りたいんだ。


「スウィング。皇宮で私を試したのは何故だ?」


 向けられた刃。

 強い眼差し。

 しかしそれらから感じ取れたのは、今にして思えば殺意や憎しみではなかった。


 今だからこそ分かる。

 何かを求める、悲しいほど必死な感情。


「何のこと? スウィング」

「シャルルには黙ってたけど、エルレアと初めて会った舞踏会の夜に、僕はエルレアに……剣を向けたんだ」

「な……っ。お嬢は剣なんか使えないぞ!?」


 クィーゼルが怒りも(あらわ)に切り返す。

「うん……でも、確かめなきゃいけないと思ったから……」

「何をだよ」


 スウィングは、緑の瞳から目をまっすぐ見つめて言った。

「君が“エルレア・ド・グリーシュ”かどうか」


 クィーゼルは目を見開いて口をつぐんだ。

 金髪の少女は、その瞳を少し細める。


 知りたくなかったのかもしれない。

 その声で告げられる事を、本当は恐れていたのかもしれない。


(私、は)

「ずっと昔に一度会っただけだけど……今までずっと探してたんだ」


 彼に呼ばれるのは、嫌では無かった。

 その声が、とても耳に心地よかったから。

 向けられた笑顔がとても綺麗で、何度も見たいと思った。


 けれど、それはもしかしたら全て。

 自分がそうであるように。


「“エルレア・ド・グリーシュ”という名前の、剣の上手な女の子」


 泣きそうに微笑むその顔で分かってしまう。


(私は、ニセモノ)

 そう思い知った途端、少女は自分の平衡感覚が狂うのを感じた。

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