7話目
「ふーん……つまり、お前の元カノ共は俺の部下達を皆殺しにした。でも、ソレはお前と因縁深い存在を騙す為の三文芝居で、実際はお前のアセット……俺はどんな顔すりゃ良い?で、何て言うべきだ?」
確認する様に涼介から告げられた事を淡々と復唱する塚地が怒りに満ちた声で問えば、涼介は心の底から申し訳無さそうに沈黙を貫くしか出来ずに居た。
そんな涼介に塚地は手にしていたイタリア製の大型拳銃であるラフィカを向けると、苦虫を何匹も噛み潰したかの如く不愉快極まりない様子で告げる。
「俺が本来取りたい選択肢は、今この場でお前に16発の弾をブチ込む。コレに尽きる」
「なら、引金を引けば良い。俺は構わねぇ」
涼介が潔く「撃つなら撃て」そう男らしく返すと、ラフィカを下ろした塚地は鼻で笑う。
「ハッ……よく言うぜ。俺の言葉から自分は撃たれないって察してる癖によ」
「やっぱバレてた?で、俺をそのカッコいい銃で撃ち殺さない理由は何だ?」
殺されない。否、殺せない。
その理由に一切心当たりが無いが故に涼介が大いに疑問を覚えると、その理由が語られる。
「お前の身内。つうか、親類」
忌々しい。そう言わんばかりに塚地が理由の一端を答えると、涼介は尋ねる。
「俺の身内?」
「そう。お前の身内……お前、おばさんの旧姓は知ってるか?」
唐突に問われると、涼介は直ぐに思い出して答える。
「賀茂だったと思うが?ソレが?」
「そう賀茂……この名前も退魔師関連ではビッグネームでな、一言で言うなら、退魔師連中のトップ。芦屋を平伏させるくらい訳ない程に力をお持ちの一族だ」
塚地から母親の持つ旧姓が意味する事を語られると、本当に何も知らずに居た涼介は困惑してしまう。
「嘘だろ?」
「大マジだ。更に言うなら、オバサンは京都にある賀茂の本家筋……今は後進に家督を譲って隠居してる身とは言え、持ってる影響力は今でも大きい先代当主の娘。更に言うなら、力が大きく衰えたって事で引退してる身だが、ソレ以前は妖魔共を片っ端から殺し回ってたヤベェ人でもある」
母親の出自を語られると共に好々爺とも言えた祖父の裏の顔を告げられると、涼介は正直言って何と言えば良いのか?解らなかった。
それ故に思った事をそのまま口にしてしまう。
「まるでラノベとかアニメだな」
「つーわけで、お前を殺すと俺はクッソ面倒臭い立場になるから殺せない……クソムカつくけどな」
そうして殺せない理由を告げると、今までの不愉快極まりない様子が嘘の様にアッケラカンに言う。
「今言った理由は公私の公の部分。公私の私としては、親友を撃ち殺したくないに尽きる」
塚地の言葉に涼介は意外そうにする。
「てっきり、公私混同しないタイプだと思ってた」
「俺にだって公私混同したい時はある。特に今まで友だった相手が敵に廻る事が良くあるのが当たり前の世界でなら尚更な……」
オルガと同じ事を言われると、涼介は思った事をそのまま口にした。
「俺が言うのも何だけど、碌でもない世界だな」
「"今日の敵が明日の友"って言葉あるだろ?ソレだよ……人間なんて立ち位置含めた立場やら周りも含めた状況や情勢やら……兎に角、何かしらの理由でコロコロ変わる。表の世界でも珍しくない」
塚地がさも当然の如く言えば、涼介は問う。
「成る程な……それで?俺は殺されない代わりにどうケジメを付けさせられるんだ?」
当然とも言える問いが投げられると、塚地は結論を告げてから理由を答える。
「一先ずは保留。例のイケオジの件はお前が片付けてくれたし、イケオジに雇われてたであろう連中は何故か全員撃ち殺されてた。だから、今は直ぐに片付けて欲しい案件は無い……死んで欲しい連中は沢山居るけど」
