集合
電話にかかると、向こうから聞こえてきたのは赤木の声だった。もう一度携帯のディスプレイに映る名前を確認しても、間違いなく「西島哲」と出ている。
赤木は、会見を見ていたかという問いかけと、聞き覚えのない住所、あと二・三個言葉を言い終えると、すぐに電話を切った。どこか慌てているようだった。
"明後日の十時に、今言った住所に来て。"
言われた住所に足を運ぶと、建物の前に懐かしい顔が二つ並んでいた。
「増岡も、か。」
増岡に気付いた大久保が、納得したように呟いた。
「うん。あの会見の直後に電話が来た。」
「俺と河西もそうだ。まぁ、リーダーじゃなく赤木さんからだったけど。」
「久しぶり。卒業式以来だから、二年ぶり?」
「そうだな。新聞やテレビで名前は見てたから、そんなに会ってなかった気がしないけどな。」
「それもそうね。科学サークルのメンバーって、結局みんな大きな研究所入ったもんね。」
「まさかリーダーと赤木さんが、政府が携わってる研究所にいるとは思わなかったよ。」
会見を見て驚いた、と大久保は笑った。その時、一台の車が増岡達の前で停まった。
「よぅ。」
運転席から顔を覗かせたのは西島だった。助手席側のドアが開き、赤木が降りてきた。
「遅くなってごめんね。さ、中入ろっか。」
「あ、あの赤木さん。」
「ん?」
「なんで俺達をここに…」
「話は後だ。」
大久保の問いを西島がぴしゃりと遮る。
「俺は車を置いてくる。赤木、とりあえず研究室に連れて行ってくれ。」
「わかった。」
赤木がそう返事をすると、西島は車を発進させた。
中は至って普通だった。玄関から始まり、廊下を進むにつれいくつか部屋を通り過ぎる。しかし、ニ階にいく階段の隣に、地下へと続く階段が現われた時に、増岡はここが普通の民家とは違うと気付いた。
「みんな本当に久しぶりだねぇ。」
嬉しそうな声音で赤木が言う。
学生時代は名前を呼ばれるだけで、癒しを与えてくれたその声が、今の自分には涙を誘った。
「やよちゃん。」
「ん?」
「科学サークルの同窓会ってわけじゃないんだよね?」
「さすがに科学サークルのメンバー全員は入らないかな。」
河西の問いに赤木が笑う。悪態ではない。天然色が強いというか、赤木の言葉には悪意は一つもないのだ。
「ここは、何なの?」
「研究所よ。生活スペースも併設された。」
「それって…。」
建物の中に入り、初めて言葉を発した。と、同時に、赤木は地下最奥に現れた扉の前で立ち止まった。
「話は哲がする。この中で待ってて。」
部屋の中に入ると、薬品の匂いがツンと鼻を突いた。赤木がコーヒーを淹れてくる、と部屋を出ていき、また事情を知らない3人だけとなった。
「生活スペースが併設された研究所…。」
「国が用意したってことかな?」
「多分そうだろうな。ということは、だ。」
「てっちゃんに選ばれちゃったんだ、私達。」
「うん。きっと…いや、絶対そうだ。」
増岡の言葉を最後に、全員が声を忘れたように口を閉ざした。
そして再び西島と赤木が現われるまで、誰も口を開かなかった。