「亮平と結城」
1hフォークが終わった後、カレーを食べてシャワーを浴びた。
そのまま夜祭はなんとなく始まって、何となくクラスで話した後、武道場へと向かった。
最初に甲田の挨拶があって暫く適当に過ごした後、トイレに行こうとした時、たまたま結城と出くわした。目が合ってお互い気づくと自然と会話が始まった。
「惜しかったな」
「え? ああ、うん」
何の事かは、すぐに察したようだ。
ミスコンのピークは終わった直後で、ランキングした女子を囲んでの撮影会がそうだった。だから多分、終わってから結城にミスコンの話を振る奴は居なかったと思う。それぐらい結城の2位は当たり前だった。
「結城的にはどうだったの?」
結城がどう思ってるのか興味があった。こんな事、夜祭じゃないと聞けない。
「嬉しかったよ。うん」
「そっか」
結城らしい素直な答えだった。
話していて、ある事を思い出した。
「そういや前さ、ポスター見てなかった? 割とじっくり」
「ウソ。見られてたんだ」
結城は照れ臭そうに笑った。
学祭が間近に迫った頃、奥村がミスコン用にポスターを作っていて、それが貼り出された。それが意外にも男子だけじゃなく女子にも好評で、ポスターの周りには人だかりが出来ていた。そんな中、結城が1人でポスターの前に立っているのを見かけた事があった。結城が1人でいる事も珍しいが、ミスコンに興味を持っている事自体が不思議だった。その時、結城に声を掛ける事はしなかったけど、今思えば声を掛ければよかったと思う。結城はミスコンの事をどう思っていたんだろう。そのポスターは結城にはどう見えていたのか。結城はそのまま1人で、じっとポスターを眺め続けていた。
多分、大門が興味を示さないのと結城の場合は違っていて、大門は本当に興味がないから興味を持たない。結城は興味を持たない方が正解だから興味を持たない。そこに結城の意思は関係なくて、選択として正しいからそうしているだけ。結城は選択を間違えない。
「面白いなって思ったんだ。こんな風になるんだーって思って」
結城にしてみればミスコンって言われてもキョトンな感じ。勝手に写真を使われて、チラシを作られたと思ったら今度は写真を撮られて、それがミスコンのポスターに使われて。きっと自分の扱いを見て驚いた事だろう。けど、周りが思うより当事者意識は低かったようだ。奢りとかそういうんじゃなく結城の場合、単純に興味がなかったんだと思う。だから結城がそういう感じなのはよくわかる。そんな結城はミスコンをどう思ってたのか。その答えが「嬉しかった」だった事は少し意外だった。
「自分がランキングに入ると思ってた?」
「思ってない思ってない。全然思ってなかった」
「じゃあ誰がなると思ってた?」
「全然わかんなかった。莉華ちゃんは選ばれるだろうなってくらい」
「そもそもミスコンに興味あったの?」
「んーあんまりかな。面白いなとは思ったけど」
「けど良かったよ。俺らとしては期待通りだったから」
「うん。私も嬉しかったよ。選ばれると思ってなかったから」
それが結城の本音かどうかはわからない。本当のとこ結城がどう思ってるかは誰にもわからないと思う。ただ、結城は誰かを不快にさせたり、見透かされるような事はしない。全てが結城の本音なら、こんないい奴はいない。その完璧さが気持ち悪いと思う奴もいるだろうけど、結城はいつだって期待を裏切らない。それが「結城ひなた」という女子である。結城を見てそんな事を考えているのは俺ぐらいかもしれない。
「結城ってさ。普段何考えて生きてんの?」
「え?」
「なんかさ、疲れない?」
「???」が結城の顔に浮かんでいる。
「結城ってさ、スゲーいい子じゃん? そういうのって疲れんだろうなって」
「あー。すっごい疲れるよ」
結城は笑いながら言った。その顔が無性に可愛いく見えた。
「そっか。そうだよな。うん。やっぱそうだよな」
初めて結城の本音が聞けた気がして俺は嬉しかった。
「私ね、昔から空気読めないって言われててさ。よく色んな人怒らせてたんだ」
「マジ? 結城なんて空気読む天才じゃん」
「ハハ(笑)じゃあ努力型だね。イチローさんと一緒だ」
「でもさ、それって大丈夫なの? 人と居るとしんどいだけじゃん」
「うん。けど私は好きでそうしているから。人といるのが好きだし。なるべく人と関わりたいって思うから」
「結城はさ、どんな子とも話せるじゃん。悪い顔はしないし。結城のこと嫌いな奴なんて居ないと思うし。俺はそういうの出来ないからさ。エラいなって思うし。けど大丈夫なのかなって」
「うん」
「結城だって嫌いな奴いるでしょ?」
「いる。たくさんいる(笑)」
「そうだよな。うん。エライよ。お前エラいよ」
「全然エラくないよ。私が私の為にやってるだけだから」
結城の中に腹黒さは感じた事がなくて。けどそういう部分もあっていい気がする。そういうのが少しでも見えた事が嬉しかった。というより、ほっとした。結城もちゃんと人間だった。
「結城の本性が見えたとしてさ、それでも結城はいい奴なんだと思うよ」
「それって褒めてる?」
「褒めてる褒めてる。スゲー褒めてる。結城が嫌なこと言いまくって暴れても俺の結城の評価は変わんないから。嫌いになれない」
「よくわかんないけど、ちょっと嬉しい」
結城との会話はそれで終わった。途中でクラスの女子に「結城ぃ―」っと呼ばれて行ってしまった。「ありがと」と言って、小さく手を振る結城を俺は笑顔で見送った。
『性格のいい八方美人』
それが結城の正しい評価だとしたら、結城の事を嫌いになる奴なんて居ないだろうと思った。




