2話目
放課後を迎えて40分近く経った頃。
涼介は自宅に帰って来ていた。
「ただいまー」
玄関で帰って来た事を告げれば、リビングから「お帰りー」と言う母親の暢気な声が帰って来る。
そんなリビングへ赴いた涼介は昼食に食べた弁当の空き箱を台所の水桶に入れると、母親にこれから出掛ける事を伝えてから2階にある自室へと歩みを進めて行く。
程なくして自室に赴けば、涼介は制服のポケットからスマートフォンを取り出してスマートフォンに住まう相棒の1人を呼んだ。
「アリス」
すると、その呼びかけに対して応える様にスマートフォンから無機質ながらも女の声が響いた。
「芦屋 里奈のスマートフォンへの枝付け完了。同時に登録された全ての連絡先へも枝を付けてあります」
アリスと呼ばれた存在は一言で言うならば、電子生命体に他ならない。
彼女は電子の世界に於いて敵うモノ無し。それ故に他人のスマートフォンをハッキングする事はチャメシインシデントであった。
そんな存在が呼びかけに対し、報告で返すと涼介は確認する様に問う。
「退魔師連中の動きは?」
「現状。貴方への殺害命令は制式に発刊されておりません。ですが、昼に芦屋 里奈が東京都内にある本家へメールで危険人物であると報告してます」
その報告を聞いた涼介が「そうなると本格的に俺を殺しに来るまで時間はあると見るべきか?」そう独り言ちると、アリスは問う。
「そう見るのが妥当でしょうが、時間の問題でしょう。それで、マスターは交渉が上手く行かなかった時の対応は考えてるのですか?」
その問いに涼介はさも当然の如く告げる。
「その時は、"敵なら殺せ"を何時もの様に実践するだけだ」
涼介の答えを聞くと、アリスは呆れてしまった。
「貴方の事だからそう言うと思ってました。なので、芦屋 里奈がメールを送った先である東京都内にある拠点をハッキング。同時にバックドアを形成し、連中の動きをモニタリングすると共に電子面に於いて掌握しておきました」
サラッととんでもない事を報告されると、涼介は驚く事なく当然の様に返した。
「流石だな。仕事が早くて助かる」
そんな涼介に対し、アリスは更に報告する。
「そのついでに貴方の幼馴染である塚地 将の保有する端末にも枝を付け、彼が保有、管理するダークウェブも掌握しておきました。其処のデータベースに彼が述べた犯罪者達の記載があったので確認したのですが、連中はこの国のヤクザという犯罪組織とも大きな繋がりがある様です」
アリスからさらなる報告を受けると、着替え始めていた涼介はゲンナリとしてボヤいてしまう。
「ヤクザがファンタジーやオカルトに頼るとはな……世も末だな」
「ヤクザ……花菱会傘下の組の1つである浜城組が大いに関わっており、警視庁のデータベースを調べた所、浜城組は花菱会に於ける特殊部隊の様な立ち位置の様です」
アリスがシレッと警視庁をハッキングして得た情報を知ると、涼介は思案する様に呟く。
「ソイツ等の規模は?」
「データベースには組長である浜城 沙也加と組員5名の記載しかありませんでした。恐らくですが、データベースには記載の無い者達が多数居る可能性があるでしょう……特殊部隊と言うならば、記録に無い者達が居たっておかしくないです」
アリスから報告を受けると、涼介は尋ねる。
「ソイツ等の居場所と連絡先は組長が知ってるだろうな……組長のスマホが有れば見つけ出せるか?」
「連中が電子端末を持っていない。と、言う事が無ければ簡単です」
「なら、場合によってはヤクザ連中を血祭りに上げる方針で。そうならない様に願いつつな……」
「了解」
そうして方針の1つが決まると、次の課題へと移った。
「さて、塚地の齎す情報と物資。その2つ如何で色々と変わるんだが……お前の意見は?」
