第2話 ~アオハルしてる?~
僕の合格した進学校で、生徒たちの青春は全て学習指導要領へと捧げられた。合宿とか文化祭とか、無駄に馴れ合うイベントが無い分、僕の孤立が深まることはなかった。
ただそんな中、例外的に体育祭だけが、学年行事としてその存在を許されていた。聞くところによると、普段から不足している体育のコマ数を、その1日でどうにか賄うためらしかった。
中学の行事は全て病欠した僕も、さすがにこの学園祭だけは休む気になれなかった。だが、そこに前向きな気持ちがあったわけではない。というのも、この学内には、『抜け駆けするやつは許せない』という強い同調圧力があったからだ。誰一人として、自分の貴重な勉強時間を運動如きに割かれたくはなかったのだ。そんな中、僕だけが休んだ日には、何をされるか分かったものではない。
結局、僕のチームは最下位のまま、最終種目の全学合同リレーを迎えた。敗北続きで士気の下がりきっていた空気は、正直言って心地良かった。半周差をつけられたチームの皆はスマホを弄り、参考書を読み、雑談し、誰一人としてそのイベントに関心を持つものはいなかった。ぼくも半笑いで、その様子を赤シート越しに眺めていた。
なのに。
追い上げてきたのだ。リーダー格のやつが。
全学合同リレーは、最終種目とだけあって、ポイントが加算式ではなく倍加式だった。つまり、この種目に勝てば逆転1位も狙える。
一人、一人とリレーに目を向け始めた。
リーダー格の奴を起点として、学級委員長、生徒会と、真面目な奴が後に続いた。
最初は沈黙の渦中にあった黄色チームだったが、彼らが1位を追い抜き、独走を決め込む試合最終盤には、熱い声援が会場を包みこんでいた。
『黄色!黄色!黄色!黄色!』
そんな中、自分に出番が回ってきた。2位との間には実に一周半もの差が開いていた。たとえ小走りでも、優勝は確実だっただろう。
だが、僕はバトンを取ると、その一体感の強まっていく体育祭の雰囲気の中に強い『友達』を感じ、トラックのど真ん中でゲロった。ゲロは黄色かった。
歓声は悲鳴に、それから罵詈雑言へと変わっていった。
こうして黄色チームは最下位になった。
以降、これを機とした彼らは、『罰』と称して、様々な拷問を僕に行った。
温厚だったクラスメイト達も、『罪人への罰』という大義名分が出来てからはエスカレートが早かった。皆、受験勉強でストレスを抱えていたのだろう。バリカンの刑、便器舐め掃除の刑、爪剥ぎの刑、……ともかく、バリエーションに富んだ様々な苦痛が僕にもたらされた。だが不思議な事に、僕がストレスの捌け口になることで、クラス全体の成績はみるみる上がっていったのだ。
いじめで相対的に僕の成績が下落すると、『クラスの平均値を下げる悪い奴』という烙印が僕に押される。僕と同じ分類になりたくない生徒たちは必死に勉強する。平均値はさらに上がっていく。教員もこの『正のスパイラル』を鑑みて、事実上いじめを黙認していた。
心身ともに限界を迎えた僕は、いじめられている最中の屋上で飛び降りる事にした。
今の僕ができる唯一の反抗、自殺。
生徒が死んだとあっては、さすがの警察も動かざるを得ないだろう。受験期の今、そんな事態が起これば、少なからず彼らの進路に影響が出るはずだ。
仮にそうでなくとも、彼らの人生に、少しでも罪悪感を植え付けれればいい。そう思った。
彼らに見せつけるように屋上から飛び降りた。
僕の身体が砂利の上に叩きつけられるのを確認した彼らは、非常階段を降りてくると、AEDで僕を蘇生し、目を覚ました僕を、その場で引き続きいじめ始めた。
誰かが持参した改造エアガンが体のどこかを貫いたあと、僕が再び蘇生されたのはこの、福谷区総合病院のベッドの上だった。




