「亮平 to 大門」その2
外に出ると月明かりのせいもあってやけに明るくて、数人の生徒がいる事に気づいた。それぞれが男女のペアになっていて、カップルのようになっていた。新田もさっき外から帰って来たので、誰かと一緒に居たという事だろう。なるほど夜祭とはそういう場でもあった。
それぞれのカップルは一定の距離を置いていて、お互いのテリトリーを侵入しないようにしていたので自然と俺と大門がいる場所は限られた。大門もその事に気づいたようで、入り口を出てすぐのとこで立ち止まるとそのまま壁に持たれかかった。月明かりが逆光になって大門がシルエットのように見えて輪郭がよりハッキリと見えた。それが大門だと知っているからかはわからないけど、そのシルエットだけを見ても綺麗な子だという事がわかった。大門はTシャツに短パンというラフな格好でいて、いつか見た大門を思い出したが、あの時のように際どく見えないのはその隙のなさだろう。今の大門に美少女といった言葉は当てはまらなくて、そこにもたれかかっているのは完全に大人で、完全に女だった。同い年の子といて緊張するのは大門くらいだ。壁にもたれてる大門は横顔だけが見えて、俺の方に顔を向けると顔の半分だけ影が出来た。不気味とか怖いとかはなくて、ただ綺麗だった。大門は気だるそうにため息をついた。
「なんかさ、わたし説教されたんだけど。お前がなかなか1人になんねーから、亮平が話しかけられねーじゃねーかよって」
何か言わなきゃと思った矢先に大門が口を開いた。顔を歪めていた原因はこれだったようだ。大門は少し不機嫌そうに言ったが、けどそれで緊張が解れた。気を遣わせてしまった事が改めて格好悪い。この空気を壊さないよう思いついた事をとりあえず口にした。
「大門ってさ、進学とかはどうすんの?」
大門は俺の顔を見て、少し驚いた顔をした。
「なに? そういう話?」
「え? まあ……」
「なんだ」
何故かはわからないが俺は大門を少しがっかりさせたようだった。
「進学、するよ。看護の学校」
「看護? へーそうなんだ」
「うち両親がどっちも医療系だからね」
初めて知った。1年の時もあまり家の話は聞いた事がなかった。
「そっちは?」
「俺も進学。まだどこかは決めてないけど」
「ふーん。そう」
「看護ってさ、専門って事?」
「ううん、大学。専門も考えたけど大学の方がいいかなって」
「そうなんだ。大学ってどこの大学?」
「東京」
「東京? そっか東京なんだ……」
少し落ち込んだのは遠いなと思ったから。大門に言った通り、明確に進学先を決めていた訳じゃなかったが、俺の選択肢に東京は入ってなかった。会話が途切れそうになって、一生懸命言葉を探した。
「けど大門が看護師って想像してなかったな」
「両親がどっちもそうだからさ。お父さんは内科医でお母さんは看護師。行ってる病院は別々なんだけどね。お母さんが仕事してるとこは小さい頃からよく見てたから。その影響かな」
俺の知らない大門が次々出てくる。
「そういうこと考え出したのは最近だけどね。進路の事考えるようになって将来なにしよって考えた時思いついたのがそれだったから」
「しっかりしてんだな」
「別に。普通だよ。高校卒業して働く人だっているんだし。進路決めるって事は職業決めるって事だと思うから」
「まあ、そうだな」
「決めてないの進路?」
「まだ何したいかまでは考えてないかな。大学決めるまでには何となく決めようとは思うけど。でも、決まってたとしても方向性ぐらいだと思う。実際の仕事ってなるとまだ先だと思う」
「ふーん、そっか。ま、仕事はいっぱいあるからね」
また少しがっかりさせたのがわかった。
見た目だけじゃなく大門は大人だった。そして俺はまだまだガキだった。なら、ガキのままでいてやろう。
「けど大門が看護師か。何か目立ちそうだな」
「どういう意味?」
「美人だし。ちょっとエロそうだし」
「は?」
「いや、褒めてんだよ」
「そういうのいらないんだけど」
「でも注射される時は痛そーだけどな」
「は?」
「いや、褒めてんだよ」
「そんな褒められ方聞いた事ない」
会話は全く噛み合っていなかったけど、大門とは久々に話した筈だったけど自分でも驚くほどブランクは感じさせなかった。
「てゆーかさ、わざわざ呼び出しといて話ってそれだけ?」
「いや、まあそうだけど。普通に世間話的な」
「それ、わざわざ呼び出してする話かな?」
「いや、だから俺も言ったんだよ。わざわざ呼び出さなくていいって。けどチュージが勝手にさ」
呆れているのがよくわかった。大門は、はーっと大きくため息をついて言った。
「あのさ、普通の話なら普通にしてよね。普通の時に普通に話しかけてよ」
多分、大門は何も意識せずに言ったと思う。それが、嬉しかった。
「じゃあ、私が話したい話するね。私、見てたよ。もう辞めちゃったんだよね?」
大門からその話題が出るとは思っていなかった。大門が見ていたのは間違いなく俺の事だった。
大門は気だるそうに髪をかき上げた後、スロープの手すりに肘をついて喋り始めた。




