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童話

ぼくのヒーローと、あめ玉

作者: しぃ太郎
掲載日:2025/12/16



「俺はケンジだ!ちなみに、弟も妹も沢山いるからな。頼られるのは慣れてる!お前ら、困ったことがあれば何でも頼ってきていいからな!」


 教室はシーンと静まり返ってしまう。

 しかし。


「俺は勉強出来ねえバカだから、勉強だけは頼るなよ!」


 そうケンジが言うとクスリと空気が動いた。


 転校生のケンジと、学級委員の、僕、マコト。


 これがはじめての出会いだった。小学三年生の、僕にとっては大きな出来事だった。


 先生から、転校生と仲良くしてやってほしいと頼まれた。


 僕は、頑張ってケンジと仲良くしようと思う……。


 思うけど、この馴れ馴れしさは、いったいなんだ!?


 先生からの言いつけは無視するし、授業中は寝ているし。

 

 それなのに放課後は、僕を街中連れ回して、

「行ったことない場所を探そうぜ!」

 と言い出す。


 僕は、不安で仕方がなかった。

 子どもだけでこんなに出歩いたことなんてない。


 学校から帰ったら、すぐに宿題をする。

 それが僕の毎日だった。

 それ以外の過ごし方をしらなかった。



 ――ある日。


 ケンジに連れ回されて街を歩いていたら、目の前のおばあさんが前かがみに倒れ込んだ。


 この暑さだ。


 熱中症かもしれない。


 僕が、誰かに助けを求めようと周りを見渡すと――。


 ケンジがおばあさんに駆け寄って、肩を貸していた。


「大丈夫か?おばーちゃん!歩けるなら、日陰に行こう!」


 近くに人はいなかった。

 僕は、ケンジの反対側に回っておばあさんに肩を貸した。


 間違いだったかもしれない。人を探して、この場をすぐに離れた方が正解だったかもしれない。


 でも、何が答えかわからない。

 この場で、おばあさんを一人で横たわらせるのも正解かわからない。


 おばあさんを日陰まで運び、ケンジは人を呼びに走っていった。


 そして、大人を連れてきて、おばあさんを助けてくれた。


 ただの貧血で倒れただけだったらしいおばあさんは僕たちにあめ玉をくれた。


 あめ玉一個だ。


 でも、ケンジは嬉しそうに言った。


「おれたち、ヒーローみたいだったな!」


 なにが正解かわからないけれど、やけにケンジが眩しく見えた。




 ケンジは少し汚れて着古した服を着ていた。

 女子たちがクスッと笑った。


 でも、ケンジは気にしたようすもなく言った。


「これは、お気に入りなの!むしろ、古いから、びんてーじ?ってやつ」


 そう言って笑っている。


 なんで僕は胸がモヤモヤするのか、上手く考えることができなかった。





「これさぁ、お前に預けとく。俺だとなくしそうだし!明日、一緒に、埋めにいこうぜ!」


 その箱は、タイムカプセルを埋めようぜ!って約束したものだった。


 ちょっと、雰囲気が違うな……。僕が、ふと、そう思ったケンジの笑顔。


 夕日が彼の顔に影を差したからかもしれない。



「あー、皆にお知らせだ。昨日、ケンジくんは家庭の事情で他の県に引っ越していった」


 教室を見渡して、先生は続けた。


「あいさつの手紙を受け取っているが……」


 ――え?


 ドクンと胸がなった。

 心臓がバクバクして周りの音が聞こえない。


 だって約束、した。


 今日の放課後に一緒に埋めようって。約束したんだ。


「ウソだ!絶対そんなことない!」

 

 僕は先生の静止も振り切って教室を飛び出した。


 ケンジの家に向かうために、全力で走った。


 ケンジの家には、いつもアイツが乗っていた自転車がなかった。


 カーテンもなにも、何もなかった。


 僕はその場で、空に向かって怒鳴った。


「約束したじゃんか! 嘘つき!

 お前、前に嘘はきらいだって!自分で言ってたじゃんか!」


 この箱はもう、見たくない。


『うらぎり者の箱』だ。


 僕は家に帰ると、ムシャクシャした気持ちで

 その箱を手に持った。

 

 ――ガンッ!


 部屋の押し入れに投げつける。それは壁に当たって転がっていった。


 それからは、見て見ないふりをするのに必死だった。




 ケンジが引っ越して、また僕は優等生として過ごしていた。


 先生に言われた。


「今までケンジの後始末大変だったろう?ありがとう、お疲れ様」


「これでイタズラもされなくて平和になる。本当嫌な奴だったよな」


 同級生が言っていた。

 周りでも、頷いたり、ケンジのやらかしをさらに言っていた。


 僕は、なにも言えなかった。


 でもこぶしは震え、ここにいるのがとてもつらくなった。


 バンッと机にランドセルを置いて荷物を詰める。


 そのまま、挨拶もせずに家まで走った。


 家では、お母さんに言われた。


「ようやく落ち着いて勉強できるわね」


 ――何かを否定された。


 僕は、僕は、勝手に振り回してくるケンジが苦手だった。


 約束を守らないで、あいさつもなく勝手にいなくなったアイツが大キライだった。


 でも、他の人からケンジを悪く言われるのはガマンできなかった。


 部屋に戻って、押し入れを探す。


 この気持ちがなんなのか、どうしてこんなにもケンジを気にしてしまうのか確かめたかった。


 あの、ケンジが僕に何かを預けたのははじめてだった。


 大切な宝物だと、特別な何かだと思った。それを証明したかった。


 開けた瞬間、あまりにもくだらなくて涙が出た。


 なんだよ、これ……。


 あの時のお礼の飴玉の、包み紙、じゃん。


 ――ほんと、お前が無茶するから。僕も肩を貸す羽目になった。


 こっちはお祭りの景品?


 ――あの後、こっちは叱られて大変だったんだぞ。


 バカやろう。

 本当にバカやろうだ。


 不器用な、バカでバカでバカで。

 僕の憧れだった、最高のバカヤローだよ……!


「あいつ、本当にバカだなぁ」


 何故か震える声。


 それでも言ってやる。

 だってここにいない、ケンジが悪い。


 もんくがあるならちゃんと僕に言ってこいよ。

 

 

 まだケンジの悪口を言うクラスメイト。


 僕は勉強だけは出来るから頼ってくれていい。でも、ケンジみたいにはなれないから。

 

 頑張るけどね、出来ないから……。

 

 でも、大切な友達が傷つけられた時だけ、その時だけはやってみせる。


 だから……これ以上、僕の前でケンジのことを悪く言わないで……!


 

 ――数日後。

 

 偶然街で、あのおばあさんに会って、お礼に飴をもらってしまった。とても感謝された。

 

 このあめ玉が、僕の「ヒーローになった証」のように思えた。


 そして、その箱にそっと包み紙を入れる。

 あの箱は、少しだけ重くなった。



 僕は、机からレターセットを取り出した。

 書き出しは、こうだ。

 

『僕のヒーローへ、バカやろう!』



 

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