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武一、ミスコンを企画する。  作者: よしの
アゲ高学園祭「夜祭」
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「亮平 to 大門」その3


 俺は中学、高校とサッカー部に所属していて、小学校の頃からずっと続けていた事もあって割と本気でやっていた方だと思うが、この夏で引退した。まだ3年の中には冬の選手権を目指して残る奴も居て、俺も誘われたが受験の事も考えて断った。


「確か2年の夏かな? 友達に誘われてさ、応援しに行った事あるんだ」


 2年の夏。3年生の引退試合。俺が初めてスタメンで出場した試合でもあった。


「みんな吉崎君とか目立ってる子見るんだけどさ、私は菊池君のスタイル好きだったんだ」


 吉崎はアゲ高サッカー部のエースで、1年の時からレギュラーを張っていた。大門を誘った友人も吉崎目当てだったのだろう。大門の言うスタイルとは、プレースタイルの事を言っているんだと思う。


「私、弟いてさサッカーやってるんだけど。それでちょっとだけ知ってて。たまにさ練習にも付き合ったりとかして。一緒にボール蹴ったりすんだよ。ウケるでしょ?」


 アゲ高は名門とまではいかないが県内では強豪高と知られていて、県大会の予選には生徒が応援に来る事もあった。試合中はあんまり他の事は考えられなくて、誰が応援に来てるとか気にした事はない。そこに大門が居たとしても気にする余裕なんてなかった。


「普段バカやってる男子がさ、試合とかになるとちょっと変わるじゃん? そういうスイッチ入った瞬間が好きなんだ」


 さっきまで大人びて見えた大門が少しだけ幼く見えた。


「私もさ、弓道やってたんだけど弓道にもそういうとこあってさ。そういう空気っていうか、スイッチ入る瞬間ってあるでしょ。そういうのすっごい好きなの」


 弓道部は道場が学校にないので離れた場所でやっていて、普段見かける事はないがランニングしている時にたまに見かける事があった。スイッチの入った大門は見惚れるくらい格好よかった。


「それからかな。結構見に行くようになったの」


 俺のポジションはちょっと下がり目で、ボランチとかアンカーと呼ばれるポジションで、相手を削ったり後ろからゲームを組み立てる派手なプレーはしない黒子的な役割だ。特別にカットするのが上手いとか、パスが上手いとか、豪快なミドルが打てるとか、俺はそういう特徴のない、並のプレーヤーだった。


「普段目立たないんだけど、ココぞっていう時にいい仕事してたよね」


 ココ一番で得点が欲しい時、劣勢になって相手がボールを持つ時間が多くなった時。少し引いた位置からゲームを見ている俺は、瞬間的に輝く事があった。相手のチャンスの場面を潰したり、ココ一番で絶妙なラストパスを出したり、時には豪快にミドルを決めてみせた。普段は名もないプレーヤーの1人でしかない俺が、ある時はマケレレ、ある時はピルロ、そしてジェラードになった。その事を大門は知っていた。明らかに玄人好みの見方。俺は高ぶっていた。ユベントスをユーベと言う女子に出逢った時と同じくらいテンションが上がった。


「それまでは点取る人ばっかり見てたんだけどさ、試合見るようになって段々そういうのわかるようになって。格好いいなって思うようになって。目立つ事はあんまりないけど一番肝心な気がする」


 大門はちゃんと見ていてくれた。


「結構声出してたんだよウチら。試合終わるといっつも声枯れててさ」


 今思えば、サッカー部のメインの奴に混じって、俺の名前も呼ばれていたような気がする。その声の主が大門だった。


「あの時もさ、すっごい声出したんだ」


 夏の県大会。アゲ南との準決勝。俺にとっては最後の試合。面白いようにボロ負けした。


「菊池ぃー! 泣いてんじゃねー! ちゃんと胸張れー!」


 ボロ負けした俺は自分でも驚くくらい大泣きした。悔しさと寂しさが同時に襲ってきて、自分ではどうする事も出来ない感情だった。けどその涙には達成感の意味もあって。今でも思い出すとちょっと泣けてくる。


