「チュージと三月」
たまにアゲ高に来てよかったなと思う時がある。
はしゃぐ時ははしゃぐし、そうじゃない時は割と落ち着いてる。例えば今だって、みんなそれぞれ好き勝手やってるように見えるが、バカ騒ぎしてる奴はいない。今の夜祭の空気にあった行動だ。それが自分の気分と合わさる事が多い。共有してる感じがする。中学が割とカオスだったので、単純にみんな大人になってるって事もあるが、その空気の一体感がアゲ高でよかったと思える1つだった。
甲田の講義を聞いた後、妙に頭の中が冴えていて、誰か居ないか探していると声を掛けられた。
「中山、ちょっといい?」
俺を名字で呼び捨てする女子は1人しかいない。
「なんだよ三月?」
「別に。暇そうにしてたから」
生意気な奴だな。としか思わなかったが、そう言えばと思って気になってた事を聞いて見た。
「そういえばさ、何でミスコンの司会引き受けたの?」
「ああ」
思惑と違ったのだろう。ダルそうな声で答えた。
「何となくやっただけ。本当何となく。武一君にやって来んないって言われて」
「それだけ?」
「うん。私もさ、何で私? って思って聞いたの。そしたら、オレ三月の声好きなんだって言われて。なにそれって思ったんだけど」
「それで引き受けたの?」
「そう。面倒くさいなって思ったんだけど、何だ、ちゃんと理由あるんだと思って。それで、ついうっかりいいよって言っちゃった」
三月にしては素直な答えだった。
「お前そういうキャラだっけ?」
「思った通り面倒クサかったけどね」
どうやらそれは本音らしくて、後で一部の女子からの批判を聞いたのだろう。
「でもさ、よく何も言わなかったよな。武一がミスコン企画した時だって、俺ら絶対三月は反対すると思ってたから」
「何で? 私が反対する理由なんてないけど」
「女子は結構文句言ってたぜ? 投票の仕方については特に」
「中にはそういう子もいたかもね。けど私は別に何とも。そもそも興味なかったし」
「お前にしちゃ珍しいよな」
「それさ、何か勘違いしてない? 私、別にクレーマーじゃないから」
「そうなの? 女子で何か言って来るっていったら三月のイメージだけど」
「ひっど」
「あとさ、お前何で会長選挙の時も途中でやめたの?」
どうせなので気になっていた事を聞いてみた。少し顔色が変わった。
「途中まではやる気だったじゃん」
「あー。結城がやるって言いだしたからね」
ここでも三月の素直は続いていた。
「周りが色々言ってるのも知ってたし、私も無駄に傷つきたくないからね」
「やけに素直だな」
「何それ。くっさ」
ようやく三月らしくなってきた。
「つーかさ、何で俺話しかけられたんだっけ? 何か用あったんじゃないの」
「暇そうだったから」
「それだけ?」
「そうだけど」
「お前、本当可愛くねーよな」
「は?」
「知ってるか? ツンデレってさ、ツンだけじゃダメなんだぜ? デレもちゃんと見せないとツンデレになんないから」
「は? 何で私があんたの前でデレ見せなきゃなんないの?」
「もういいよ。用ないならどっかいけ」
そう言うと三月はそのまま行ってしまった。歩いていく三月の背中を見て、太一の言葉を思い出した。
「また三月に告られるんじゃねーの?」
そんな素ぶりは微塵も感じなかったが、その後ろ姿は生意気でもガサツでもなく、男子の前で強がって見せた只の女子の背中だった。今、後ろから近づいていって思い切り跳び蹴りしたら三月は簡単に転ぶだろう。もちろん三月はやり返して来るだろうし、俺は大げさに痛がったりするが、実は全然痛くない。同じ力でやりあっていたガキの頃とは違う。
考えてみて三月と松井は似てるかもしれないと思った。シャキシャキしていて仕切り屋で、胸がデカいとこまで似ている。けど三月と松井は全く違う。松井の方が素直だし愛嬌がある。そんな可愛げが三月に少しでもあれば、松井に抱いてるような感情を三月にも抱くんだろうか? いつもの調子で接してしまった事を少しだけ後悔した。
俺と話した後、三月はそのまま女子の輪に戻っていった。見えるのは三月の後ろ姿だけで、その顔は見えなかった。笑っているのか、泣いているのかもわからない。ただ見えたのは、どこにでもいる普通の女の子の背中だけだった。




