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武一、ミスコンを企画する。  作者: よしの
アゲ高学園祭 2日目「体育祭」
58/72

「ヘッドホンの秘密」


 【太一】


 体育祭で一番盛り上がるのはリレーだ。そのリレーにはクラス対抗と学年対抗があって、クラス対抗はクラス毎で男女6人を選んで、男女比は3対3で男女の走るタイミングは同じというルール。午前中の最後にそれぞれの学年で行われ、上位2クラスが午後に決勝という形で学年でのクラス対抗リレーに出るという流れだった。


 それが男女混合のリレーで、もう1つ学年対抗で行われるリレーがあって、男女別でそれぞれの学年のクラスから1人を選出して行われる。各クラスのエースが揃うこのリレーはオールスターと呼ばれていて、体格的に見ても3年が有利な傾向にあるが番狂わせもあったりして、かなり盛り上がる。けど、どの年でも一番盛り上がるのはクラス対抗リレーで。男女混合という事もあるし、クラス毎で数名選ばないとならないので必ずしも足が速い奴ばかりとは限らない。例えば特進クラスのK組なんかは元々人数が少なくて男子に対して女子の人数が極端に少ない事もあって、いつも不利な傾向にあった。K組はそれでなくてもプライドの高い連中が多いので、体育祭ぐらいは大人しくしててもいい気がするが、そのプライドの高さからか簡単にネタ枠に落ちぶれる事を許さなかった。


 選ばれた奴はもちろん一生懸命走るので見てる方も感情移入するし応援したくなる。どのクラスもやる気に満ち溢れていて、1年間の中で一番クラスが団結する時でもあった。



 クラス対抗リレーの時間になって、自分の種目を終えた連中がぞろぞろと応援席に集まってきた。クラスの代表として選ばれていた俺は、入場門からその光景を見ていた。野球部では補欠セカンドとして一度もレギュラーにはなれなかったけど、ここ一番の代走要員としての出番があって足だけには自信があった。その事はクラスの連中も知っていてクラスの代表としてアンカーを任されていた。


 入場門に向かうと列に並んでいるヘッドを見かけた。黄色のハチマキをしたヘッドがそこに立っていた。こう見えてヘッドは運動神経が良く足も速い。1年の時の、例の延髄斬り事件を思い出してもそれがわかる。改めて見るとヘッドはとても細くて、その肌の白さは際立って見えた。思いだしてみても日焼けしているヘッドは見た事がなかった。ここではさすがにヘッドホンは付けていないが違和感は感じなかった。ただそこに立っているだけのヘッドの表情に色はなく、相変わらず何を考えてるかわからなかったけど、不思議と違和感は感じなかった。昨日、耳を褒められて恥ずかしそうにしていた子と同じ子には見えない。本当、何なんだろうコイツ。なぜか一番に目に入る。何をしている訳ではないが他の子とは違って見えた。



 入場の音楽が鳴り始めて入場門に整列していた生徒達が駆け足で出て行った。

 所定の位置に着くとヘッドは3番手の位置で座った。教師がピストルを構えると、ピストルの音が苦手なのかヘッドは両手でしっかりと耳を塞いだ。


「武一、あれ」

「ん? ああ」


 俺は隣りにいた、同じアンカーを走る武一に話しかけた。


「ちょっと可愛いよな」

「ピストルの音苦手なだけだろ」


 確かにその仕草は少し大げさに見えない事もないが。ただ揶揄うつもりはなくて、耳を塞ぐヘッドの仕草が可愛らしく見えたのは本当の事だ。


「太一。お前さ、ヘッドがヘッドホンしてる理由知ってる?」


 最初それを言われた時、意味がわからなくて「え?」と聞き返した。

 割と目も丸くなっていたと思う。武一の俺を見る目も丸くなっていたと思う。「音楽聴いてんじゃないの?」と言いそうになって、そうじゃない事にその時初めて気づいた。


「音が聴こえ過ぎんだよ。聴覚過敏って言うらしい」


 初めて聞く言葉だったが、その意味は簡単に想像が出来た。ショックだった。最近少し話せるようになって、ヘッドの事を少しわかった気がして、距離が縮まったもんだと勝手に思っていた。知らなかった事もそうだし、気づかなかった事がショックだった。


 思い返してみれば、音に対するヘッドの反応は普通と違っていた。気づくチャンスは幾らでもあった。結局ヘッドとは友達でも何でもなかった。武一に言われなかったら、これからもずっと知らないままだったかもしれない。両手で耳を塞ぐヘッドを見ても「可愛いな」ぐらいにしか思わなかっただろう。現に武一はピストルの音を嫌がるヘッドを見て、揶揄うような反応をしている俺を見て、俺が何も知らない事に気づいたんだと思う。ヘッドに話しかける時、みんな何か気を遣っている事には気づいていた。その理由をようやく知った。何か不気味なメンヘラ女がファッション感覚でヘッドホンをしていて。余程好きなアーティストでもいるんだろう。それぐらいにしか思わなかった。それ以上興味を持てなかった。同じ学校に通っていて、同じクラスで、お互い顔も知っている。けど実際は街ですれ違う大勢の他人と変わらない。他人がヘッドを見た時に思う感情しか湧かなくて、一瞬視線をやりはするがすぐにまた戻す。すれ違って忘れ去り、それを繰り返す。その事実がショックだった。


「俺、ヘッドに聞いた事あんだよ。そんなデカいの付けてるからヘッドって言われんだろって。ノイズ軽減するだけならイヤホンみたいな小さいのもあるからさ。けどさ、そしたらアイツ言ったんだ」



「コレがなかったらヘッドじゃなくなるでしょ」



 そう言ってる時のヘッドは笑ってるような気がした。


「俺、笑っちゃってさ。お前ヘッドってあだ名気に入ってんのかよ? って。違うよって言いながら笑ってたんだけどさ」


 俺は只のバカだった。


「な?面白いだろ。少し変わってるけど面白いんだよアイツ」


 ヘッドは、ヘッドで居てくれようとした。その理由はわからない。けど、とにかくそうしようとしてくれた。自分のバカさに呆れて涙が出そうになって、必死で堪えた。教室で1人、ヘッドホンをして座っているヘッドが頭に浮かんだ。


 ピストルが鳴って一斉に駆け出した。ヘッドは4番手でバトンを受け取ると勢いよく飛び出していった。途中で1人を抜いて次の奴にバトンを渡した。バトンを受け取った俺は1人は抜いたが、前を走る武一には追いつけなくて結果は2位だった。追いつこうと思えば追いつけたと思う。抜こうと思えば抜けたかもしれない。けど何でか、そんな気が起きなかった。2位でゴールして帰ってきた俺を見てヘッドは少し悔しそうにしていたけど、帰ってきた俺をヘッドは笑顔で迎えてくれた。


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