「亮平 to 大門」その1
夜の11時を過ぎると起きている生徒も大分少なくなっていた。ほとんどが学祭の準備で忙しく動いてた事もあり、体育祭でも完全燃焼。夜祭係に振舞われたカレーを腹一杯食べて、みんなの話し声を聴きながら学祭の余韻に浸っていれば自然と睡魔が襲ってくる。現に俺も何度か寝落ちそうになって、今はもう話し声よりも寝息の方が多く聴こえた。先生達が見回りながら寝ている子のタオルケットを直していて、そのせいで逆に起きてしまう生徒も何人かいたりして。そんな光景を微笑ましく眺めていた。
そんな中、起きている生徒もまだまだ居て、小声で話している声がベッドに入りながら聴く深夜ラジオのようで、その居心地の良さにそのまま寝てしまいそうになった。もしくは半分寝てしまっていたのかもしれないが、話し声の中に自分の名前が聴こえたりして「あれ?今、俺の事話してない?」と思っては閉じていた目を開けた。
「亮平」
寝転んだまま振り向くと、チュージが不思議そうな顔をして近づいてきた。
「もう寝るの?」
「あ? いや、寝転んでるだけ」
チュージはそのまま俺の隣に座った。俺は目を少し擦りながら体を起こした。
「大門と話すとか言ってなかった?」
「ああ」
言いながらチュージは周りをキョロキョロと見渡した。
「あ、そこいるじゃん。まだ起きてるぜ?」
そう言うとチュージは立ち上がって大門の方に向かって行こうとした。
「おい、ちょっと待てって。ドコ行こうとしてんの?」
「ん? 大門のとこ」
「なんで? 何で大門のトコ」
「言ってきてやるよ。亮平が話したがってるって。女子で固まってたら話しかけづらいだろ?」
「は? 何言ってんの。いいって、そんな事しなくて」
「何で? お前話したかったんじゃねーの?」
「そんなわざわざ呼び出して話すような事じゃないし」
「お前、わかってる? 夜祭だぜ? 今日話すのと別の日に話すんじゃ全然違うから」
「マジでヤメろって。そういうんじゃないから」
「わかった」
ようやく引き下がったチュージはまた隣に座った。
俺は新田に言った言葉を思い出していた。そういえば、あれから新田を見ていない。
「大門も今日に限ってずっと連るんでんのな」
「夜祭だからな。1人でいたってしょうがねーじゃん」
しばらくそのままで何も話さずチュージと2人で座っていた。チュージは時折俺の様子を伺っているようだったが俺は気にしないでいた。
「あ、亮平いたー」
新田の声が聴こえた。
新田は外から入って来たようで、同じように中に入って来る子が新田の後ろに何人かいた。
「ごめんごめん、莉華だよね? 今、言って来るから」
俺は慌てて立ち上がった。
「ちょ待てって。新田、何しようとしてんの?」
「え? だって莉華と話したいって言ってなかった」
新田は間違ってない。何も間違っていなかったが、今じゃなかった。全く気分じゃなかった。1hフォークで感じた感情はどこかに行ってしまった。
俺と新田のやりとりを見ていたチュージが無言で立ち上がって、ズンズンと大門目掛けて歩いて行った。
「あれ? おい、どこ行くんだよ、おいチュージ? おいって」
チュージは立ち止まらずにそのまま大門のいる女子の固まりに割って入ると割と大きめな声で大門を呼んだ。呼ばれた大門はビクっと肩をすくめはしたが、チュージと何か話しだした。話している時に大門が顔を歪めたのがわかった。その後女子に何か声をかけて大門は立ち上がるとそのまま俺の方に近づいてきた。何が何だかわからずに俺は座ったままでいたが、とりあえず大門が近づいてくる事だけはわかった。新田が大門に近づいていって何か耳打ちしていた。その何かはきっと俺についての何かだろう。
不機嫌そうな顔をして歩いてくる大門を見て、面談の時の2人きりの廊下を思い出した。大門は俺の目の前まで来ると立ち止まった。
「外でよっか」
そう言われて俺は大門の後を付いていった。俺の前を大門が歩いて、その後を付いていった。完全に大門にリードされている状況がとてつもなく格好悪かった。それでも大門の前を歩く勇気は出てこなかった。入り口には出入り用にサンダルがいくつか置いてあって、それを履いて俺と大門は武道場の外に出ていった。




