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原始人女子の巣立ち―魔境育ちの原始人女子は、お伴の獣人たちと都会を目指す―  作者: 裏律
一章 世界的危険地帯たる、魔境を旅立ち、原始人女子が成すこととは
1/3

1.天空の覇者の墜落を成した、その一撃は

 この日、世界的な危険地帯の一つである、魔境の、生態系の頂点に君臨する、天空の覇者が、初めて、地に墜ちた。


 魔境と呼ばれる大地に、その上空を、(かす)かな羽ばたく“ソレ”が、巨大な影を落とす。生まれ落ちはしたが、しかし影以外の、その身を落とすことはなかった大地を、珍しく“ソレ”は、三対、六つの目を、研ぎ澄まし、睥睨(へいげ)していた。

 無機質な鋭利さを宿す、六つの目は、危険な魔獣が(ひし)めく、広大な大地たる、魔境において、なお生態系の頂点にまで、容易く登り詰めた”ソレ”が、久しく見ることのなかった光景を写す。

 “ソレ”が見下ろす先では、後ろ脚で立つ、小さく黒い生き物の群れに、その上空を包囲した配下の、鳥型魔獣たちが、襲い掛かっているところであった。”ソレ”にとっては、小競り合いくらいでしかない、その争いは、しかし今までとは違う様相を呈している。

 上空からの、配下の魔獣たちの、勢いが付いた突進を、しかし小さい群れは、余裕を持って、()なす。

 魔境の覇者の一角の、その配下として、長らく、苦戦を知らなかった魔獣たちが、攻めきれないでいた。しかも時間が経つごとに、形勢不利の様相を呈している。

 久しく起こることのなかった配下の苦戦に、”ソレ”が、その戦いを注視した瞬間、それは起こった。配下の中でも、上位の強さを持つ魔獣が、吹っ飛んだのだ。そして吹っ飛んだ魔獣は、図ったかのように、他の配下の魔獣が集まっている場所に、突っ込む。

 その時、小競り合いが始まって以降も、戦いを俯瞰的に眺めるばかりであった”ソレ”は、初めて、小さな群れを注視する。六つの目に、真っ先に写ったのは、その小さな群れの中心で、細長い歪な、薄汚れた白い棒を、振り切った姿勢をした生き物であった。その生き物は、”ソレ”にとっては、他の有象無象と同じく、矮小であり、かつ小さな黒色の群れの中で、少し、薄い体色をしていたが、一際、大きな体格を持っていた。

 その生き物の姿を見て、”ソレ”は、率直に、みすぼらしい、と呆れと侮蔑の感情が漏れる。

 しかし、そのことよりも先に、”ソレ”が、真っ先に思い出したのは、この魔境において、己と同じく生態系の覇者の一角たる、あの暴虐にして、勇猛な、(ひひ)であった。しかし、その生き物には、狒のような、猛々しい肉体も、覇気を宿したかのように逆立つ体毛もない。”ソレ”からした、己の豪翼にて、風を吹き付けるだけ崩れてしまいそうな、狒とは似ても似つかぬ脆弱な細い肉体。体毛は、ほとんど生えておらず、その身を覆うのは、汚らしい褐色の薄い皮だけ。なのに中途半端に、頭と胸部と腰部分にだけ、あの狒とは真逆の、貧相な毛が生えており、しかもなぜか頭の毛だけ、他の毛よりも長い。”ソレ”にとって、その生き物の姿は、歪で奇怪で、滑稽であった。

 あの猛々しい狒に似た姿をしながらも、みすぼらく脆弱な身を晒す、その生き物の、恥の知らなさに苛立ちつつも、”ソレ”は、そんなことよりも、こんな矮小な生き物の姿で、想起してしまった狒への、大きな罪悪感を抱く。

 苛立ちと罪悪感を抱えながら”ソレ”は、三対、六つの目に、(かそ)けし淀みを灯しながら、小競り合いの場まで下降していく。

 すると”ソレ”の目下で、狒に似た生き物に、配下の魔獣の一匹が、猛烈な速度で突進する。狒に似た生き物は、歪な棒を、一回、振り切るように体の周りで回転させることで、一周してきた持ち手を、身を乗り出すような前項姿勢になり、両手で握り直す。一瞬、細くなった持ち手部分が、配下の魔獣の方向を向き、棒の太い部分を担ぐような姿勢となる。次の瞬間には、目の前まで急接近してきた鳥型魔獣の顔面に、狒に似た生き物は、回転の勢いが乗った、棒の太い部分を、身を引き、押し出すような動きで、叩きつける。

 配下の魔獣は、狒に似た生き物の一撃により、顔面が(ひしゃ)げ、更には、また図ったかのように”ソレ”目掛け、吹っ飛んでくる。

 ”ソレ”は、鈍い速度で飛んでくる配下の魔獣を、悠然とした動きで、避け、すぐさま小さな群れに、意識を向け直す。すると先程まで、そこに居た、狒に似た生き物が、忽然と姿を消していた。そのことに”ソレ”は、六つの目を、(かす)かに見開く。

 その刹那、”ソレ”の横を通り過ぎる、配下の魔獣から、影が一つ飛び出す。

 配下の魔獣が通り過ぎた側の、三つの見開いた目には、あの狒に似た生き物が、飛び掛かってくる姿が、写る。

 ”ソレ“が、なぜ、と思う、間もなく、その歪な棒に、細かな外骨格の連なりが、蠢くかのようなオーラが、太い部分に収束していき、次の瞬間には、狒に似た生き物は、”ソレ”の顔面に、歪な棒を、猛烈な勢いで叩きつける。

 己の顔面の骨が、潰れていく鈍い音を聞きながら、棒に罅が入る音も聞き、地に落ち始める”ソレ”は、己の身を砕きながらも、罅が入っただけの歪な棒に、驚きながら、片側の三つの目を向ける。

 狒に似た生き物は、片手だけ棒を持つと、墜落していく”ソレ”を、強く足蹴りにして、先に落ちていった配下の魔獣のところまで跳んでいく。その刹那、”ソレ”の三つの目には、狒に似た生き物の、手の形に凹んだ棒の持ち手が、写る。


 先に配下の魔獣と共に、地に落ちた、狒に似た生き物は、配下の魔獣を、地面に付く数舜前に、強く蹴り、跳び上がることで、地面に衝突する勢いを帳消しとし、着地する。そしてすぐに自らの群れに戻ると、数匹の小さく黒い生き物を担ぎ、奇妙な群れは逃げ去っていく。

 配下の魔獣たちは、群れを追撃することはなく、墜落した”ソレ“の元に集まってくる。

 ”ソレ”は目の幽けし淀みの灯を強める。すると”ソレ”の陥没した頭部の、機能を失った部位に、目に宿っていたのと同じ、淀みの灯が集い、やがて幽かな動きで陥没が盛り上がり、失った機能を取り戻す。しかし形だけは、元の形を取り戻した頭部は、しかしその傷口からは、とめどなく血が滴り落ちている。

 配下の魔獣たちに囲まれながら、立ち上がる”ソレ”は、逃げていく小さな群れを、三対、六つの目にて見送りながら、初めて落ちた大地の、知ってはいたが、今まで実感をしていなかった広大さを感じていた。

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