「亮平と大門」その2
【亮平】
大門が目の前に来た。前で踊っていた大門は後ろを振り返ると、目にかかった前髪を片耳に掛けて俺の方を見た。目が合った大門は俺の顔を見て「ああ」という顔をした。
「よう」
「うん」
それだけの会話。手を組んでる時も何も話さなかった。手を離す時に横顔を見たが、前髪が邪魔していて大門の顔はよく見えなかった。フォークダンスを踊っている合間に話せる事なんてたかが知れている。けどそのたった数秒で今の大門との距離感を知るには充分だった。大門とはクラスも違うので今後話す機会もないだろう。このまま卒業を迎えて進学したとしても行く大学は違うだろうし、そしたら会う機会なんてない。会ったとして今の距離感のままで話せる事なんて何もない。俺にとって大門は間違いなく学生生活のハイライトで、卒業してから会う仲間との話題にも必ず上がるだろう。この先大門に会うとしたら同窓会ぐらいか? 人づてに知らない誰かと付き合っただの、結婚しただの、という話を聞くんだろうか。そういうの凄く嫌だ。酒が飲めるようになったら一緒に飲んでみたい。大人になって何をやってるのか、何を思ってるのか聞いてみたい。このままだと俺は卒アルに載ってるただの同級生だった奴で終わる。最後の体育祭でフォークダンスを踊った事なんて記憶の片隅にも残らないだろう。ただ俺だけが覚えている。俺にとっての思い出は大門にとっては過去にすらならない。
夜祭の事が頭を過った。大門と話してみようと思った。2人きりで話すとかそういうんじゃなくてもいい。声を掛けてみよう。ほんの些細な事でいい、大門の記憶にちゃんと俺を残したかった。
「あ、亮平じゃん」
名前を呼ばれて我に帰った。手を伸ばしてきた相手は新田だった。
「意識飛んじゃってない?」と目が合った瞬間に言われた。
大門と離れてから数人の女子と踊った筈だが誰の顔も思いだせなかった。
「大門と話したいんだ」
誰に言ったつもりもなくて、ふいに口から出た。
「うん。わかった」
そう言うと新田は俺の手を取って踊り始めた。




