3話目
塚地と駄弁りつつ、情報を確保した後。
涼介は綾子と共に通学で常用する最寄り駅から2つ先の駅。その近くにある席でも煙草を吸えるカフェに居た。
綾子がアイスの抹茶ラテを飲むのを他所に涼介は砂糖を2つ入れたエスプレッソを静かに啜る。それからポケットからラッキーストライクの紙箱とトレンチライターを取り出すと、中から1本抜き取って咥えて火を点す。
「すぅぅ……ふぅぅ……」
クソッタレの異世界では、何時作られたのか?解らぬ程に古いとは言え、煙草は時には通貨の代わりにもなれる程に貴重品であった。
勿論、吸ったらクソ不味い代わりにニコチン等が齎すリラックス効果もある。
そんなクソッタレの異世界で吸った煙草とは比べ物にならぬ程に、地球の煙草は美味かった。
涼介が煙草を燻らせながら塚地から提供された資料に目を通していると、綾子はテーブルに置かれた涼介のラッキーストライクの箱に手を伸ばした。
「貰い煙草は貧乏するから辞めとけ」
資料に目を向けたまま涼介が窘めると、綾子は気にする事無く煙草とトレンチライターを取りながら返す。
「私も向こうで吸ってたのよ……禁煙してたのに、アンタが吸うから久し振りに吸いたくなった。後で返すから、1本貰うわよ」
「すぅぅ……ふぅぅ……好きにしろ」
涼介が紫煙混じりに返せば、綾子は煙草を咥えてトレンチライターで火を点した。
煙草を燻らせながら綾子は涼介に尋ねた。
「それで?マー君がくれた情報で何か解ったの?」
「そうだな……例のコソコソしてる野郎」
「あのイケオジ?」
「そう。そいつ……そいつは今の所、動いてる気配が無いそうだ」
退魔師達が死んで欲しいと願い、殺したがってる件の"イケオジ"は今現在の消息は不明。更に動いてる気配も無い。
そう告げれば、綾子は紫煙と共に思案しながら問い返した。
「ふぅぅ……潜伏してるのかな?」
「十中八九そうだろうな。だが、そうなると協力してる連中が居る事も意味する」
涼介が当然の様に返せば、綾子は首を傾げる。
「仲間が居るって事?」
「仲間かどうかは知らん。だが、裏の世界だろうが、無法地帯な異世界だろうが、ロアナプラだろうが……何処の世界でも地元の連中ってのは、余所者や厄介者に目を光らせてるもんだ」
「あぁ、成る程ね」
涼介の語った事で綾子は漸く合点がいった。
混沌極まる無法地帯であろうとも、現地の地元の者達は常に目を光らせ続けて新参の余所者を直ぐに察知する。
勿論、それと同時にその地を取り仕切る王たる権力者へ、新参の余所者がやって来た事が報告として挙がる。
場合によっては、その新参たる余所者が何者なのか?どんな人物なのか?監視する事もある。
そうして、起きるだろう厄介事を芽の内に摘める様にするのが権力者だ。
そして、そんな権力者であろう塚地が部下やコネ等を使っても居場所を掴めない事が意味するのは1つだけ……
「つまり、イケオジには協力者が居て、イケオジは匿われてるって事を意味してる訳ね」
「そう言う事だ。アイツも其処ら辺を心得てるのか、イケオジと面識ある連中を全て監視下に置いてると資料にあるんだが……アイツ、諜報関係も取り仕切ってるのか?この手の遣り口が諜報やら防諜やらを専門とする連中のソレと一緒だぞ」
呆れ混じりに涼介が漏らせば、綾子は紫煙と共に告げる。
「すぅぅ……ふぅぅ……マー君、安全保障に於ける防諜とかにも携わってるぽいよ」
綾子がサラッと告げた事に涼介は益々呆れてしまった。
「幼馴染がゲシュタポとかシュタージの同類してるの草を通り越して、芝3200だわ」
「まぁ、ソレは置いといて……ソレで涼介はどうやって見付け出すの?」
「ちょっくらチート沁みた事をするが、先ずは資料にあったイケオジと接触して、何かコソコソ動き回ってる連中にお話をしに行く」
塚地から提供された資料には件のイケオジと接触し、それ以降はコソコソ動き回ってる退魔師崩れの犯罪者のデータも含まれていた。
それ故に涼介は手始めにその者達から情報を集めようと考えていた。
勿論、電子の世界でチート沁みた存在であるアリスによる一斉捜索も並行して進めながらだ。
簡易的であるが、サクサクと方針を固める涼介に綾子は好奇心から尋ねる。
「そう言う人捜しの方法も異世界で学んだの?」
「まぁ、そんな所だ」
