20 彼氏、彼女の事情
今年も宜しくお願い申し上げます。
「自称って…!?」
何故か腹を抱えて爆笑されてます。意味わかりません、誰か助けて。
「……ぁ~、もっ、笑った。お腹痛いわー」
本当、大人の女性とは思えない大口で。
「まぁ、あれよ。私の言った通りだったでしょ? 本気だしなって」
「……はぁ」
「あれ? そこも忘れてんの? どうりで、支払にこないと思ったわぁ」
仕方ないかーと呟きながら、後頭部を左手でがしがしとかきむしる。
………マジでさっきまでのシリアス返してください。
「ま、いいや。…で、どーなの?」
ちらりと視線を隣りへ。
「お父さん」
短い返しに、自称占い師もとい乃木家長女は一瞬ぽかん、としてから苦笑い。何だ?
「そかそか。んじゃ、改めて宜しくね。十朗太君。私のことは桜とでも呼んで」
「では、桜乃さん。宜しくお願いします」
「……固いねぇ」
隣りで殺気立ってる悪魔がいるからな! お行儀よくしとかねぇと、外傷なしで死に掛ける目に合うんだよ。………情けない。
早いとこ腕上げて、ここ出て行こう。
「今日見てたならわかったと思うんだけどさ。腕が鈍るといけないから、たまに父さんと本気でやりあうんだよね。で、結界あるから外側はある程度は平気なんだけど、中に入っちゃうとモロでくらうからね」
「はい、危険ですよね?」
「そそ。だからさ、注意してね」
"注意してね"が非っ常にイイ笑顔で言われた。コレはあれか。前触れなしで始まるパターンですか! 死亡フラグ乱立の予感が…。
「注意するのは桜姉でしょ。もう少しウマくやれば回りに被害でないのに」
「んー。そういうまどろっこしいの苦手」
「そのせいで、どんどん婚期が遅れるし。信司さんに悪いじゃない」
「……うん。それはまぁ」
「桜姉の今の状態を納得してて、お父さんのこと含めて乃木の家のこともわかってて、それでも待ってくれてるんだから。この優良物件逃したら、桜姉は結婚できないと思った方がいいよ」
中学生とは思えない科白だった。色々と。どこからツッコミすればいいのかもうわからん。
「まぁ、虹も月もいるし」
「中学生に何を期待してるの。というか、虹乃は乃木の稼業関係ないんだから、ダメでしょ」
「んー。まぁ、ほらねぇ。通学に変えるくらい頑張ってる」
「その程度、努力とは言わないし」
「私も今の段階では父さんの説得も難しいかなー、と」
「だって桜姉、今まで逃げまわっていたから。そこは仕方ないと諦めてください」
うっ、という顔になる桜乃さん。
何となく、アレだ。悪魔の立ち位置がわかったような…。
"霊喰い"だからって甘やかされてないか、やっぱり。いや、心配したりする気持ちはわからんでもないけど。オレも兄貴の誰かが霊喰いだったらって考えたら、必要以上に気にしたりするだろうしなぁ。
お前に心配される覚えないわっとか言いつつ殴られそうだけど…。3人くらいを除いて。
「信司さん頑張ってるみたいだから、応援するけれど。でも、桜姉は今のままじゃ、私フォローしきれないからそのつもりで」
「……わかった。あんたらにまで心配かけるのは、流石にまずいもんねー。ちゃんとするわ」
「そうして下さい」
「2人にも謝っといて」
「はい」
肩を竦める姉に、穏やかな表情――笑ってはいないが――の悪魔、もとい妹。2人で自己完結してるから話がさっぱりわかんねぇ。
「マミー少年。乃木の家は私にしか継げないって話だよ」
へらりと笑って告げられた科白は、数日前に兄貴が言っていた言葉そのままだった。
うん。その意味がよくわかんないんだけどね!
「お婿さん絶賛大募集中ってこと」
無理だろ。
「っだ!?」
「今、すごく失礼なことを考えただろう?」
握り拳をつくってイイ笑顔で問いかける桜乃さん。ってかさ、殴ってからそれってどうなのさ。
「マミー少年は本当に素直だねぇ。顔に出まくりだ。それじゃ退魔士はキツイかもしれないねー。月みたいに無表情でいかないと。こっちの感情なんてまるで考えない相手だったらいいけど、そんなんばっかりじゃないからさ。対象は」
「……はい。精進します」
「末っ子だから、まーしょうがないだろうけどねぇ。一弥が率先して甘やかしてるっぽいし」
何でそこで兄貴の名前が出てくんの?