「私も貰い泣きしちゃってさ。悔しかったなー」


 その時の事を思い出しているのか、大門の目元に光るものが見えた。


 サッカーは好きだったけど、それに賭ける気もなくて。強豪校なら選手権を目指して最後まで残るのは珍しくもないが、俺は最初からその気はなかった。誰の為にやった事もなくて、ただ自分がやりたかっただけ。けどそんな俺を見て、そんな風に思ってくれてる子がいた事は、ただ純粋に嬉しかった。


「カッコよかったよ」


 その言葉に救われた。

 その後、少し話して、それで大門との話は終わった。


「あ、ミスコンおめでとう」

「今、それ言う?」


 武道場に戻ろうとした時、急に思い出してミスコンの話を振った。大門は相変わらず納得がいってないようだった。


「俺は大門がミスで良かったよ」


 「あ、そう。ありがと」とだけ言うと大門はさっさと中に入っていった。去り際に言ってくれた「またね」が嬉しかった。



 大門と話してみてわかったのは、驚くほど自分がガキだという事。そして、俺は何も知らなかった。俺が知ってる大門は、ほんの一部でしかなかった。だからもっと知りたいと思った。大門の事、自分の事。もっと知ろうと思う。それでも大門の格好よさは変わらない。アゲ高の楽しさは変わらないから。


 それともう1つ。新しい目標が出来た。学祭が終わった後、俺は割と受験に専念する気でいた。けど気乗りしないのも事実としてあった。ペースは上がって来ない。そういう部分では少し予定は狂う。けど後になってどっちが後悔するかを考えた時、自ずと選択は決まった。


「選手権の予選始まったらさ、また見に来てくれる?」


 俺にしたら告白してるみたいなもんで。けどふいに出た言葉がそれだった。


「行く。絶対行くよ」


 選手権への切符はここ10年ぐらいアゲ南が独占していて最早指定席となっていた。夏まではバリバリにやってたので、ブランクは一ヶ月もない。まだまだ全然やれる。今は特にそう思う。



 大門と別れて武道場に戻るとチュージが渋い顔をして1人で座っていた。隣に座って理由を聞くと「別に」とぶっきらぼうに言われた。


 チュージによると、俺は大分空気に反した行動をしたようで。セオリーでは俺は大門に告白しなければならないらしく、そうすれば結果はともかく夜祭という状況にはふさわしかったようだ。そうすれば大門も女子の輪に戻って会話に花を咲かせただろう。酔っ払った勢いでみたいに、あの時夜祭だったからさ、みたいに軽くすませるのもアリだったのかもしれない。


 普段から告白されまくっているであろう大門を少しガッカリさせたのには理由があって、大門は確かにモテはするが近寄りがたい空気があって、実際のところ告白された数は多くないらしい。そこが結城との違いで、結城はその親しみ安さから告白される回数が多い。実際、告白されてる所を何度も見た事がある。それがいい事かどうかはわからないが、大門は大門で少し敷居が高過ぎるという事だろう。現に大門に好意を持ってる奴も、大門とは付き合える気がしないらしく、どうせ相手にされないからと諦めてしまう奴が多かった。高嶺の花とは言葉の通りで、離れて見てるぐらいが丁度いいのかもしれない。じゃあ、結城が今どうしているのかといえば、夜祭がそういう場ならいろんな奴から呼び出されていそうだが、そういう訳でもなかった。結城はずっとクラスの輪の中にいて、呼び出されて誰かと2人きりになるという事はなかった。男女のそういうの抜きで、友人、仲間との時間を優先したかったんだと思う。夜と学校が合わさると、日常が日常でなくなる。結城はずっと楽しそうだった。



 その後、太一も合流して、ダラダラと3人で話していた。周りを見た時にまだ起きている女子の中に大門と結城と新田を見つけた。この3人が一緒にいるのは珍しい。特に大門と結城が話しているのを見るのはほとんど初めてかもしれない。これも夜祭がそうさせるのか。話している2人は楽しそうで、それを見てるだけでニヤケてきた。寝転がって頬杖つきながら、いつまでも見ていたい。何の話をしてるのか? ミスコンの事? さっきの甲田の話? それとも別の違う話か? 恋愛に関する赤裸々トーク? 内容はわからないけど、楽しそうな事だけはわかった。


 俺はチュージと太一を誘ってその輪に近づいていった。新田が明るい声で「いらっしゃーい」と出迎えてくれた。


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