6.半獣人な彼女の、故郷は
半獣人であることの否定の言葉を返した、マルマは、その下まつ毛が長く、異様に円らな、特徴的な目を、六人に向ける。六人を見る、マルマの目は、澄んだ光を宿すが、その光は、透明感ゆえに、どこか乾きのある無機質さを持つ。
そんなマルマの言葉に、今まで話していたディンが「え?」と呟く。
マルマは、手に持った、白い棒を、手首の動きだけで持ち上げ、肩に担ぐ。
その時、六人の隣のリンが、歩幅の小さいチョコチョコした動きで、マルマに駆け寄る。
そんなリンを、六人は目で追う。
マルマは足元まで来た、リンを見下ろす。
リンは、マルマの脚に、しがみつく。そして、その脚を挟んだ先から、六人を興味深そうにガン見する。
その視線を読みずらい複眼を通してでも、伝わってくる、リンの視線に、六人は気まずそうにする。
マルマは、足元のリンの、外骨格に触れると、顔を上げ、また六人に向け直す。
「だって、わたしの、お母さんも、お父さんも、普通の、人間、だったよ?」
そして小首を傾げながら、そう言う。
そんなマルマに、ディンは「あ、あぁ、いや。そ、うか」と声を出すと、次に眼鏡をかけた、細身の男、ジェイルに横目を向ける。
そんなディンの視線に、ジェイルもディンを見返す。少ししてジェイルは、ディンに頷き返すと、マルマに向き直る。
「えーっと、そうですね、なんといいますか。たとえご両親が人間であっても、隔世遺伝で半獣人が生まれる、ってことは、けっこうあるんですよ」
「かくせい、いでん?」
ジェイルの話しに、マルマは語尾が上がり気味の、たどたどしい言い方で返す。
ジェイルは、そんなマルマの反応に「あー」と呟きながら、頬を、中指と小指でかく。
「例えば、アナタのご先祖の誰か。まぁ、分かりやすく、ご祖父母がの誰かが半獣人だった場合、そこには獣人の血が入りますから。なので、この場合、ご両親の元に生まれた子どもが、半獣人である、って可能性は、けっこう高いんです」
そこで言葉を切ると、続けてジェイルは「お分かりいただけましたか?」と聞く。
そんなジェイルの顔を、マルマはボーっとした表情で見つめ、小首を傾げ「ふーん、そうなんだ」と返す。
マルマの返事に、ジェイルは「え、えぇ」と困ったように呟き、苦笑いを浮かべる。
そんな二人の間に、「おうおう、ちょいといいかい?」と野太く明るい声で、ジルダンが割り込む。
マルマは、ジルダンに顔を向ける。
ジルダンは、歯茎をむき出しにした、威圧感のある笑顔で、マルマに話しかける。
「嬢ちゃんたちはよぉ、どっから来たんだい?」
ジルダンは、一瞬、リンを見ると、すぐさまマルマに視線を戻し、訪ねる。
それにマルマは「ん」と呟きながら、森の、さらに奥を指さす。
マルマの指す方向を見た四人が、どよめき出し、ディンは先程よりも険しい表情になる。
ジルダンは「ちょいと待ってくれよ」と、少し引き攣り気味の笑みで、言う。
「えーっとだなぁ、もしかして、その方向に、村とか? そう言うのでも、あんのかい?」
そんなジルダンの疑問に、マルマは「ん? ないよ」と返す。
マルマの返答に、先程まで笑っていたジルダンは、次第に真剣な表情となり、片手で口元を摩りながら、考え込むかのように、俯く。
ジルダンの、その様子に、マルマは首を傾げる。
マルマたちと六人の間に、少しの間、沈黙が流れる。
そんな沈黙の中、急に「ちょ、ちょっと、アナタ」と、片手にバックラーを下げている女性、リサが、マルマに声をかける。
マルマは、リサを見る。
そんなマルマに、リサは近づく。そしてリサは、マルマの両腕に触れると、その顔を見上げる。
「そ、その方向って、アナタ、村とか、集落とかがないなら、魔境っ。魔境しか、あの危険な魔獣の巣窟しか、無いのよっ?」
そしてリサは、マルマの片方の手を取り、その腕を見る。マルマの腕を見た瞬間、リサは息を呑む。マルマの腕には、遠目では気がつけなかった、多くの白い古傷が、まるで血管かのように、びっしりと浮かんでいるのを、見つける。リサは、思わずマルマの手を放し、後ずさる。そしてリサは、大胆に露出したマルマの褐色の体に、目を向ける。すると、そこにも、びっしり傷跡が浮かび、その多くは、えぐれた傷を、無理やり自然治癒したかのように、不自然な盛り上がりをしていた。
なんて……、と思いながら、リサは目を見開き、その手を口に当てる。
当のマルマは、そんなリサを、ボーっとした不思議そうな表情で見つめると、「んー」と呟きながら、頬に生えた黒鱗を、弾くように人差し指で引っかく。
「確かに、農村に、いたとき、お母さんとかから、魔境が、ある、って、言われてたなぁ。絶対、近づくな、って。たぶん、そこのこと」
「じゃあ、なんでっ。村から、出ちゃったのっ!」
リサは、またマルマに詰め寄り、その両腕を掴みながら、キツく言う。
そんなリサに、少し心配そうな視線を向けながら、マルマは「村の、みんな、死んじゃった」と、淡々と言う。




