「バカ3人でミスコンを語る」
【亮平】
「ミスコンの集計表って見た?」
「見た」
「さすが太一。チュージは?」
「ちょっとだけな」
「お前ら早いねー」
「武一に言って見せてもらったんだけどさ、結構奥深いよな」
何故か太一はミスコンの集計表を持っていて、それを見ながら語り出した。
「大門と結城でそれぞれ派閥があるのは知ってたけどさ、いざミスコンってなった時に1位で結城に入れるかなって。結城の後に大門の名前を書くのがリアルじゃないっていうかさ。俺もさ、いつもなら結城派なんだけど、そう出来なかったんだよね。で、みんなどうしてんのかなって見てみたら、やっぱ思った通りだった」
学年別で票数が書かれていて、3年の1位票は大門が75で結城は35だった。
「本当だったらもっと僅差になる筈じゃん? けどそうなってないだろ。やっぱミスコンってなると大門なんだよ。なのに、それでも結城に入れるって事はマジなんだよ。この35って数字は本気の数なんだよ。わかる? この35人はマジで結城が好きな奴だと思う。大門に入れた中にも本気な奴もいるかもしんないけど、ほとんどは推しみたいな感じだろうし。けど結城のはそうじゃないから」
「て考えると、結構多いな。35人いるって事だもんな」
「告白されまくるのは続くんだろうな」
「チュージは誰に入れたの?」
「長瀬と大門と新田」
「あー、チョーさんね。同じクラスだもんな。太一は?」
「俺? 俺は大門と結城と、、、あとは同じクラスの子」
あれ? と不思議な顔をしたチュージが聞いた。
「あれ? お前、新田に入れるって言ってなかったっけ?」
太一の顔色が一瞬で変わって「本当ゴメン、本当にゴメン」と言いながら、チュージに向かって手を合わせた。
「俺、スゲー考えたんだよ。本当寝れないくらい。ミスコンのチラシ見た時さ、浜崎と久白ちゃんの話したじゃん? 3年の票が割れると浜崎と久白ちゃんに持ってかれるって。あれ聞いてヤバいって思って。それで最後まで悩んだんだけど、結局大門と結城に入れちゃった」
「じゃあ新田の7位は太一のせいだ」
「それは言いっこなしでしょ。てか俺だけの責任じゃないし」
「それ、何の話?」
「コイツさ、新田の前で本人に直接『新田に入れるから』って言ってたんだよ。なのにさ」
「だからゴメンって。本当ちょっと後悔してんだから」
「集計表見ると、太一が入れなくても大門も結城も負けてないけどな」
「新田カワイソー」
ちなみに太一が入れたクラスの子はヘッドの事。しかも多分1位で入れている。
「けどさ、新田的にはどうだったんだろうな。自惚れがあるようには思えないけど、7位ってのは本人も予想してなかったんじゃねーか」
「まあな。1、2年は票が偏るのは予想出来たけど、上に2人もいるんだもんな」
「それが上澤とヘッドっていう」
「言っても、2人ともある程度人気はあるだろうけど一部って感じだもんな。知名度では断然新田の方が上だろうし」
「うん。俺も三番手は新田だと思ってた」
「あの時もさ、一瞬おや? とはなったけど、すぐヘッドが呼ばれて、上澤ってなって新田のはすぐかき消されちゃった感じだけど。案外サプライズだよな?」
「そうそう俺も思った。やっぱさ、俺らとしてはビッグ3の新田にはもっと上に居て欲しかったよな」
「ビッグ3ってなんだっけ?」
「大門、結城、新田」
「ああ」
「でもさ、案外それって、そうなってんだよ」
さっきまで泣きそうな顔をしていた太一がまた集計表を指して言った。
「俺もさ新田が7位だとは思わなかったからさ、だから武一に集計表見せてって言ったんだ」
太一が集計表を持っていたのはそれを分析する為だったようだ。
「これ見るとさ、ポイント関係なしで票数だけだと新田の方がヘッドと上澤を上回ってんだよ」
「そうなの?」
「新田はさ、1、2位票は少ないけど3位票が多いんだよ」
「本当だ。てかヘッドも票数だけだと上澤上回ってんじゃん」
「そうそう。あと上澤に入ってるのってほとんど1位票だけなんだよ。総票は大した事ないけど、それで稼いでるんだよ。多分K組の組織票だと思うけど」
「そういう事か。変だと思ってたんだよな」
「多分だけど新田を3位で入れた奴って、1位と2位で大門と結城に入れた奴だと思うんだよね。で、大門、結城の後の3番目は誰? ってなったら新田ってなった筈なんだよ」