クソッタレの異世界で生き方や戦い方等を涼介に授けてくれた師が居た。
その師から、生き方や戦い方。それに多数の様々な技術を教わったからこそ、今の様にサクサクと進める事が出来た。
そんな師を自らの手で殺害した事を思い出してしまうと、涼介は少しだけ憂鬱な気分となってしまう。
「大丈夫?顔色悪いわよ」
綾子が心配そうにするが、涼介はエスプレッソを一口呑んでから煙草を燻らせると、ポーカーフェイスで呆れ混じりに返した。
「大丈夫だ。それより、お前は俺に丸投げするのか?」
「丸投げって……資料を読まなきゃ何とも言えないわよ」
綾子が資料を見せろと強請れば、涼介は自分が読み終えた分を差し出した。
涼介から差し出された資料に目を通すと、綾子はある点に気付くと共に涼介に尋ねる。
「この半グレ連中を攫ってる。って点……コレに触れなかったのは?」
「あぁ、ソレは目的が解らんかったから触れなかった」
「殺すなら兎も角、攫ってるって言うのは引っ掛かるわ。人間なら誰でも良いって言うんなら、確かに都合が良いわね。半グレは……」
「どう言う事だ?」
涼介が内心で察してるだろう事を肯定する様に綾子は答えた。
「生贄よ。人柱と言っても良いわね」
綾子が自分の予想していた事を肯定すると、涼介はまたも呆れてしまう。
「つまり、半グレ狩りをして何かしらの神様にでも捧げるってのか?半グレ捧げられる神様がキレそうだな」
「涼介の言う通り、神様に半グレなんて捧げたら怒りを買うわ。だから、そうなると……神降ろしとかの儀式は除外されるんだけど、何するつもりかしら?」
綾子が首を傾げると、涼介はふと思った事をそのまま口にする様に尋ねた。
「なぁ、敢えて怒りを買うのが目的だったらどうなる?」
「敢えて怒りを買う?そんなんしたら、儀式した奴どころか、最悪日本が滅ぶんじゃない?マジモンの神様ってマジでおっかない存在だし……」
有り得ない。そう言わんばかりに綾子が呆れ混じりに答えれば、涼介は逆にあり得ると考えた。
「ソレが目的って可能性は?」
「そんなんしたら、死ぬのが目に見えてるのに?流石にな……」
流石に無い。そう言い切ろうとした寸前に言葉を止めると、綾子は目の前で煙草を燻らせる今の幼馴染を見て考えが直ぐに変わった。
「全てに絶望してる復讐者なら、ソレを考えたっておかしくないわね」
綾子が言えば、涼介は当然の様に返した。
「未だ仮説の段階だが、急いで始末するべきなのは確かだな……資料にある日付から見ても」
「嫌ンなるわね。でも、ソレをしないと私達は敵扱いから抜け出せないのよね?」
「まぁ、そう言う事になるかもな……で、俺は武器が来るのを待つ時間も無さそうな感じもしてる」
その言葉に綾子は訝しみながら尋ねる。
「時間が無いって?」
問われると、涼介はお互いの認識を共通させる為に敢えて問い返した。
「あぁ……俺達は既に後手後手に回ってるも同然。敵は今こうしてる間にも悠々と計画を進めてて、計画が実行出来る体制を整え終え、実行段階に移ってるかもしれないのは解るな?」
「えぇ、一応は」
綾子が一応とは言え、自分と同じ認識である事を確認すると、涼介は更に続ける。
「そうなると、妨害して時間を稼ぐ必要が生じる訳でもある」
「何をするつもり?」
「今夜、手始めに1人か2人を始末する。幸い、アイツは関与してる手下のヤサを掌握してくれてる様だしな……運が良ければ、イケオジの居場所も掴めるかもしれん」
「そう言う事なら、マー君に一声掛けといた方が良いわよ。ほら、ホウレンソウだっけ?報告、連絡、相談って大事だし……」
綾子がそう言うと、カフェの入口に塚地の姿があった。
受付でアイスティーを受け取ると、塚地は真っ直ぐに2人の元へやって来て座るや呆れ混じりにボヤく。
「何で2人して煙草吸ってんだよ」
「気にすんな。それより、どうした?」
涼介が暢気に問うと、塚地はアイスティーを一口飲んでから答えた。
「あぁ、一応は発注者としてどう言う形で行動するのか?確認しに来たんだ」
「それなら今夜、資料にあった手下と思わしき奴を1人か2人始末する事にした」
「理由を聞いても?」
「1つは締め上げて情報を吐かせる。2つ目は威力偵察的な感じだな……ソイツの死体を晒して、相手の出方を見るって意味では」