今の主である涼介から問い掛けられると、アリスはスマートフォンを介して淡々と述べていく。
「先ずは最悪の場合ですが、退魔師連中と殺し合うのは避けた方が良いです」
「と、言うと?」
「連中は警察とも深い繋がりがあり、貴方風に言うならばファンタジーとオカルトが絡んだ事件が発生した際に協力して対処するからです。ソレが意味する事はただ1つ……」
「連中は日本政府の紐付きでもある訳か」
「そう言う事です。退魔師連中を殺しに行くのは警察を敵に回すのと同義語になります。なので、退魔師連中と一戦交えるのは辞めた方が得策です」
アリスから芦屋 里奈が属するだろう退魔師組織が警察と深い繋がりがあり、日本政府の紐付きでもある事を聞かされると涼介は「なら、敵対しない方向で動くしか無い訳か」そうボヤいてしまう。
そんな涼介にアリスは更に言葉を続けていく。
「なので、マスターが画策している敵対関係にならない為の交渉がやはり無難。同時にその交渉を大いに有利に運ぶ為にも手土産は必須でしょう」
「手土産ねぇ……クズな連中の首だけじゃ、駄目か?」
涼介がゲンナリとした様子でボヤくと、アリスは他人事の様に宣った。
「この国の言葉にある、"塵も積もれば山となる"。コレを実践する羽目になるでしょうが、マスターなら簡単でしょう?貴方、殺しの腕は超一流なんですから……」
アリスの言葉に涼介はムカッとした様子で返す。
「何、他人事みてぇに言ってんだバカ野郎。俺がブタ箱にブチ込まれたら、お前の願いも叶わねぇんだぞ」
アリスの願いが叶わない。
ソレを聞くと、アリスはサラッと言って除けた。
「その時はマスターとは別の人間と契約するだけです。とは言っても、マスター以上に奴を殺せる確率がある人間を捜すのは至難の業でしょうが……まぁ、何とかなるでしょう」
アリスが無情に告げれば、涼介は呆れながらボヤいてしまう。
「ホント、お前って俺をヤル気にさせるのが上手いわ。なぁ、退魔師連中のデータベースに連中が最も始末したい奴は居ないか?ソイツの首を手土産に出来れば、ソレで直ぐ終わるんだが?」
ボヤきながらも手土産として好都合な存在が居ないか?問えば、アリスは告げる。
「居ますよ。しかし、ソイツに関する情報が無きに等しいです」
居るには居る。
だが、そのモノに関する情報が無いに等しい。
そう聞かされると、下着姿で両腕にあるタトゥーを露わにしていた涼介は首を傾げてしまう。
「どう言う事だよ?」
「今言った通りです。詳しく知りたいなら、誰か知ってる者に聞くか、直接踏み込んで調べるのが妥当でしょう……幸い、居場所だけは解ってるので」
「何処だ?」
「京都です。京都のとある禁足地となってる某山にその存在が居るとの事です」
アリスから居場所を聞かされると、涼介はまたもゲンナリしてしまう。
「流石に遠いな。まぁ、新幹線で行けば数時間なんだろうが……ソイツに関しては裏取りが出来るまで保留だな。あ、ヤクザ絡んでる浜城も保留だ」
「交渉が上手く行けば、私の願いでもある貴方が一番殺したいあの"クソアマ"の居場所を掴む手掛かりが得られるかもしれないので頑張って下さいね」
またもアリスが他人事の如く宣えば、涼介は呆れ混じりに返した。
「ほんと、お前って仲間想いだよこのクソAI」
「お褒めに預かり光栄です。クソ野郎」
そんな遣り取りで締め括れば、涼介はさっさとジーンズを履き、上には長袖のボタンダウンシャツを羽織ってボタンを閉めた。
そうして着替えを済ませると、腰にリボルバーを差し込んだ涼介はベルトのバックルに異世界へ戻された時にリボルバーと同様に共にあった物品の1つであるプッシュダガーを取り付け、上着の裾で覆い隠した。