「なら、その連中のリスト寄越せ。俺が片付けてやる」
涼介の言葉に塚地は呆れ交じりに返した。
「バカ言え。状況やら事情やらで直ぐに殺す訳にも行かねぇんだ。直ぐに殺すとか物騒過ぎるぞ」
「そうか?俺の居た所じゃ、敵ならさっさと殺すのが当たり前だったんだけど……此方は違うのか?」
敵なら誰であろうと、直ぐに殺すのが当たり前過ぎる世界に居たからこそ、カルチャーショックにも似た疑問を覚える涼介に塚地は心の中で「コイツ重症だな」そうボヤきながら諭す様に告げる。
「お前の居た世界がどんなんか?知らないが、此処は日本。メキシコでもなければ、アフリカだの中東だの中南米やら東南アジアじゃねぇ……だから、直ぐに殺すのは辞めろ。せめて、殴り倒すだけに留めろ」
「ソレは一応解ってるんだ。けど、どいつもこいつも俺を殺そうとして来るのが当たり前な世界に居ると、さっさと殺すのが結局の所として一番生き残れたんだ」
殺そうとして来る者に無抵抗を貫くのは単なるバカ。否、バカ以下の救いようのない神も憐れむレベルのカスだ。
そんな相手に対し、逃げる。
または、殺す。
その2つの抗う手段でしか生き残る術は無い。
適当に痛め付け、無力化する?
言葉のみで辞めるように懇願する?
ソレ等は一番の悪手であり、確実性にも欠ける。
ソレが当たり前過ぎる程に向こうに毒され続けて来たからこそ、涼介が殺すのは駄目なのか?そう問えば、塚地はソレを理解出来るが故に困った面持ちと共に理解してる事を示した上で諭す。
「そりゃそうなんだが……兎に角、目立つ真似はするな。サツにパクられちまう。特に、お前は銃やら刃物やら持ち歩いてるんだから銃刀法違反で現行犯。問答無用で逮捕……現行犯だから言い逃れ無理だぞ」
そんな塚地の言葉を理解し、納得したのだろう。
涼介は今の自分が言える言葉で返した。
「そう言う事なら、なるべく善処する」
「なるべくじゃねぇ……確実にしてくれ。俺の貸しを返す前にパクられるとかマジで勘弁して欲しいから」
「解った。で、イケオジの首はキッチリ回収出来たのか?」
涼介が自身の手で殺したイケオジの事を確認すると、塚地は脇に放置されたガムテープで厳重に封の成された発泡スチロール製の箱を指差し、告げる。
「あの中に入ってる。お前が脳味噌ブチ撒けやがったから臭いが酷いから消臭剤と芳香剤もセットでブチ込んである」
「なら、芦屋にプレゼントすれば……」
涼介が芦屋 里奈に渡せば……そう言おうとすると、塚地は否定と共に渡すべき相手の名を告げ、理由も答えた。
「渡すなら、賀茂憲晴……即ち、お前の爺さんに渡せ。その方が話が早いし、芦屋も二度と手を出せなくなる」
塚地の言葉に納得すると、涼介は思案してから確認する様に尋ねる。
「あー……孫から要注意危険人物の生首の写真を送られたら、気不味いよな?」
そう問われると、塚地は他人事の様に答えた。
「気不味い程度で済んだら御の字だな」
「だよなぁ……じゃあ、先ずは母さんに一言入れてから爺ちゃんに送る方が良いか?」
「その場合は確実に間違い無く、お前はおばさんにこっぴどく怒られるだろうな」
「だよなぁ……殺すなって言われたのガン無視して殺しちまったから、殺したのバレたらクソ不味いよなぁ」
「手柄くれるなら、俺の方で上手く片付けてやろうか?俺もあの人の連絡先知っとるし……」
塚地が提案する様に告げると、涼介はその方が丸く収まる。そう判断し、呑んだ。
「じゃあ、その方向で頼むわ。で、次いでに俺と綾子への殺害命令撤回と不干渉を取り付けてくれ」
「解った。その線で交渉を進めて見る」
こうして今回の件の終わりが見えて来ると、真面目な話は終わった。そう告げる様に塚地は私的な事を涼介に尋ねた。
「なぁ、聞いて良いか?」
