「夜祭」その1
【亮平】
1hフォークが終わると3年以外の在校生はみんな帰宅して、校内に残るのは3年だけになった。夜祭が出来るのは3年だけなので、現3年生は初という事になるがアゲ高では毎年行われている事なので段取りは全て決まっていた。
まずはみんなでシャワーを浴びる。体育祭が終わった後なのでみんな汗まみれで、一旦家に帰ってシャワーでも浴びたい所だが、家が近いごく一部の生徒を除いてほとんどは家に帰る事なくそのまま学校に残った。
シャワーを浴びる為に男子はプールへ、女子はグラウンドの部室横にあるシャワー室へと向かう。そこで各々汗を流すのだが、シャワー室には一度に全員が入り切れないので、それ以外の生徒は教室に戻って先に夕食を食べる。夜祭準備係が用意しているカレーだ。寸胴鍋が各クラスの廊下に設置されていて、ケータリング方式で食べる事が出来る。
男子はK組から、女子はA組から順にシャワーを浴びて、それ以外の生徒は先に夕食を済ませる。女子は時間がかかるのでゆっくりとカレーを食べる事が出来るが、男子の方は回転が早いのですぐにシャワーの順番が来る。プールに設置されているシャワー室は少し古くてお湯が出ないので出てくるのは水だけ。またプールのシャワー室は夜使う事を想定されていないので中は暗く電球くらいしか明かりがなかった。その電球もシャワー室の中には置けないのでドアのガラス部分から漏れる明かりだけが頼りだった。そんな暗がりの中に男子全員で飛び込んで、女子並にきゃっきゃ言いながらシャワーを浴びる。シャンプーやリンスなど洒落た物はもちろんなくて、置いてある石鹸を使って強引に頭と体を洗った。中にはそれ用にシャンプーリンスを用意している奴もいたりするが、それが見つかったりすると勝手に使われてすぐに空になる。シャワーを浴びた後はプールに飛び込む奴もいたりして、もちろんそんな事は禁止されているので教師に怒鳴られたりもするが、それも夜祭ではお馴染みの光景だった。
シャワーを浴びて教室に戻って来るともう女子はいなくて、残っていたカレーをおかわりして食べた。髪の毛は自然乾燥に任せてうちわで仰ぎながらしゃべっていると廊下から女子の声が聴こえてきた。シャワーを終えた女子達がぞろぞろと教室に入ってくる。なぜかそんな時、男子の間には一瞬の緊張感が漂う。肩まで捲り上げたTシャツとまだ少し濡れている髪の毛。少し赤らんだ頬もどこか新鮮で、普段何とも思わない子も艶っぽく見えたりする。ほのかに漂う石鹸の香りが、いつもの教室にポジティブな緊張感を与えた。こんな事を言っても誰にも理解されないと思うが、自分もその香りの粒子となって、永遠にこの空間に漂っていたいと思った。
男子の様子に違和感を感じた女子が少し構えた格好になるので、女子に向けた視線を平常に戻してまた話し出すが、大体が何の話をしていたか忘れてしまっているようで話は続かなかった。後、どのクラスでもシャワーを浴びた後の女子は眼鏡率が高まるという現象が起きた。
夜祭はシャワーと夕食を終えて各々の教室に集まった所から始まる。夜の教室というだけで見える景色は同じ筈なのにいつもとは違った雰囲気に思えて、それが心地よい事が不思議だった。この瞬間が今しか味わえない特別なものだと、言葉に出さなくともその場に居る全員が感じていた。夜祭の進行は順調に進んでいった。
夜の7時を過ぎて、みなシャワーを終えて徐々にクラスに戻ってきた。みんな体操着から着替えて思い思いの格好をしていた。昇降口から教室へと向かう廊下を歩いているだけで、どこかワクワクした気分になった。廊下から見える他のクラスの教室の雰囲気や、聴こえてくる話し声や笑い声。この場所に居れる。それだけで幸せを感じた。
「夜祭って何すんの?」
前にK組の甲田に聞いてみた事がある。特に何もしない。ただ夜にみんなで学校に泊まるだけ、と言われて、それのどこが楽しいんだろうと思ったりもした。けど甲田はこうも言っていて、卒業生で夜祭が楽しくなかったと言った生徒は一人もいないらしい。まだ何か始まった訳ではないが、今のこの感じが楽しくない訳がない。そんな期待感が校舎を包む中、各々のクラスの担任が教室に入って来て、夜祭が始まった。
夜祭で何をするかは各クラスで違っていて、何をするかはそれぞれの担任が決める。過去には外に出て肝試しみたいな事をした事もあったそうだが、例年はクラス事でテーマを決めて話し合いをする事がほとんどだった。簡単に言うとHRで、それを夜同士行うという事だ。
机を下げて椅子だけ持って何となくの円を作って座った。大体が学祭の総評で、ちょっとした反省を踏まえつつ、弄ったり弄られたりと和気藹々とした終始穏やかな雰囲気が続く。
「何か話したい事ある奴いるか?」
そう担任が聞いたが誰も何も言わなかった。最初の一言は念のため聞いたという事だろう。
「じゃあ、先生から話そうか」
そうして、夜祭が始まった。