「成る程。そう言う事なら、コレを持って来て良かった」
塚地はそう言うと、涼介にある物を差し出した。
差し出された物……GLOCK17がプリントされたエアガンの箱を見ると、涼介はソレを持って直ぐに中身を察する共に尋ねる。
「開けても?」
「好きにしろ」
蓋を開けると、中にはGLOCK17 gen5があった。
涼介はソレを手に取ると、ネジの切られた銃身が飛び出てる事に気付いた。
「サプ付けれるのか?」
「必要だろ?あ、コレはそのサプレッサー……予備のマグも入ってる」
その言葉と共に紙袋を差し出して涼介に手渡せば、塚地は更に続けて告げる。
「とりま、3本用意してある。もち、満タンだ」
「やけに用意が良いな」
「俺としても連中に少しは恩を売って置きたいんでな……」
「その分だと今夜狩りもして良いって事?」
綾子が確認する様に聞けば、塚地はアッサリ承諾した。
「勿論だ。必要なら"インタビュー"の専門家も用意してやろうか?」
インタビューと、分厚いオブラートに包んで拷問の専門家を用意するか?そう問えば、涼介と綾子は要らないと帰した。
「そんな暇無いから要らん」
「私も。インタビューしなくても直ぐに相手の知ってる事を知る方法持ってるから要らない」
綾子の言葉に塚地は「マジ?便利で羨ましいな」そう返すと、改めて告げる。
「一応、向こうには俺の指揮下で制式に活動する旨を伝えてある。だから、お前等が行儀悪い行動をしなければ、向こうは手を出しては来ない筈だ」
塚地と言う情報を齎し、必要ならば資材等も提供する協力者的な存在でもある組織の長が2人を指揮下に置き、自分が制式に発刊した命令で活動している事を告げた。
その時点で涼介と綾子は塚地の持つ力の庇護下に置かれた事を意味し、手を出して来たならば塚地が戦争も辞さない事を意味していた。
ソレを理解するからこそ、涼介は真剣な面持ちで尋ねる。
「良いのか?制式にお前の指揮下に入ってるって事にしたら、俺達が殺っちまった時に無関係って言い訳出来なくなるだろ?」
先程は必要ならば斬り捨てて保身を図る。そう告げた塚地に対して確認する様に問えば、本人はらしくない。心の底から思いながらも答えた。
「それはそうなんだけど……まぁ、今はお互い仲の良い友達だろ?だから、仕方ないと思って私情を優先してる」
「組織の長が私情で動いちゃ不味くない?」
綾子が当然の事を問えば、塚地はアッサリとさも当然の如く答えた。
「え?お前等が庇いきれないレベルでヤラかした時は、お前等にケジメ取らせるぞ……後、私情で動かしても利益さえ出せば、案外文句は言われんよ。まぁ、小言は言われるだろうがな」
塚地の言葉に2人は心から感謝した。
「ありがとうな」
「ありがとう」
「気にすんな。さて、狩りの後の行動を確認しても良いか?」
組織の長として問えば、涼介は資料を眺めながら告げる。
「展開次第としか言えないが、基本は狩りで得た情報を基にイケオジの捜索。恐らく。いや、間違い無くイケオジには匿ってる協力者が居るだろうからソイツを見付る事が出来れば、一気に片付くかも……って所だな」
今宵の狩りの獲物がイケオジと完全に繋がっているならば、イケオジとの連絡する手段を持っているのは明らか。
イケオジに直接ではなくとも、イケオジへ連絡と報告を中継する協力者ないし仲間の情報を得る事に成功すれば、イケオジへと歩を進める事が出来る。
そんな涼介の思惑を理解出来るからこそ、塚地は賞賛混じりに尋ねる。
「お前の立案と見通しは見事だ。トーシローのカカシは辿る方法すら浮かばない。何処で覚えたんだ?そう言う遣り口……」
涼介の語った方針と思惑は塚地から見ても、諜報等のプロの遣り口と遜色無かった。
それ故に好奇心から尋ねると、涼介はアッサリと答える。
「向こうで覚えた」
「だと思った。けどよ、お前の居た異世界ってどんな所だよ?」
予想通りの答えながらも、普通ならばその手の技術を学ぶ事が出来ないのを知るからこそ、呆れ混じりに問えば、涼介は吐き捨てる様に返した。
「クソな世界だった」
「ま、そう言う事にしとくわ……」
そうして仕事の話が終わると、その後。3人で暢気に駄弁った。
そして、家に帰れば、涼介は母親が夕飯の支度を進めてる間に自身の支度を進めていく。