そして、ポケットに財布とスマートフォン。それにラッキーストライクと長年愛用してきたトレンチライターを収めると、部屋を後にする。
廊下を進んで階段を降りて再びリビングへ赴くと、涼介は暢気にテレビを眺める母親へ告げる。
「母さん。出掛けてくる」
その言葉に母親は振り向くと、暢気に言う。
「気を付けるのよ。それと、夕飯までには帰って来なさいよ」
「わかってるー」
そう返すと、涼介は玄関に赴いて靴を履いてからフルフェイスヘルメットを手に取ると、ソレを被った。
その後、去年の冬にバイト代を貯めて購入したバイク……カワサキのニンジャ400にキーを挿して跨がると、隣の家からヘルメットを脇に抱えた綾子が出て来た。
「私も乗せてくれる?」
その言葉に応える様に涼介が沈黙と共に乗れと後ろを指差せば、綾子は後ろに乗った。
綾子が後ろに乗ったのを確認すると、涼介はスターターを蹴飛ばしてエンジンを始動させて走り出すのであった。
数分後。
塚地の家とも言えるマンションに着くと、涼介は駐輪場にニンジャ400を停めた。
それから綾子と共にエントランスを通り、塚地の自宅である一室へ赴けば、直ぐに塚地が迎えてくれた。
「早かったな」
「そうでもないだろ?」
そんな遣り取りをして「お邪魔します」の言葉と共に2人が中に入ると、塚地が「俺の部屋な」そう告げた。
それから少しして2人の為にジュースと2つのグラスを持って来た塚地が来て、早速始まった。
「涼介、此処は禁煙だからな?」
「へいへい」
涼介に煙草を吸うな。そう釘を刺して前置きを済ませれば、塚地は語り始める。
「先ず、退魔師連中の死んで欲しい連中に関してだが……1つはヤクザ絡み。もう1つはヤクザ抜きの得体のしれない連中だ」
塚地が其処で言葉を止めると、涼介は質問した。
「ヤクザ抜きの連中ってのは?」
その質問に塚地は誰でも解る様に答える。
「呪術廻戦に居る様なフリーで好き勝手してる連中だ。カネさえ貰えれば、自分の親だって殺す様なクソばっかだ……まぁ、ヤクザ絡みの連中も同じクソだけどな」
「スッゲェ解りやすい答えをあんがとよ。それで?お前さんはどっちに死んで欲しいんだ?」
涼介が問えば、塚地はさも当然の如く答える。
「決まってる。両方だ」
そんな答えを聞くと、涼介も同様にさも当然の如く返した。
「だと思った」
「俺としてはヤクザ絡みの方を片付けて欲しい所なんだが、後者の連中の一部が不穏な動きをしてるのも事実でな……お前にどっちを始末して貰うべきか?正直、悩んでる」
アッケラカンに幼馴染に殺しを依頼するかの様に告げる塚地に涼介は呆れてしまう。
「頼んだ俺が言うのもアレだけどよ、幼馴染に殺しを頼むのはどうかと思うぞ?」
至極当然の言葉を涼介が言えば、塚地は何の躊躇いも無く斬り捨てた。
「銃を持ち歩く奴を堅気扱いする気にはなれねぇよ……ボブ・マンデンばりに早撃ち出来る奴なら尚更な」
塚地も綾子と同様に屋上での遣り取りを知るからこそ、涼介が芦屋 里奈に見せた目にも留まらぬ素早いクイックドロウと知っていた。
それ故に塚地は幼馴染と言えど、涼介を堅気扱いする気にはなれなかった。
そんな塚地に涼介はボヤく様にして言う。
「好きで身に付けた訳じゃねぇ。生き延びる為に仕方無くだ」
「だと思った。さて、話を戻すぞ……迷ってるとは言ったが、俺の中では後者を早急を始末するべきではないか?そんな結論が仮説の段階ながらもある」
塚地が話を戻すと共に後者の連中を始末するべき。そう告げると、今度は綾子が質問した。
「その根拠は?」
「裏の世界じゃ、水面下でコソコソして動き回る連中ってのは大概は碌な事をしねぇから……ってのもあるが、一番の理由はある人物が関与してる節があるからだ」
