3.森の死神の鎌を、踏み潰せし、豪脚
マルマたちは、拠点として構えていた、洞穴を発ち、数日かけ、魔境の地を離れる。魔境を抜け、そこから少し進んだ、森が開けた場所で、マルマと、黒い外骨格を持った小人たちは、大地が盛り上がることでできた、マルマがしゃがめば入ることができ、かつ全員が雑魚寝できるくらいのスペースの空間で、夜を明かしていた。
やがて日が昇り、周りが、しっかりと明るくなった頃に、マルマたちは、大地でできた空間から這い出ると、手作りの荷物入れに、荷物をまとめ始める。
すると、その時、少し先から、微かな音が響く。
その音に、マルマたちは動きを止め、マルマは耳を澄ます。
マルマの耳には、何度か、その甲高さのある音が届き、やがてマルマは、音が、金属と、何か硬い物がカチ合う音であることに気が付く。
「ちょっと、見てくる。チビたち、片付けてて、終わったら、帰る」
その音を聞きつけたマルマは、股下くらいから見上げて来る、小人たちを、見下ろし、そう告げる。そんなマルマに小人たちは頷く。
それを見ると、マルマは、次に小人の中でも、少しだけ細身で、色素の薄い外骨格を持った小人を、見る。
「リン、いっしょに、来て」
リンと呼ばれた、小人は、そんなマルマに、小さく頷く。
そんなリンを見ると、マルマは、片膝をつき、しゃがむ。そんなマルマの背に、リンは飛び乗り、掴まる。マルマは背負ったリンの、その尻を片手で支えると、立ち上がると、すぐさま駆け出し、音の響く先の、森の中に入って行く。
足場の悪い森の中で、マルマは、地面の起伏を激しくし、足場の安定を乱す元凶である、木の根を、あえて力を籠め踏みしめる。
筋肉質であるが、その引き締まりによって細身に見えるマルマの体の中で、唯一、威圧感を持って肥大化した、脚の筋肉が力む。細やかだが、獰猛さを持って発達した筋肉が、縛り込むかのように重なり、しかし押さえ込めなかった嚇が漏れ出したかのような肥大化をした筋肉の、その彫り込みが、喰いこむ爪牙のごとく、深まる。
その嚇虎のごとき豪脚は、次の木の根に向け、跳ねるようにして、飛び移る。木の根と木の根の間を、その獰猛さに見合わず、洗練されたリズミカルな動きで、渡り続け、マルマは素早く森を駆け抜けていく。
不安定な足場を進む上で、最も注意を払わなければならないのは、予期せぬ瓦礫を踏み転倒するリスクである。如何にして、予期せぬ瓦礫を踏まないか、または踏んだとしても転倒しないか、が不安定な足場を進む上での、最重要事項となる。ここで木が多く生えている場合においてだけ、想定外の瓦礫を踏む確率を、最小限に抑える歩法がある。それこそが木の根と木の根の間を、渡るようにして進むことだ。
森林地帯においては、木の根こそが、地面に強い起伏を作り、かつ地面を割りながら成長することで瓦礫を作る、不安定な足場の、最大の原因であった。この木の根が生み出す、死神の鎌のような、自然の障害物が足元を掬い、森での死闘の、生者と死者を決定するのが、常である。この木の根の恐ろしさゆえに、多くの人々が見逃す事実がある。それは大抵の場合、木の根の上に、足元を掬う障害物が乗っていることは、ほぼない、ということだ。
木の根は大地を突き破り、地面を割りながら表出することで、瓦礫ができる。そこから地面が割れて、瓦礫ができるのは、木の根の周りだけなのだ。もしも例外的に、たまたま足を掬うような障害物が、木の根に乗ってしまったとしても、その成長過程で、いずれは振り落とされてしまう。
しかも気候すらも、木の根の上の、障害物の排除に、一役買っているのである。例えば雨風の影響は、地面において、一番、盛り上がった部分が、集中的に受けるはずである。そして木が生える地面において、一番、盛り上がった部分は、木の根である。このことから木の根の部分が、集中的に雨風を受けることになる、と分かる。よってもしも木の根の上に、障害物が乗っていれば、真っ先に吹き落ち、流れ落ちる。
更には、多くの動物が、普通に歩くのであれば、最も躓く箇所が、どこかと言えば、もちろん地面の出っ張りである木の根だ。その動物が躓いた衝撃でも、障害物は振り落とされる。ダメ押しとして、このことに気付いている者は、木の根の上を優先的に踏む。それもあり障害物は、木の根を、優先的に踏む者により、踏み抜かれ、残ることはない。
よってマルマの歩法は、転倒のリスクを最小限に抑えつつ、最高効率で目的地に到達できる。
森を駆けるマルマは、しばらくして開けた場所に出る。
そこでは一体の、岩の体を持った細長く巨大な魔獣を、数人の、軽装の人間が囲い、互いに睨み合っていた。




