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武一、ミスコンを企画する。  作者: よしの
3年B組 菊池亮平
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「正しい昼休みの過ごし方(結城ひなたの場合)」


 どこの学校でもそうだと思うが、休み時間の中で一番活発に動くのが昼休みだ。みんな弁当を出したり購買に行ったりと、それぞれが動き出す。そんな昼休みも、中心にいるのは結城だった。



 結城の昼休みの過ごし方はいつも決まっていて、チャイムがなると結城の周りに仲の良い女子が集まってきて、結城を中心にしてその周りを囲む。結城の近くの席の男子は言われる前に席を離れて場所を譲り、その空いた席に取り巻きの女子が当たり前のように座る。結城のしっかりしている所は、そういう男子に向かってちゃんと「ごめんね」をして見せるところだ。譲った方も悪い気はしないし、そのやりとりが少し特別にも感じる。結城を中心にしたその一団はなかなかの人数で、メンバーは大抵クラスの女子だが固定はされてなくて他のクラスから来る子もいた。教室の中心を女子が陣取り、その周りに男子が点々と散らばる。子供が描く太陽のイラストと少し似ていた。


 寄せ合った机に弁当を並べると、教室の中心に花が咲いたように華やかになる。おかずの交換が始まって、誰々が作ったと言えばすぐさま試食会が始まる。まるでマダムのランチ会。こういうのを見ていると、女はもう女なんだな、と思ったりして彼女らの数十年先が容易に想像出来た。



 弁当を作って来た子はみんな結城に食べさせたがる。ちょっと失敗しても美味しそうに食べてくれるし、さりげなく嫌味にならないアドバイスもしてくれる。八方美人と言えばそうだが結城にあざとさは感じない。どれもが素直な反応で、そういう子なら見てればわかるし、周りだってそれに気づかないほど馬鹿じゃない。結城はそうはなってない。例えば俺が黒焦げの目玉焼きを作ってきたとしても、クスクスと笑いながら全部食べてくれるだろう。



 結城達に支配された教室は、隅っこに追いやられた男子がそれぞれ小さく纏まって弁当を食べていて、結城の華やかさとさは逆に、このクラスに目立つ男子はいない。どノーマルなクラスだ。そんな男子達にとって結城達の会話は貴重な情報源で、それを聴きながら昼飯を食べるのが奴らにとって楽しみでもあった。要はラジオ代わり。パーソナリティ結城ひなたがお送りする毎日の昼休みに放送される帯番組だ。この結城ラジオは内容も優れていて、結城の周りには色んなクラスの女子がやって来るので、今学校で何が話題になっているのか、今のトレンドは何なのかを知る事が出来た。基本結城は聞き役で、話したがりの女子が集まって来る。今日の話題は英語担当の女性教師のスカート丈についてだった。なるほど確かに言われて見れば少し短い気もした。「あの歳であの柄はないよね」アラフォー教師に対しての女子の査定は厳しいようだ。

 この結城ラジオではたまに予告なしで男子の格付けが発表される事がある。冴えない男子達の穏やかな昼休みが騒つく瞬間だ。



 そんなトレンド発信の情報源である結城ラジオだが、なぜかミスコンについては触れられなかった。話題としてはトレンド上位は間違いなくて、少し肩透かしをくらった感があったしハッキリと不安を感じた。たまーにミスコンの事で女子が話してるのを見た事はあるが、その数は少ない。やはり女子全体では不評という事だろうか。結城の周りで話題に上がらない事が妙にリアルで生々しかった。



 昼食を終えた結城達は一旦教室を出て行く。結城の一団が一斉にいなくなるので、それまで賑やかだった教室は男子だけになって急に静かになる。そして居た堪れなくなって用もないのに教室から出て行く。なので結城達が出て行った後はB組の教室に誰もいなくなるという現象がよく起こった。その現象は「結城ハリケーン」と呼ばれ、その被害に合わない為には結城達より先に食べ終える必要があった。そうしないと誰もいない教室に1人取り残される事になってしまうからだ。その影響からか、このクラスの男子は俺も含め早食いが多かった。



 教室を出て行った結城達は購買に行く。購買は食堂も兼ねていたのでテーブルが置いてあって、そこで弁当を持ち込んで食べる事も出来た。結城が教室で食べるのは、自分たちが場所を占領してしまうのを避ける為だろう。結城はいつも購買の入り口横にある紙パックの自販機で飲み物を買う(いちごオレが好きらしい)それを飲みながら購買に知った顔がいるとそこで少し話したりもするが、あまり長居する事なく教室へ戻ってくる。ここで結城の取り巻きはそのまま結城に付いて行く子と購買に残る子とで別れる。なので行きと帰りでは取り巻きの数が違って、帰りの方が少なくなる。結城が購買に行くのは取り巻きの数を減らす為でもあるのだ。きっと結城は教室を占有する事や、集団で廊下を歩く事を好まない。教室に戻って来た結城の表情は心なしか明るくなってるような気がした。



 教室に戻ってきた結城が最初にするのは机の配置を直す事。自分たちが食べる為に移動させた机だ。購買に行く前にも多少は直すが十分ではない事を結城は知っている。たまに結城が戻ってくる前に自分の席を直してる男子もいて、そんな時は結城は申し訳なさそうにして声をかける。じゃあ購買行く前に直せよと思うかもしれないが、結城がそうしないのは、それが空気にそぐわないからだろう。気にしない奴は気にしない。机を直すと結城はウェットティッシュを取り出して机を丁寧に拭き始める。やるならそこまでやりたいのだ。そんなとこに結城の人間性が見えてくるし、好感が沸くし興味が湧く。いつもニコニコしてる結城の本当のトコが知りたくなる。いい子なのは間違いない。少なくともいつも誰かしらに気を遣っているのは確かだ。


 机を直して取り巻きと話していると、また誰かやって来て声を掛けられ教室を出て行く。それからは昼休みが終わるまで戻ってこない。何をしているかはわからないが、天気のいい日にはグラウンドに出ていたり、男子と2人きりでいる所を見た事もある。これが結城の昼休みの過ごし方だ。



 傍目で見ていると結城が相当気を遣ってるのがわかる。けど、これは俺も経験があるのでわかるが、結城と絡む時はそんな事気にしなくなる。受け入れてくれる事に甘えてしまう。けどそれは俺がそう思ってるだけで結城本人は何も思ってないのかもしれない。闇やストレスを結城に感じる事はないし、その笑顔が曇ることもない。だから余計に甘えてしまうのだ。



 たまに昼休み中、ずーっと机に突っ伏して寝ている奴を見ると、本当は結城もそうしたいんじゃないかと思う時がある。結城が1人でボーッとしている所を見た事がない。少し人間味に欠けている。そんな風に見える事もあった。


 昼休みを制する者は人生を制する。


 なんて言葉は聞いた事ないが、そんな言葉があるかどうかは別として、昼休みを充実して過ごせるかどうかは、人生においての何かと通じてるような気がした。


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