「その拳銃はGLOCK17。世界的ベストセラーとも言えるメジャーかつポピュラーな拳銃で、ソレは最新のアップデートモデルであるgen5です」
アリスが電子の世界から得た塚地が提供して来たGLOCK17に関するデータを告げると、そのGLOCK17を初めて触ると言うにも関わらず慣れた手付きで流れる様に分解していく涼介は「銃なんざ、引金を引いてキチンと弾が出るだけで儲けもんだ」そう吐き捨てた。
そんな涼介にアリスは更に続けて言う。
「しかし、ソレは日本国外での事。この国は民間人が拳銃を携帯するのを固く禁じており、厳しく取り締まられているにも関わらず貴方の幼馴染は簡単に用意する辺り、相当な大物と言わざる得ないです」
塚地に関してアリスが述べる。
だが、涼介は「だろうな」と、興味が無さそうであった。
そんな涼介にアリスは尋ねる。
「コレは好奇心から聞くのですが……」
アリスが正直に好奇心から聞く事を告げて前置きにすると、GLOCK17の各部品を入念に検分する涼介は手を止めて意外そうに言ってしまう。
「お前に好奇心があるって知らなかった。で?何が聞きたいんだ?」
涼介が聞く姿勢を見せると、アリスは自分の好奇心をそのまま口にしていく。
「恐らく貴方の事です。故郷であるこの世界に戻った翌日にあの2人の幼馴染と会った瞬間に只者ではない事を勘付いたのでしょう……その時、何を思い、感じたのですか?」
アリスの問いに涼介は部品を机に置くと、正直に答えた。
「最初は当然驚いたさ。だが、何も感じなかった」
涼介が正直にその時に思った事を答えると、今度はアリスが意外そうに感じてしまう。
「それこそ意外ですね。貴方の事ですから、最大レベルで警戒していたかと思ったのですが?」
意外そうに感じながら問えば、涼介は正直にどうするつもりだったか?も含めて答えた。
「そりゃ警戒はしてるさ。だが、古くからの付き合いである腐れ縁の友であるのも事実。だから、隠してるだろう裏の顔に対しては不干渉を貫くつもりだったんだが……」
「見事に台無しになりましたね」
アリスが御愁傷様と言わんばかりに言えば、涼介はゲンナリとしながら「全くだ」そう返すと、GLOCK17の各部品の検分を再開した。
数分後。入念に見聞して異常が無い事を確認し終えると、各部品に付いた自分の指紋を拭いながら組み立てていく。
1分も掛からずに組み立てが済めば、ドライファイアしての点検を実施。そうして問題が無い事を確認すれば、17発のセミジャケットのホローポイント仕様な9ミリルガーが装填された弾倉をグリップ内に叩き込んだ。
そして、スライドを引いて戻して薬室に初弾を送り込めば、スライドを僅かに引いて薬室に9ミリルガーが装填されてる事を確認し、点検は完了。
その後。角張ったデザインが特徴的なサプレッサー……OSPREY9をGLOCK17にセットすると、大きめのボディバックに折り畳まれたレインコートと予備弾倉と共に収めて支度の半分を終わらせた涼介は机へと赴いた。
そして、夕飯までの残りの時間を涼介は宿題を進める事に充てていく。
暫くの間。宿題を進めて居ると、微かながらも足音が涼介の鼓膜に届いてくる。
涼介が宿題を進める手を止めると、部屋の扉がコンコンと叩かれ、母親の声が扉の向こうから響いた。
「涼介ー。ご飯よー」
「はいよー」
返事と共に席を立つと、涼介は部屋を後にして母親の背を追って行く。
程なくしてリビングへ来た涼介はダイニングテーブルの自分の席に着くと、母親と共に夕飯を食べ始めた。
夕飯……鯖の塩焼きと味噌汁。それに雑穀入りの白米を涼介が黙々と食べて居ると、母親が唐突に尋ねて来た。
「涼介。今日、学校で何かあったりしない?」
核心に触れるかの様に母親が問えば、涼介は何て答えるべきか?悩みながらも、正直に答える事を選んだ。
「クラスメイトの女子が、俺を悪霊だか怨霊扱いしながら殺そうとして来た」
「その娘の名前解る?」
母親が名前を聞くと、涼介は答える。
「芦屋 里奈って娘だよ」
「そう」
名前を聞くと、母親は涼介に尋ねる。
「明日、学校休んでも構わないわよ。生命を取ろうとして来たクラスメイトが居るんだし……」
息子を心配する良き母親の様に告げると、涼介はソレを当然の様に拒否すると共に理由も答えた。
