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  作者: 小林 谺
第2部  必要とする者、される者
17/23

14  固定食堂

 変な汗が止まらなくなった。

 目的地に着いて…ってか、歩いてて視界に入ってきた時から、嫌~な感じがして近寄りたくないと思ってたら、そこが目的地だったとゆー…。

 月乃が立ち止まって、「ここ」と言われた時は、着いてきた事を心底後悔した。

 ってか、何だよコレ。

 むしろこの土地が何なんだよ…。

 目の前にあるのは古い洋館っぽい家。というかその門構え。いかにも洋風の家ですよーといわんばかりの格子状の門に塀(?)で、まぁ、そこは別にいいんだが。

 何も見えないのに嫌な感じだけがヒシヒシと伝わってくるとゆー…。

 回れ右をして帰りたい葛藤と必死に戦ってたオレの横で、通話中だった月乃が溜息を吐き出して携帯をポケットにしまいこんだ。

「十郎太、行く…―――あ」

「…あって何だよ、あっ、て」

「素手、行ける?」

 オレの両手をちら見しながら問われ、そこで初めて気付く。

 うん、オレってば“雪”を持ってねぇな。駄目じゃん…。

「―――まぁ、いいか。着いてきて」

 硬直して黙り込んだオレの様子に判断を下したよーだ。あながち間違いじゃぁない。

 “雪”なしでは………避けるくらいだな。まぁ、殴れる相手なら殴るが。

「ってか、ここ何だよ。嫌な感じしかしねーんだが」

「感じ、か。入ればわかるよ、嫌でも見える(・・・)だろうし」

 口調はいつもの嫌味な感じだが、その顔はいつもの無表情というよりはどこか暗い。

「何だよ、それ」

「百聞は一見にしかずって知ってる?」

 あきれたようにつぶやいて、古びた門扉に手をかけて押し開く。ソレぐらい知ってるわ!

 ぎぃいい…とありきたりな音を立ててゆっくり開いたそこへ何も言わずに足を踏み入れ、とっとと先に歩いてく背を眺めて溜息を一つ。深呼吸をして、その後を追った。

「…いっ!?」

 思わず半歩引いた。

 敷地に足を踏み入れた瞬間、その視界が様変わりする。

 白い。

「な、何だよ、コレ。こんな尋常じゃない数…」

「メガネのままでも見えるんだ、やっぱり」

 霞がかかった月乃が面白そうに呟いた。

「いや、てーか、コレって…」

「少し残念な方に傾いてる浮幽霊」

「そーじゃなくて、何でこんなに…」

「玲子さんがお父さんに持ちかけて、変な結界張ってるから」

 へろりと答える月乃。意味わかんねぇ!! ………まぁ、唯一わかってることは、溜まってる奴等が月乃に集中して逆に喰われてるっつー事実くらいか。

 オレなんか完全に眼中にないね! ってか霞かかって見えるくらい集ってるってどんだけ…。

「片付くまでちょっと待ってくれる? ここの番犬優秀で、知らない人が勝手に家の中に入ると大変な事になるから」

「犬なんか飼えんのかよ、この状況で…」

 人間と違って動物の方が当然こういったヤツラに敏感だ。特に人のそばにいる犬なんてのは、人間のこういった存在に対しては異常なレベルで察知するし。

「………うん」

 ちらっとオレを見て、無表情のまま嫌な間をたっぷりとって頷いた。沈黙の間の間に、眼が口ほどにモノを言っていたのはオレの気のせいだろうか。

 気のせいだと思いたい。

 何だよ、その哀れみと呆れは!

「それにしても、ずいぶん多いなぁ。今回。まだ1週間も経ってないのに」

「は?」

「こっちの話。独り言」

「にしてはでっかい声で」

「暇そうだったから?」

「はいはい。んで? 多いってコレ(・・)がか? ってか1週間って何の話だよ」

「他に何があるの?」

 めっさ怪訝そうな顔で見られたー!? 確認だっつーの。

「んで、1週間ってのは?」

「………ここ、こんな状態になるから、隔週で着ててね」

「へー」

 簡単に頷いてから、周囲を見回す。広い敷地にうよんうよんと漂う白い影。月乃へ向かってほぼ一直線に走っているそれらは、向かっている筈なのにぼんやりとした白い光がでているようにも見えるから不思議だ。