「て事は、やっぱ3番手は新田って事か」
「そう。ビッグ3」
「現にさ、新田は票数100いってるし。総票で100以上ある奴って3年だと大門結城以外だと新田だけだぜ」
「何だ。新田やるじゃん」
「これ、新田に教えてやろうよ。本人も気にしてるだろうからさ」
新田に入れられた票の9割が3位票。『ビッグ3』の肩書きは本物だった。
「1、2年除いて3年だけに絞ると、順位はどうなんの?」
「確かに。ちょっと知りたいかも」
それも既に太一が分析済みだった。
1位大門、2位結城は順位通り。
そして、3位がへッド、4位新田、5位上澤、6位が長瀬だった。
「そっかー新田は4位なんだー。で、ヘッドが3位か。面白いっちゃ面白いけど」
ヘッドの隠れファンの多さには驚いた。1位票もそこそこある。
「上澤は、これ全部K組だろ?」
「多分な。でもあんま結果は変わんないか」
「3位のヘッドが意外にすげえな」
「でもさ、普通に考えたらやっぱ3番手は新田だよな。人気とか含めて」
「後さ、これ見るとさやっぱ大門って圧倒的なんだよな。1人だけ900ポイント超えてる。結城って2位だけど500ちょいだから」
「そんな差ついてんの?」
「うん。大門って得票率だけ見ると90%超えてんだぜ。3年だけじゃなくて全体でそうだから、男子の9割が大門知ってるって事。ただ知ってるだけじゃなくて可愛いって事を知ってるって事。1年なんか全員が大門に入れてるから」
「バケモノじゃん」
「ちょっと手に負えないよな」
「結城と久白ちゃんって、結構僅差なんだよな?」
「ポイントだと10ポイント差ぐらいだな」
「じゃあ結構結城ってヤバかったんだな。久白ちゃんも凄いけど」
「久白ちゃんは久白ちゃんで凄いんだけど、結城との差ってポイント程の差でもないんだよ。これもまた得票率の話になるんだけど、結城って65%あんの。けど久白ちゃんは45%ぐらいなんだよ」
「結構あるな」
「票数だけ見ると、結城は300超えてるけど久白ちゃんは200ちょいだからな。ポイントは僅差でも100票くらい差があんだよ」
「そんな?」
「だから何が違うって、1位票なんだよ。1年はみんな久白ちゃんに集中してる訳。100票以上が1位で入ってるから。それに比べるとさ、やっぱ3年は票が割れやすいんだよ」
1位票を3年だけで見ると、大門が5割弱、結城が2割、上澤とヘッドが1割。残りをその他で分け合っていた。
「3年だけだぜ、こんなに割れてんのって。だから意外に結城の1位票って少ないんだけど、その代わり2位票で稼いでる感じだな。生徒会長もやってたから知ってる奴も多いし。1、2年でも100票近く結城に入ってるから」
「結城は結城でさすがだな」
「久白ちゃんも凄いんだけどな。1年は全員が入れてるし」
「確かにすげえ」
「けど3年が誰も入れてない。3年の間でも人気あったけど、ミスコンってなると違うんだろうな」
「浜崎はどうなの?」
「浜崎も2年の票が集中してるけど全部って訳じゃなくて8割ってトコ。2年も久白ちゃんと同じで浜崎の一強なんだけど、アンチも少なからずいるみたいでさ。大門と争ってんだよな」
2年の票を纏めると、総票では大門が浜崎を上回っている。
「ちょっとわかる気するわ」
「浜崎も2年だから4位なだけで、俺らの代に居たらそんな順位高くないだろな」
「そう? 結構可愛いと思うけど」
「見た目だけな。3年に居たら長瀬に勝てるかどうかってトコだと思うぜ」
「プライド超高そうだもんな。ステージ上がっても全然笑ってなかったもん」
「大門だってプライド高いだろ?」
「いや大門とは全然違うだろ。例えるなら嫌な大門って感じだな」
「嫌な大門ってどんなだよ?」
「あれじゃん。三月とかが近いんじゃない?」
「いや、三月とも違うな。三月は確かにウザいとこあるけど、あんな感じじゃない。浜崎は男子を敵に回さないだろうし、どちらかというと同性に嫌われるタイプだろうな」
「そっか。そう考えると俺らの代には居ないか。三月は男子からはアレだけど女子からは普通だもんな」
「典型的と言えば典型的なんだけどな。そう考えると俺らの代って結構優秀だよな」
