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  作者: 小林 谺
第2部  必要とする者、される者
22/23

19  ののはら荘の屋上で

 衝撃的だった。色んな意味で。

 有り得ない、帰りたいと本気で思うオレは悪くない。………筈。

「十郎太、諦めなよ。これが普通だから早く慣れることを考えた方が建設的だよ」

「難しい言葉をしってるんだな」

「…普通にわかるでしょ。頭大丈夫?」

「大丈夫、についてはそっくり返したい。ここって屋上だよな」

「後ろに洗濯物が風に靡いてるから間違いなくね」

「…何で屋上で」

「お父さんの結界って凄いよね~」

「ここって一般人も来るんだろ?」

「うん」

「いいのか?」

「うん」

 ………。

 SSクラスとSクラスが民家の屋上で喧嘩してるとかおかしい…よな? オレ間違ってないよな!?

 月乃に百聞は一見にしかずと言われて連れてこられたのがここだった。住み始めて3日目、月乃の一番上の姉を見るのは初めてで、まぁ2番目もまだだから上2人知らないんだが、初対面がコレって…。

「もう少しで終わるよ」

 灰色に霞がかかった小さな結界の中、動きは殆どなくて睨み合っているようにしか見えない。

「力比べだと、さく姉はまだまだ勝てないしね」

 呟き月乃が肩をすくめるのと、姉が前に出るのが同時で、次の瞬間には左腕を取られて床に伏せられていた。

「は?」

「まぁ直接向かっても無理だよね」

 いやいや待って。全然わからないから!? どこをどーなってそーなった!

 あんぐりと口を開くオレに、呆れた視線が投げられる。

「さく姉は確かに強いけど、それって一般的な退魔師で見た場合。お父さんが相手だと、文字通り手も足もでない。SとSSの差って、天と地ほどもあるから」

「…そ、そうか。ってか、アレは止めなくていいのか?」

「自殺願望でもあるの?」

 酷く冷たい眼差しが投げられた。

「下手に割って入ったら、なくなるよ。色々な意味で」

 最後の、色々な意味で、で思わず無言になったオレは悪くない。………筈。

「それにすぐ、決着は付くから。―--視てる(・・・)だけでも勉強になるでしょ?」

「………視えればな」

 泣いてもいいか?

 体感で恐怖しか募らない上に、何も見えないこの状況。間違いなくオレの精神衛生上宜しくない。

 そもそも隣に悪魔がいる時点で宜しくないんだが。

 ちらり、と肩越しに一瞬だけ視線を投げると、

「未熟」

 ぽつりと呟いた。

 っせ!! だから修行してんだろーが! つーか、無免許をSやらSSやらと比べるなって話だ。

「身近にいるのに、どうして今更驚いてるの?」

「何が?」

「SSもSもいるでしょう。まさか、その2人の殴り合いは見たことがない、とか?」

「すんごい小さい頃にこっそり見ようとして余波で飛ばされて、何日か寝込んでからはないな」

「…………馬鹿なの?」

 たっぷりの間を置いて、見下しまくった眼差しで見上げるという起用な視線を投げられた。

「今でさえそんななのに」

 思いっきり呆れられた!? しかも侮辱尽付き。

 兄貴……。オレ泣いてもいいだろうか。ってか迎えに来て…!?

「あ。解散するね」

 月乃の声に視線を送ると、2人も普通に立って何かを話している。

 !? ちらりと恭一さんがこっちを見たので、思わず姿勢を正したオレは悪くない。

 意味ありげな笑みを浮かべてから、手を振った恭一さんが、………えええ!! たっと軽やかに一歩を踏み出したかと思うとそのまま柵を飛び越えて身を翻し、落ちた。じゃなくて、降りた。

 3階…。ここ3階だった筈。このアパートは一般人も住んでるんじゃなかったのか? いいのか、あれ。いやまぁ、いいのかなぁ。ここの管理者だし。でもなぁ。

「十郎太?」

「…え、あ、何?」

「さく姉」

「え」

 気付けば、目の前に美人。さっきまで空恐ろしいほどの凍った顔で恭一さんに対峙してたの見てるから、全くドギマギしないが。

 いや、別の意味ではドギマギするな。主に命の残量的な意味で。

「あ。……すみません。本条十郎太です。宜しくお願いします」

 ぺこり、と頭を下げたオレに、

「あー、うん」

 えっらい間延びした緩々な頷きが返った。

 待て。さっきまでの凛々しい大人な美人イメージ返せ!

「久しぶりだねー」

「…は?」

「会ったことあるの?」

「いや、え?」

「あれー。覚えてないの~? まぁ、そっかぁ。それならねぇ、納得」

 意味わかんねぇし、何を一人で自己完結!?

 って、何を睨むかこの悪魔はっ。

「いやいや、こっちきてから一度も顔会わせてないから!」

「会ったよことあるよー。やだな~、私ってそんなに印象薄いかなぁ」

「え″」

 口調は残念そうだが顔がにやついてる。隠しきれてない! ってかそれすら意図を感じる!?

 絶対性格悪い! って、あ。悪魔の姉だから、仕方ないか…。

「十郎太、ロクなこと考えてないでしょ」

 じろり、と悪魔が殺気を飛ばしてきた。

「………いや、別に。どこだったかな、と」

 誤魔化してみる。実は考えてすらいないが。

「あはは。その後のインパクト強くて忘れられたパターンかなぁ。私もまだまだか」

 ぺろり、と舌なめずり。

 にやりと意味ありげに笑う。ん? 何かどこかで見たことあるような…。

「言っただろ、マミー少年」

 ぴしっ、と内側で音を立てたのが自分でわかった。

「あ、あんときの! 自称占い師!!」

 思わず指さして叫んだオレは悪くない。

話題には上っていた長女登場。

実は本人、ずいぶん前に出てたけど。

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