そう答えた塚地は勉強机に赴くと、その上に置いていた1枚のフィルム式写真を取って2人に差し出して来た。
涼介と綾子が写真に写る赤い円で囲われたソフト帽にスーツの口髭を生やすイケオジとも呼べる中年の男に視線が釘付けとなれば、塚地はそのイケオジに関して説明する。
「その男は元退魔師で何年もの間、消息不明だった奴だ。名前は残念ながら不明。解ってる事は、ソイツはフリーのロクデナシ共を集め、水面下で行動を続けてるって事ぐらいだ」
そう告げると、塚地はジュースを一口呑んで一息ついてから更に続けた。
「俺の経験上、何年もの間ずっと消息不明だった奴がいきなり姿を見せ、コソコソ動き回って足取りが辿れないってのは良くない。いや、危険な兆候と言わざる得ない。で、コイツに関して退魔師の"御偉いさん"に聞いた所、答える事すら拒否した上で俺に居場所を聞いて来やがった」
塚地が「奇妙な話だろ?」そう締め括れば、涼介は単刀直入に尋ねた。
「つまり、ソイツの首を手土産にすれば俺の面倒が解消される。そう言う事か?」
涼介の問いを塚地は概ね肯定した。
「其処ら辺の確証は無いが、向こうも無碍には出来なくはなるだろうな……何せ、御偉いさんはコイツを殺したら言い値で首を買うと抜かしたくらいだ。幾分かは交渉の際の手土産にはなると見ても良さそうな感じはする」
「なら、コイツの居場所は?」
「残念な事にコイツがホテルやらレストランやらを利用した節が無くてな……雲行きは非常に良くない」
塚地が答えると、涼介は次の質問を投げた。
「ソイツとは別に退魔師連中が殺したがってる奴が京都に居るって聞いたんだが、お前なんか知らん?」
その問いが投げられると、塚地は驚きを露わにしながら問い返す。
「お前、ソレを何処で知った?」
「ネットの陰謀論にあった。で、京都の奴に関して何か知ってるか?」
「生憎とオカルトとファンタジーは専門外だから詳しい事は知らん。だが、風の噂で聞いた話だと、数百年。下手したら千年前から退魔師連中はソイツに対して恐れ続けてるそうだ」
塚地が答えると、綾子は思った事をそのまま口にする。
「祟り神かしら?案外、九尾の狐だったりして」
「どっちにしろ関わるのは辞めた方が良い存在なのは確かだ。数百年だか数千年もの長い間ずっと恐れられ続ける存在なんぞヤバい以外の何者でもないだろうしな……」
綾子と塚地が互いに言えば、涼介は平然と宣った。
「つまり、何か企んでる奴とその祟り神の首を手に入れれば、俺の問題は完全に片付くって訳だ。先ずは企んでる野郎の企みを台無しにしてやりたいから、ソイツに関して解ってる範囲で教えてくれ」
涼介の言葉に何を言っても無駄。そう察すると共に既に用意していた件の人物に関して解ってる範囲で纏められた資料の収まるマニラ封筒を机から取ると、ソレを涼介に差し出しながら真剣な面持ちで警告する。
「俺の方で解ってる範囲はコレだけだ。だが、気を付けろ……さっきも言った様にホテルやらレストランとかを利用した形跡は無い。そう言うのは危険な兆候でもあるし、同時に件の人物は凄腕と言う事も意味してる。ヤバくなったら直ぐに手を引け……下手しなくても死ぬぞ」
諜報を含めた裏の世界を知るからこそ、塚地は件の人物に対して危険な気配を嗅ぎ取っていた。
それ故に塚地は涼介に対し、心配する様に告げ、警告もしたのだ。
だが、そんな塚地の心配を鼻で笑う様に涼介は平然と返す。
「安心しろ。俺はその手のクソを狩るのは得意分野だ」
「だとしてもだ。用心はしろ」
「覚えとく」
そう返した涼介はポケットからスマートフォンを取り出すと、写真の男を撮影した。それから資料を読み始めると、思い出したかの様に塚地に要求した。
「あ、悪いんだけどよ……銃と爆薬を用意してくれないか?」
「何が欲しい?」