「ミスコンやって思ったけどさ、俺ら3年って必ずしも大門と結城だけじゃないんだよな。みんな本気じゃん? 推したいって思う子がちゃんといるって事だからさ」
「まーな」
「そういうのってさ、何かいいよな」
俺達が今、一生懸命語り合っているのは可愛い女の子の事だ。
「これさ今回みたいなルールじゃなくて、1人一票だったら誰が優勝してたのかな?」
「1位票だけで見ると、、、大門」
「バケモノ」
「いやすげえわ。さすがだな」
「で、2位が久白ちゃん。浜崎、結城、上澤、ヘッドと来て、その後に新田と長瀬」
「結城は浜崎に負けるんだ」
「差はそんなにないけどな。やっぱ大門がスゴ過ぎんだよ」
「はあ」
「いや、本当スゴいわ」
俺達が今、熱心に語り合っているのは同じ学校に居る女子の事だ。
平和な時間が過ぎていく。
「武一って、何考えてんだろうな?」
「さあな」
「そもそもさーミスコン思いついたのも去年の生徒会がきっかけだった訳だろ?」
去年の生徒会選挙。
結城が生徒会長として当選した訳だが、当初結城は立候補する予定ではなかった。理由は男子にめぼしい奴がいない事と、候補になるとしたら武一なんだろうけど、自身のクラブなど外での活動が多く本人にその気はなく、なので最初は三月が会長候補の筆頭だった。いつも誤解されやすいのだが、確かに武一は男子の中で一番知名度があって目立つ存在ではあるが、それは周りから担がれているだけで、武一本人は自分から目立とうとしたり前に出るタイプじゃない。
そんな事もあって、三月がそのまま生徒会長になるものだと思われていたが、途中で結城が立候補する事になって、それを知った三月は結城相手に勝てると思わなかったんだろう。あっさりと立候補するのをやめた。結城が急に立候補する気になった理由はわからないが、おそらく結城本人の意思じゃなく周りの声があったからだろう。そのまま選挙が行われて目立った対抗馬もいない中、結城がそのまま当選した。
「それで、じゃあ結城に対抗出来るのって誰なの? って話になったんだよな。で、そりゃあやっぱ大門だろって話になってさ」
「そうそう。けど大門は会長やらねーだろうってなって。で、じゃあ新田だったら? ってなって。確かに新田は友達多いし人気あるから会長向いてそうだけどー、、、相手が結城だったらやっぱ結城に入れるかなーとか色々言ってたんだよな」
「そうそう。それで武一が何かウズウズしてきたって言い出して。たぶんそれきっかけだよな。今回のミスコンって」
「実際ミスコンやるってなった時は、めっちゃテンション上がったけどな」
「な」
またそれぞれがぼんやりと夢想する。平和な時間。
「これさ、女子も参加してたらどうなってたのかな」
「どうだろ? 大門の1位は変わんないと思うけど。でもあれか、結城が結構迫ってくるかもな。女子人気だけで言うと大門より結城の方が高そうだし。後は三月が入って来て、あと新田もか。4割三月で結城と新田が2割ずつで一割が大門。残りの1割がその他って感じかな」
「それを加味すると?」
「大門が1位だな。男子票もそうだけど女子票もえげつないだろうな。1、2年の大門信者ってマジでヤバいぜ。大門のカッコ良さは同性でも憧れるだろうから」
「すげえよ」
「バケモノ」
「で、2位が結城で新田が3位に入りそうだな。で、その後に三月が入るんじゃない?」
「そういや元々三月は入ってたの?」
「ちょっと待って三月は、、、1位票は入ってない、あっ1票だけ入ってる、誰だろ?」
「わかんねー」
「コレってさ、1票も入ってない子もいるんだよな?」
「いると思う。結構いる」
「じゃあその子らは圏外って事?」
「そうなるな」
「なんかアレだな。ちょっと申し訳ない感じもするな」
「全女子って言っても、誰に入れてもいいってだけで結局はミスコンだもんな」
「その時点で絞られるよな」
「勝手に圏外にされても余計なお世話って感じだよな」
「うん。大門が言ってた事、今はわかる気するわ」
だな、と3人同じタイミングで呟いた。
今になって思うと学祭が終わっての終息感の早さ、特にミスコンに感しての興味の薄れ方に戸惑いはしたが、それは学祭全体が盛り上がり過ぎた事もあると思う。ミスコン前のコスプレ企画は冨田の女装が受けて盛り上がったし、その後の歌合戦もそう。で、翌日には体育祭があって、花形のリレーは言わずもがな。最後には1hフォークもあって、俺ら3年には夜祭もあった。ピークの状態がずっと続いて下がるとこがない。内容的にはかなりお腹いっぱい。楽しすぎて酸欠になる。
