「チュージと」
松井と一緒に武道場に戻って来たあと松井は先生に報告に行くと言って、松井とはそこで別れた。
俺はそのままクラスの輪に戻ると吉田達が女子と一緒にいて話をしていた。吉田は俺の顔を見るなり助けを求めるようにしてヘタレ声を出した。
「チュージー、ちょっと言ってやってくれよ」
話題は長瀬の事だった。女子の1人が口を開いて、
「何で凛ちゃんの事『チョーさん』って呼ばなくなったの? 凛ちゃん寂しがってたよ」
チョーさんの名前は『長瀬 凛』という。集まって何の話をしてんのかと思えばそんな事で。ミスコンの事もあって、今日のクラスの主役が長瀬なのはわかる。けどその主役はもうその場にはおらず、多分もう寝てしまったんだろう。長瀬の居ないとこで話してもなとしょうがねーだろと思いつつ、その輪に加わる感じでしぶしぶ座った。
「なんか飽きちゃってさ。普通に長瀬でいいかって。なあ?」
吉田は嘘をつくのが本当に下手クソで。俺に向けた顔はただのアホ面だった。
「飽きたって、それだけ?」
「なんかちょっとダセーし。俺らも高三にもなってそんなガキみたいに言っててもな」
「ふーん」
「長瀬が何か言ってたの?」
「べつにー」
「そういや長瀬は? どこいんの?」
「凛ちゃんもう寝ちゃったと思う」
予想通り。夜祭で長瀬と話すのをちょっと楽しみにしていただけに少し残念だった。
「そもそもさ、本人いないとこで話しても意味なくない?」
「そうだけどさ。そう言えばと思って」
マスコット的な長瀬は反応がイチイチ面白いので、用がなくても声を掛ける事があった。それが「チョーさん」と呼ばなくてなってから、絡む機会が減った。そういうのがミスコンを意識しだしてから次第に減っていったのは事実だった。
チョーさんのいないこの場所にもう用はなく、俺は立ち上がった。まだ寝る気はなかったので誰かいないか探した。見ると一番生徒達が固まっている場所があって、その中心にはK組の甲田先生がいた。