「そうだな……手始めにCoDのプライス大尉が使ってる様なサプレッサーが付けれる良い奴。小さいのとデカいの両方頼む」
涼介が要求する内容に塚地は少し考えると、仕方ない。そう言わんばかりの態度で告げる。
「良いだろう。他には?」
「スナイパーライフルとソレを試射出来る場所も頼む」
「スナイパーライフルはどう言うのが良いんだ?」
「そりゃ、プライス大尉が好みそうな良い奴に決まってる。あ、対物ライフルと最高級のスコープもセットで頼むわ……後、三脚と二脚も忘れずにな」
厚かましいにも程がある涼介の要求を塚地はゲンナリとしながらも呑んだ。
「なら、今週の土曜日に俺が指定した場所に来い。其処で試射も出来る様に手配しておく……」
「悪いな」
「気にすんな。お前に投資した分、お前が稼いでくれれば問題無いだけの話だから……」
塚地がトコトン利用する事を明言すれば、涼介はソレを快諾するかの様に返した。
「良いぜ。今回はお前の望みを可能な限り適えれる様に動いてやるよ……だが、今回限りだからな?後、銃は全部貰うぞ」
チャッカリと提供された銃を全て戴く事を告げれば、塚地はソレを平然と呑んだ。
「好きにしろ。だが、サツにパクられても銃の出処は喋るんじゃねぇぞ……喋ったら、口封じするのを忘れるなよ」
塚地から釘を刺されると、涼介は1つだけお願いして来た。
「俺を黙らせるのは良いが、父さんと母さんには手を出さないでくれ」
「安心しろ。其処ら辺はキチンと心得てる」
「なら、安心だ」
涼介と塚地が互いに合意すると、今まで沈黙していた綾子が口を開いた。
「マーくん、私も涼介の狩りに参加して良い?」
「別に構わないよ。つーか、君が其処のバカ野郎をバックアップしてくれるなら、俺としても助かるから寧ろして♡」
「なら、良かった。で、何処までやって良いの?」
綾子が問うと、塚地は告げる。
「俺に迷惑が掛からない範囲でなら好きなだけ……だけど、だからといって警察やら退魔師やらに手を出すのは無しな?流石に庇いきれない」
塚地が注意事項で締め括れば、涼介が「安心しろ。そこら辺も弁えてる」そう告げるが、塚地にすれば安心出来る点が見当たらなかった。
「本当に大丈夫かよ?」
「少しは信用しろって」
「不安材料しか見当たらねぇわ」
塚地がボヤく様に返せば、涼介と綾子は心外だと言わんばかりの表情を浮かべながらジュースを飲むと、忘れてた事を思い出した。
「おっと。忘れる所だった……芦屋 里奈と彼女が属する退魔師組織に関してだが、コイツ等はさっきも言った様に日本政府側の紐付きで、呪術廻戦の主人公達みたいな正義の味方側だ」
塚地が改めて芦屋 里奈と彼女が属する退魔師組織に関して解りやすく語ると、喫煙欲をジュースを飲んで誤魔化していた涼介は呆れ混じりにボヤいてしまう。
「まるでラノベの世界だな」
「俺からしたら、異世界帰り云々も充分ラノベの世界だよ」
涼介のボヤきに対し、塚地が思った事をそのまま返すと、綾子はふと思い出した様に涼介に尋ねる。
「涼介って魔法使えるの?」
その問いに涼介は吐き捨てる様に問い返えした。
「魔法使える奴が銃を使うか?」
「寧ろ、使うでしょ。某極悪メロンパンじゃないけど、人間相手なら銃とかの現代兵器はドンドン取り入れた方が効率的だし、文明的じゃん」
身も蓋も無い事を宣った綾子に涼介は同じ事を尋ねた。
「そう言うお前は魔法使えるのか?」
「それなりに使える程度だけどね」
「ゼッテー嘘だろ。どうせ、ラノベよろしくメッチャ強力なのやチートめいた魔法を鼻歌混じりに使えるんだろ?」
懐疑的な眼差し交えて涼介が綾子にボヤくと、話が脱線しそうになってるのを察した塚地は手をパンパンと叩いて軌道修正を図った。
