「チュージと上澤」
【チュージ】
甲田の講義を聞き終わった後。武道場の片隅で上澤を見つけた。
周りにK組の連中はなかった。夜祭でないと出来ない行動力がこの時も発揮された。
「上澤」
上澤は素直に振り返った。
「ちょっと話してもいい?」
「え、うん」
そう言って、俺は上澤の横に座った。
「俺のこと知ってる?」
「え? うん。中山くんでしょ?」
「ウソ、マジ? なんで知ってるの?」
「なんでって。同級生だから」
「知られてるのは嬉しいんだけど。何で?」
「何でって言われても」
上澤は笑っていたが困っている事はわかった。
「あ、悪い。接点ないし。知ってると思わなかったから」
素直な笑顔が見えた。
「なに?」
「何も。話してみたいと思っただけ」
「何それ? けどちょっと嬉しいかも。私の事は知ってた?」
「そりゃ知ってるよ。有名じゃん」
「有名? 私が?」
「うん。頭いいし」
「それでかー」
「そう」
「私たち、ていうかK組って部外者みたいでしょ? 同じ学校に通ってるけど違うトコ。みんな知らない人みたい」
普段、俺達が思っていた事を上澤達も同じように思っていた。避けていたのはお互い様。それを始めたのは俺達の方かもしれない。
「わかってるんだけどね。そのくらい。話しかけてくれてありがとね」
上澤の笑った顔は初めて見たが、少し寂しそうにも見えた。
話したのはそれだけだった。トイレにでも行ってたのだろう、K組の女子達が上澤の所にやって来たので俺は立ち上がった。上澤とは接点はなかったけれど、同じ場所で同じ時間を過ごしてきた同級生だという事が少しだけ実感出来た。過ごし方は違っていても、多分見ている景色は変わらない。上澤と距離が縮まったとは思わないけど、今度学校で会った時、お互い知らないフリをする必要はない。すれ違う上澤に声をかけようと思った。
立ち上がって歩いて行こうとすると、上澤はバイバイと小さく手を振って見送ってくれた。上澤は笑うと、顔がくしゃっとなる。それがたまらなく可愛いかった。