ミスコンは今年の学祭のハイライトに間違いはないけど、他にも話す事は山ほどあった。それぞれのハイライトはそれぞれで違うだろう。
そんな時、時間差で見せられた集計表には興味が湧いたし、きっとそれは武一がそうしたかったのだろう。自分が言い出したしたミスコンを、もっとみんなに知ってもらいたかったんだと思う。
ミスコン話はその後も暫く続いたが、太一の熱弁にチュージは少し飽きて来ているようで、俺たちの平和で降らない会話はようやく終わった。
それでもまだ時間を持て余している受験生の俺達は窓に寄りかかって、チュージと太一と一緒にボケーっとグラウンドを眺めていた。
「久白ちゃんが3位って改めて見るとすげえよな」
太一はミスコンの集計表をまだ熱心に見ていた。
「だってさ、久白ちゃんってまだ1年じゃん? なのに3位ってさ。俺らが1年の時に大門って3番手に入ってたかな? 大門が人気出だしたのって2年になってからだよな?」
「そうそう、そうなんだよ」
「じゃあ結城?」
「いや1年の結城なんてまだまだでしょ」
「そもそもその時って誰か目ぼしい子いた?」
「あと居るのって新田ぐらいか」
「いや、俺らの学年以外で」
「3年に三國さんがいたよね」
「あーすっげえエロかった人だ」
「三國さんならいったかもな」
「そうそう。あと2年には赤城さんがいた」
「はいはい、テニスやってた人ね。確かインターハイでいいとこまで行ったんだよな」
「三國さん、たまに野球部の応援に来ててさ、確か付き合ってる人が野球部の先輩に居たらしくて。優しくてめっちゃ美人でさ、すげえいい匂いしたんだよね」
「それ以外でも上の学年には結構可愛い人いたよな?」
「いたいた。けどさ、1年の時は3年に三國さんがいたからあれだけど、2年だったら大門も結構イケたんじゃね?」
「2年の大門ならイケるかもな。もう完全に大門だったもんな」
「結城もだろ? もう完全結城だもん」
「2年でやってたらイケたか。赤城さんには悪いけど」
「イケたかもな。赤城さんには悪いけど」
「今年は3年に大門と結城がいて、2年に浜崎で1年に久白ちゃんか」
「そうかー」
ぼんやりと遠くを見た。
「何かさ、アゲ高ってレベル高くね?」
「な。俺も思った」
「考えたら凄いよな」
「噂とかじゃなくてさ、もうそうだよな?」
「うん」
「来年は浜崎と久白ちゃんの一騎打ちか」
「うん」
「俺らが知らないだけで他にも可愛い子いるんだろうな」
「知ってる? 久白ちゃんって2年に姉ちゃんがいるらしいぜ。今回は出てこなかったけど、その子もそこそこ可愛らしい」
「へー」
「でもさ、そもそも来年もやるんだっけ?」
「わかんない。けどやったら盛り上がるだろうな」
「そもそも何で今までやらなかったんだろ?」
「さあ」
「反対されたとか?」
「誰に?」
「反対する理由ないよな」
「うん」
「けどさ、今回ミスコン優勝した人って最後超キレてなかった?」
「キレてた。うん。すっごいキレてた」
「けど、アレはアレで悪くなかったよな」
「な」
「来年もやればいいのにな」
「な」
窓の下に生徒達が楽しそうに話しているのが見える。
少し風が吹いた。
夏のピークは終わっていて、少し涼しくなってきていた。
「あ。」
「どうした?」
「今、ぽっかりした」
「ぽっかり?」
「うん。何かこの辺がぽっかり」
そう言って、太一は胸の辺りを撫でた。
「俺、卒業式泣くかも」
「は?」
「何か今、そんな感じがした」
「別に泣けばいいんじゃないの? 卒業式なんだし」
「言ってもまだ9月だけどな」
また少し風が吹いて、グラウンドを見ながら太一の真似をして胸のあたりを撫でた。マットを運んでいる松井の姿が見えた。
「あ、ヤベ。忘れてた」
そう言うとチュージは「ちょっと行ってくる」と言って階段を降りていった。チュージに気づいた松井の口が「なかやまくーん」と動いている。
「俺らも手伝う?」
「いや、いいよ。邪魔しちゃ悪いし」
「邪魔?」
「そう」
「ふーん。ま、いいけど」
階段を駆け降りて、松井の元へと走っていくチュージを太一と一緒に見送った。




