「トオルとコウセイ」最終章
【コウセイ】
先攻で輪に入った後、20分程踊ってから頃合いを見て外に出た。丁度ペアになった子も同じ考えだったようで、僕の提案はすんなりと受け入れられた。初めての1hフォークにしてはかなりスムーズに動けていると思う。グラウンドの一方がコンクリの階段になっていて、輪から外れた生徒はそこに座っていた。みんなから少し離れた所に一人座っている透君を見つけた。透君はなぜか楽しそうで鼻歌を口ずさんでいた。
「先攻してたの?」
「いや」
「待ち待ち?」
「な訳ねーだろ。離れたトコからの方がよく見えるからさ」
透君に目当ての子がいる様子はなさそうで、ただフォークダンスの輪を座って見ているのが好きらしい。ここから見ると少し逆光になって踊っている生徒がシルエットのようになって、顔はよく見えないけれど笑っているのは口元を見ればわかった。日が暮れてくるのに従って輪の中心に置いてあるキャンドルの灯が段々と目立ち始めた。透君の言うようにココから見るフォークダンスの輪はとても綺麗だった。
前から気づいてた事ではあるけど透君はいつも大抵一人だった。僕以外の誰かと一緒にいるのを見かけた事はほとんどなくて、今だって透君の前を通り過ぎる人は大勢いるが、話しかける人は誰もいない。きっと立ち止まって透君の隣に座るのは僕ぐらいだろう。いつか新田さんに「五十嵐と仲いいんだね」と言われた事がある。わざわざそう言って来たという事はそれが珍しかったからだろう。たまに僕達の方をチラと見ていく人も同じ事を思っているんだと思う。けど透君は嫌われてるとかそういうのとは違って、ただ一人でいるのが好きなだけだと思う。透君が選んでそうしているのだ。
「俺さ、普段は日本の音楽なんて聴かないんだけど、いつも洋楽ばっかでさ。けど日本の曲で一つだけ好きな曲があんだよね。今まで何とも思ってなかった子を夏になって意識するって内容の歌詞なんだけどさ。何かいいんだ」
さっき口ずさんでいたのはその曲だったようだ。
「今、俺の頭の中で延々ループされてる」
透君の頭の中で流れているその曲と夕日に染まったフォークダンスの輪はよく合うんだろう。オクラホマミキサーの少しとぼけた曲調と、いい具合に重なり合っているんだと思う。グラウンドの端っこで透君の青春が垣間見えた気がした。
「俺らってさ、今はこうやって話してるけど卒業したら一切会わなくなるんだろうな」
透君はフォークダンスの輪を見ながら目を細めて言った。
「透君がそんな事言うの珍しいね」
僕はわざと明るく言った。
「お前も思ってるだろ? 俺、お前と学校以外で話してるとこ想像出来ねーもん」
僕は、「そんな事ないよ」と笑って返したが内心ホッとしていた。僕が思っていた事と同じ事を透君は思っていた。正直気が楽になった。透君と一緒に居て、居心地悪い気がしないのは似ている所があるからだと思う。
「俺、ここから見える景色忘れないと思うわ」
いつになくセンチな透君が、それが僕にはフリだとわかっていた。
「どうでもいい時に思い出すんだろうな」
その言葉がいつか本当になる事も僕は知っていた。
「お前は誰に入れたの?」
「結城さんと大門さんと新田さん」
「1位は?」
「新田さん」
「レアだな。お前にしたら7位は意外だったろ?」
透君は少し笑った。
「お前さ、暫く新田と話してないだろ? 丁度よかったじゃん。新田って付き合ってる奴いるから」
別に驚きはしなかった。居て当然だと思うし、相手が誰かなんて気にしない。それよりも気になるのは、僕はそんなこと知りたくなくて、透君もそれをわかっている事だ。透君の唯一悪い所は少しおしゃべりな所だ。お前とは全然タイプが違うとか、もっと筋肉ガチムチ系でとか。そんな事は聞きたくなくて知りたくもない。でも、透君は優しいと思う。全てをわかっていて、僕に教えてくれている。それでも僕は、それ以上何か言われる前に立ち上がった。
「新田さんのトコに行ってくる」
「お前のそういうとこ好きだわ」
笑いながら透君は言った。
「じゃあね。透君」
僕は透君の顔をしっかりと見て言った。透君は少し寂しそうな顔をしてるように見えた。僕は構わず歩き出した。
「コウセイ、おいコウセイ」
透君が呼んでいる。
「お前が泣いてどうすんだよ?」
僕は目元を拭うと少し駆け足になって天使のいる場所を探した。
見つけるのは簡単だ。一番楽しそうな影がきっとそうだ。