「年が近いからね。この前も電話よこして、様子見に行ってくれって。もーどんだけだって話だよねぇ」
末っ子可愛がりにもほどがあるわぁ、と笑う姿に、ぱちくりと目を瞬きつつ隣りに視線を送ると、ちらりとオレを一瞥してから呆れたような溜息を一つ。
「十朗太が以前、狩りに来た時の話。電話があって出かけて行ったってお母さんから聞いてたけど、一弥さんからの連絡だったんだ?」
「そう。弟が遠距離移動初めてとか、一人で討伐初めてとか、知らない土地だからとか、もー色々。あんたはおかんか!って思わず叫んだ」
真顔で言わないでください。恥ずかしいっ! 兄貴、何言ってんの、てか保護者オーラ出しすぎだよ。電話で、信じてるって言ってた落ち着ていた兄貴はどこ!?
「ふふ。ここで十朗太君に何かあったら、人狼と戦争になるかもね」
って、心底楽しそうに言うなぁあああ!?
「お父さんと将和さんの2人だけで十分でしょう。桜姉、本当、気を付けてね」
注意すべきは、修行中の事故じゃなくて――――突発的なSとSSの親子喧嘩ってか!!
もう嫌だっ! ここ!! 還りたい!
「わかってるって。……でもさ、最終的にはそれに巻き込まれても大丈夫なくらいには持っていく予定なんでしょ? 今のうちから経験ってのもア 「ナシです」
へらりと笑って鬼のようなことを言い出した桜乃さんの科白を、悪魔が華麗にぶった切る。
「私の非常食なので生存権は私が握っているので許容できかねます」
って、そっちー!? オレの人権とか、意思とか、命はっ?! って、何でそこで桜乃さんはこっち向いて苦笑いするんかな!?
「まぁ、万全を期した方がいいよねぇ」
その台詞に月乃が無言で頷くが、桜乃さんの顔と今の科白があまり一致してない気がするのはオレだけだろうか。いいんかな?
「だからこそ、桜姉はしっかりと修行励んでくださいね」
「はーい。了解しましたー。―――あ。また何かあったら、斡旋するからねっ」
「はい。宜しくお願いします」
「んじゃ、先行くわ。やることやっとかないと、出かけられないしっ」
「お気をつけて」
ぺこりと一礼した月乃の頭を一撫でして、台風のような自称占い師は去って行った。……あ、桜乃さん。
「…なぁ、月乃」
「何?」
「斡旋って…?」
「依頼の中で、私の食事になりそうなのを回してくれるってこと」
「あぁ、なるほど…」
思わず脳裏に浮かんだのは、月乃と初めて会ったあの日だ。もう一生忘れられそうにないなーあの衝撃。
霊喰いの色合いにも驚かされたし。まぁ、そこはお互い様のよーだが。
ちらりと月乃を見やると、黒髪黒眼の姿。質問していい雰囲気のような気がするが、果たしてこれを聞いていいのかどうか、疑問。
乃木家は4人姉妹。
顔合わせが済んでいるのは、月乃と虹乃の双子、そして桜乃さん。………1人足んないよね!? それなのに、誰もその話題を出さないというか、紹介しないというか、数に入ってないというか。
そもそも恭一さんも初対面の時に、顔合わせが済んでいないのは1人だけって桜乃さんの事を言ってたし。と、すると……もう1人が謎。
聞いていいのか、すげぇ悩む。
「十朗太」
「あ、食べていいいぞっ………って、何?」
「寝ながら何を食べるの?」
「いや、えっと……ごめん」
「桜姉はああ言ってたけど、十朗太も気を付けてね。外に信司さんが来ただけで、お父さんが戦闘モードに近い状態に変わるから」
「……それって気を付けようがあるのか?」
「集中してれば、そのうちタイミングがわかるようになって、対して集中しなくても気配を読むのが上手になるから。訓練だと思えばいいんじゃないかな?」
「………わかった」
まだ見ぬ、桜乃さんの恋人にエールを送りつつ、その無事を祈ってみた。
自己(?)紹介。
誤字脱字を発見された方はお知らせください。
喜びます。