「結界変えた方がいいんじゃねーの、ここ?」

 思わず口を付いた科白に月乃の顔が一瞬だけ強張った。

「コレだけよってくるって事は何かあるんだろーしな。親父さんか、結界(コレ)作ってんの?」

「そう、だけど」

「だったらすぐにでも 「これ、ここの家主の希望なの」

 科白をさえぎるように呟かれた言葉は、何故だか苦いものを含んでいた。

「何だってそんなもの…」

「前は普通に防ぐやつだったんだけど、ある一時から…その、溜まるだけのに変えたらしいの。入れるけれど出られない結界ってお父さん得意なんだよね」

 方を竦める姿に、全然笑えないから!! と力いっぱいツッコミできたらどれだけよかったか。本能が乃木恭一(あの男)に喧嘩を売ってはいけないと叫んでいる。生存本能が働くレベルだ、尋常ではないらしい。流石はSSクラス…。

「って、違うだろ。オレ」

「……何が?」

「ああ、いや…。恭一さんって、こういうの(・・・・・)が得意なのか」

「そう。何で? 変かな?」

 変だろ、とは流石に言えなかった。よく留まった、オレ!

 しかしそんなに意外そうな顔をしてたんだろーか。自分じゃよくわからんが、心底不思議そうにこっちを見返してくる。

「いや、収束が目的にしては範囲が広いから。どうなのかなって」

「………何か誤魔化した?」

「は?」

「いや、何だか十郎太っぽくない科白だなと思って」

「………お前って本当に失礼だよな」

「気のせいだと思う。それで…―――えぇと、結界がこんな(・・・)やつな理由が気になるの?」

「理由ってか、まぁ、うん」

「そう。一応、協会的には秘密裏に動いてる内容になるんだけど」

「はぁ!?」

「聞いたら十郎太も同罪になるのかな」

 ぽつりと呟いて薄っすらと笑みを浮かべる。

 あぁ、悪巧みしてる時の顔だ。他人を巻き込んでわるーい事するときの、顔だ。

「これだけ大きいのはね、それだけ溜まるから。何が、なんて聞かないでね? 眼で見て確認してるんだし」

「…なるほど」

 つまり、ここまでの大きさがないと入りきらないくらい集まるというワケか。そこまで吸い寄せやすいってどんな所なんだと。地が変わらないのであれば、家主や雇用者の方に原因有りって事か。

「んでも、出て行けるようにした方が、循環されるような気がすんだけど。そこら辺は?」

「一般的にはそうだよね。でもお父さんの場合はちょっと違うの。特殊というか、ニーズに合わせて多種多様というか。万能ぶりが凄すぎてなんだけど…、一言で表すなら」

 思案するようなそぶりをし、視線をつっと十郎太から外して、

「変態っぽぃ、かな」

 ぶっちゃけて来たー!?

 自分の父親捕まえて変態とか言っちゃうか! 普通!! って、オレも言ってるし…。でもまぁ、この件に関してはオレは絶対悪くない筈! 間違いなくうちの親父は変態だしな!!

「んで、それだけ溜めといて定期的にお前が来て片付けてんのか?」

「そうだね」

 肯定とともに、庭に居た分が全て片付いた。綺麗に月乃の中へ吸収されたワケだが。

「足りたか?」

「駄目。家の中に入れないようなカスばかりだから無理もないけど」

「そっか。お前も大変だな」

 この一点に関してだけは、同情する。ここだけは!

「別にもう慣れたよ。生まれたときからだから、私にとってはコレが普通だしね」

「それにしたって。あんな数………全く足りてないって?」

「そうだね。でも家の中にはもう少しマシなのがいるから大丈夫」

 にこにこと言われた。食事を前にしてテンションがあがるのは、どんなヤツでも当てはまるんだなぁ。その顔だけ見てるとちみっこが喜んでるようにしか見えないが。

「そういえば、谷口が食事の邪魔したってのは、まさかここの事?」

「違う」

 あっさり否定された…。まぁ、別の意味では一安心なんだが。こんな結界に手をだしてたら、谷口は旬札されるか、変に呪われるかのどちらかな気がする。

「でもね。ここは私にとって唯一固定されたエネルギー源だったの」

「―――固定の食事処か」

「………あながち間違いではないけれど」

 その呼び名は何となく嫌だ、とぽつりと呟いた。


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