「何だ?」
「異世界から戻った翌日に学校に来たよな?」
「そうだな」
「お前はその時、何を思った?」
ソレを問われると、涼介は正直に答える。
「そうだな……戻ってから世界の見え方がガラッと変わった。で、お前とチンチクリンがマトモじゃないって嫌でも気付かざる得なくなった」
その言葉に嘘は一切無かった。
実際。2人の親しい幼馴染を混沌の言葉を借りるならば、32年ぶりにマトモな世界のマトモな日常生活の象徴を見たかと思えば、明らかに見え方が違っていた。
どう見てもマトモじゃない。長年の経験から裏打ちされた勘が告げ、警戒しろと本能に警鐘を鳴らして来た。
だからこそ、涼介は気付いた。
そう答えれば、塚地は自身の事も打ち明ける。
「俺も俺でお前を見た瞬間、誰だコイツ?俺の知ってる涼介じゃない……そう感じざる得なかった」
「その割には何も無かったかの様に平然としてたじゃねぇか」
「そりゃ、表面上はポーカーフェイス保って見なかった事にした。勿論、お前に何が起きたのか?触れる気も無かった」
塚地も涼介と同様に足を踏み入れる気は毛頭無かった。
そんな塚地に涼介は「ソレは俺もだ」そう返すと、更に続ける。
「だが、運命の悪戯って奴のせいで俺達は互いに秘密を打ち明ける羽目になっちまった」
「ソレなぁ……ソレに関しては運命の女神ってのが存在するなら、マジで余計な事をしやがってに尽きる」
互いにゲンナリとした様子となると、塚地は尋ねようとする。
「涼介……」
「今度は何だ?」
涼介から問われると、塚地は本来尋ねようとした事を聞くのを辞め、コレからの事を尋ねた。
「いや、何でもない。それより、今回の件が片付いたらどうするんだ?」
今回の件はある意味で完全に終わっていた。
退魔師連中が危険視していた最重要人物は死に、その首の回収も済んでる。
更に言うならば、恐らく。否、間違い無く涼介の母親が涼介の祖父とも言える父親へ、涼介が退魔師連中に生命を狙われた件を何とかならないか?その相談も進めている事であろう。
後は、塚地が上手く交渉を纏めれば良いだけの事。
涼介の中では今回の件は余程拗れない限りは終わっていた。
それ故に塚地がこの後はどうするのか?問えば、涼介は思案しながら答える。
「そうだな……先ずは休みたい。正直言うと、殺し殺されなんて一生分くらいやって来たからウンザリなんだよ」
涼介は本心から言ってる。
だが、塚地はその言葉が本当と感じながらも、綾子から聞いた"混沌"なる存在が再び現れれば、直ぐに殺しに行く。そう察しながらも、本心から言う。
「なら、俺に借りを返すまでは大人しくノンビリ過ごしとけ……どうせ、お前の殺したい奴はお前の都合を考えずに遊びに来るんだろ?なら、ソレまでは休んどけよ。帰って来たばかりで疲れてるんだろうからよ」
心配する様に塚地が言えば、涼介は「そうする」と、静かに返した。
すると、塚地は思い出した様に大きな分厚い茶封筒を手に取り、差し出して告げる。
「はい、コレ」
「何だよ?」
「イケオジの首の代金とアシ代」
その言葉を聞いた涼介は封筒を受け取って封を開け、覗く。中には札束が6つあった。
「見ての通り、600万ある。好きに使うのは構わねぇが、一気に使うなよ?税務署に目を付けられちまうから」
「税務署に所得として届けた方が良いか?」
「辞めとけ。それに俺は正当な脱税には賛成の立場だ」
塚地の言葉に涼介は「コイツ脱税してんだな」と、察すると共に自分も脱税する事を選んだ。
「なら、お前の言う正当な脱税する事にしよう」
「あ、銀行に預けるのは辞めとけ。それこそ税務署の目に留まる」
「覚えとくよ」
そう返すと、涼介は家路に着くのであった。