「ハイハイ。また話が脱線しそうだから其処で終わりにしろ。さて、話の続きとしては俺としては国家権力と決定的な敵対をするのは何としても避けたい。理由は単純に幼馴染が一面記事やニュースにデカデカと顔を出しながらブタ箱に入るのを見たくないからだ」
塚地がいけしゃあしゃあと宣えば、涼介は呆れ混じりに茶々を入れる。
「よく言うぜ。一番の理由は商売の邪魔になるからだろ?」
涼介の指摘とも言える茶々に塚地は臆面もなくサラッと返すと、他にも理由があると告げた。
「本音と建前って大事だから当たり前だ。まぁ、他にも理由はある」
「理由?具体的には?」
「彼、彼女等、退魔師組織は人々の守護者でもある事さ……俺みたいな寄生虫じみた商売人は平和な社会と国家があってこそ商売が成り立つ。そんな平和を護る連中はある意味で、俺の商売を護ってくれる」
「"俺は必要悪"とか抜かしたら殴るぞ」
「バカ言え。万引きも人殺しも同じ犯罪者で悪だ……そんな悪である俺としてはだ、保身もガチで大事だから政府紐付きの正義の味方連中とは仲良くしておきたい。勿論、敵対するなんて以ての外だぞ」
自己中心的とも言える詭弁を宣う塚地に涼介が益々呆れると、塚地は更に続ける。
「兎に角だ。お前、場合によっては退魔師組織と一戦交える腹だろうが、ソレは絶対に辞めろ」
「嫌だ。と、言ったら」
その問いに塚地はハッキリと告げる。
「その時は残念だが、お前には死んで貰う。安心しろ……オバサンとオジサンに手を出さないのは確約してやるから」
この時の塚地は裏の世界の王として告げていた。
そんな塚地の断固たる意志に満ちた言葉に対し、涼介は少し困りながらも譲歩するのを選んだ。
「解った。俺からは手を出さないのは確約する。だが、向こうが手を出して来たら迎え撃つし、場合によっては殺す」
そんな涼介の譲歩に便乗する様に綾子も自身のスタンスを告げた。
「私も向こうが仕掛けて来るなら、容赦しない。殺さない様には心掛けはするけど、駄目なら諦めて」
2人の言葉に困った様子になりながらも、塚地は釘を刺す。
「殺すな。纏まる話が纏まらなくなるし、そうなったら、俺はお前等の敵に回らざる得ない。幼馴染としてお願いする……退魔師連中は絶対殺すな」
裏の世界の王としてではなく、2人を良く知ると共に仲の良い幼馴染として塚地が懇願すれば、2人は沈黙で返した。
そんな沈黙で話が終わると、塚地の仕事用のスマートフォンが電子音を響かせる。
塚地は2人を前にしながらもスマートフォンを手に取ると、電話に出た。
「どうした?」
「例の"IS印"の"錠剤"を弄ってた中東の連中を確保しました。如何致しますか?」
部下からの確認を受けると、塚地は確認する。
「全員確保したか?」
「はい。全員確保しました」
「なら、中東式にクレーンで吊るしてやれ……で、その動画を連中のお仲間に送れ。見せしめも兼ねたメッセージに良い」
「早速始めます」
その言葉と共に電話が済むと、程なくしてライブ映像が送られて来た。
スマートフォンの画面内で複数人の中東系の男達が、淡々とクレーンに吊り上げられていく。
吊り上げられる度に男達が藻掻き苦しみ、足をバタバタとさせる様を塚地が眺めてると、何時の間にか後ろからソレを見ていた涼介と綾子は呆れてしまう。
「日本でも向こうと同じ光景を見るとは思わんかったわ……」
「苦しめて殺すのは酷くない?」
そんな2人に対し、塚地は笑顔を向けて告げる。
「見せしめは大事だ。それなのに、凌遅刑にしないで吊るすだけで済ませてる俺はメチャクチャ優しいだろ?聖人に列席したって良いくらいにさ?」
ピクリとも動かなくなって奇妙な果実と化した複数人の男達だったモノを尻目に告げれば、2人は塚地にドン引きするのであった。