「いや、行くよ。行かなかったら何か敗けた様でムカつくし、また仕掛けて来たら正当防衛って大義名分でボコボコにしてやっから」
息子が断固として退く気が無い事を母親として察すると、呆れながらも息子を愛する親として告げる。
「なら、弁護士用意するのも含めて対応出来る様に準備をしておくから……ボコボコにした後はキチンと通報するのよ?だから、銃は置いて行きなさい」
母親から銃の事を言われると、涼介は驚かなかったが、困った様子で尋ね返す。
「知ってたの?」
涼介の問いに母親は涼しい顔で肯定した。
「ベッドの下にはスコープの付いたバカみたいにデカいライフルと、大きな大鉈が有るわね」
その言葉に涼介が益々困った面持ちになると、母親は息子を心配する親として言葉を連ねていく。
「今みたいに昨日の夜にも何があったのか?正直に答えてくれたのは嬉しいけど、隠し事は無しにして。後、煙草は程々にしなさい……」
母親の言葉に含まれる意味……即ち「今夜、何するつもりだ」と言う問いを察すると、涼介は隠しても無駄と判断して正直に答えた。
「今夜、綾子と一緒に芦屋つうか芦屋の所属してる組織に対して交渉する為に必要な手土産を用意しに行く」
「何で其処にアヤちゃんが出て来るのよ?」
その問いに対しても、涼介は正直に答える。
「アイツも俺みたいに異世界帰りらしいんだけど、向こうで何か人間辞めてるらしくてその関係で生命狙わてるらしい……」
「成る程。だから、アンタの交渉に便乗して手土産を用意しようとしてる訳ね」
納得すると、母親は涼介に尋ねる。無駄だろうと思いながら……
「芦屋さんや芦屋さんの関係者が生命を狙って来ないようにお願い出来るんだけど、どうする?って言っても、貴方は拒否するんでしょうね」
ソレを肯定する様に涼介は告げる。
「拒否はしない。だけど、俺の今の目的に都合が良いから、手土産の用意はする」
「なら、せめて殺さずに済ませて」
その懇願に涼介は呆れ混じりに漏らしてしまう。
「何で、どいつもこいつも殺すなって言うんだ?」
異世界で屍山血河を築き上げ続けて来たが故に認識が壊れてしまってる涼介を見ると、母親は沈痛な面持ちを浮かべてしまう。
「実の息子が人殺しをするとか、母親にすれば卒倒モノ。だから、お願い……人殺しは辞めて頂戴」
母親として息子である涼介に人殺しはするな……そう懇願した。
そんな母親の願いに対し、涼介は少し困った面持ちになりながらも真剣な眼差しと共に受け入れた。
「残念だけど、約束は出来ない。でも、なるべく殺さない様にはする」
「約束よ」
その言葉と共に遣り取りが終われば、2人の母子は再び夕食を食べる手を進めていく。
10分後。夕食を先に食べ終えた涼介は食器を流しの水桶に浸けると、自室へと歩みを進めた。
自室でパンツとシャツと言った下着と、黒のボタンダウンシャツ。それに茶のチノパンを用意すると、リュックサックに納めていく。
だが、コレで支度が終わった訳ではなかった。
ベッドの前に赴いた涼介はその場にしゃがんでベッド下を覗き込む。
ベッドの下には大型のスコープが取り付けられたスケルトンストックと大型のマズルブレーキが特徴的な自作の大口径スナイパーライフルと、革製の鞘に収まる大振りのマチェテがあった。
そんな2つの品の内。マチェテを引っ掴んで取ると、ソレをリュックサックに収めた涼介はズボンの腰部分にリボルバーを再び挿し込み、今着てるシャツの裾で隠した。
そうして支度が完全に完了すれば、涼介はリュックサックを背負って部屋を出た。
階段を降りて廊下を進み、リビングに赴いた涼介は夕食を食べ終えたばかりの母親に出掛ける事を告げると、自宅を後にする。
外に出ると、夕日は完全に沈んで暗くなり始めていた。
そんな中でヘルメットを被った涼介が愛車であるニンジャ400へ赴くと、其処にはヘルメットを脇に抱えた綾子の姿があった。
「狩りに行くんなら、私も一緒に良いかしら?」
「好きにしろ」
吐き捨てる様に返した涼介がニンジャ400のスタンドを蹴り上げて跨がると、ヘルメットを被った綾子がその後ろに跨った。
それから直ぐにスターターを蹴ってエンジンを始動させると、涼介は獲物の元へと走らせるのであった。




