「チュージと亮平」
【チュージ】
その日は前日から続く好天で絶好の体育祭日和だった。空気はほどよく乾燥していて、蒸し暑さはそこまで感じない。その分、砂埃は舞いやすかったが、まあそれぐらいは大目に見よう。
午前中は目玉種目が少ない。午前中に唯一行われるリレー種目も午前の締めとして最後に行われる。そんな午前中の種目の中で割と白熱するのが玉入れで、この玉入れはアゲ高独自のルールがあって、普通に玉を入れるだけでなく、相手の玉入れを妨害する事が出来た。なんだったら玉入れカゴをひっくり返してもいい。なので役割的には玉を入れる、カゴを守る、玉を入れようとするのを妨害する。のような役割が出来て、大体カゴに玉を入れるのは女子がやって、それ以外を男子が担う訳だが、男子的にはもう一つ重要な役割があって、それが玉入れを妨害されている女子を守る事。これが4つ目の役割として存在した。コレがなかなかにアツい。
誰がどの役割を担うかでそれぞれ作戦を練りチームプレーなので団結力も増す。チームとしての動きが重要になってくるので、それぞれの組で戦法が異なり見ているだけでも楽しめる。一番盛り上がるのは相手のカゴを倒した時で、割と白熱して怪我人が出る事も少なくなかったが、それもこの玉入れ競技の醍醐味としてみんな楽しんでいた。服部と同じ組の俺は、服部の巨漢を活かしながら相手のカゴを何度も倒した。
自分達の番が終わって応援席で休んでいると、さっきまで敵チームとしてやりあってた亮平がやって来た。
「お前らズリーよ。服部出すのチート過ぎるわ」
亮平の言っている事は最もで、力で服部に敵う者はアゲ高にはいないと思う。
グラウンドではもう次の種目が始まっていて、亮平と2人で大縄跳びをする女子の集団をボーッと見ていた。大縄跳びはたかが縄を飛ぶだけで、わーきゃーやれるお得な種目。今も何でかえらく盛り上がっていて、なんで長い縄を飛ぶだけでそんな楽しいんだろうか? とか思いながらもこんな平和な種目もないよなと思ったりもする。きっと世界中の人間が大縄跳びをすれば戦争もなくなる気がした。それぐらい平和だ。けど目の前で繰り広げられる平和は見てる側には退屈だった。
「大門ってさ、何であんなに色気あんのかな?」
亮平の質問は唐突だった。
「急になに?」
「だってさ、1人だけ明らかに違わない?」
大縄跳びの集団の中には大門もいて、普段余りお目にかかる事のない笑顔を見せていた。
「昨日のミスコンもそうだけどさ。壇上で並んでる子見て、みんな可愛いしレベル高いよなーって思いながら見ててさ。で、最後に大門が出てきて。やっぱ段違いだなって。1人だけ次元が違うんだよな。他の奴がみんな子供に見えるっていうか、大門基準で見るとみんなガキなんだよな」
「お前どうしたの?」
「変だよな? 本来なら結城とかの方が女子高生としては正しい筈なのにな」
「お前さ、それ考える意味ある?」
亮平の唐突は止まらない。
「やっぱさ、もうヤリまくってんのかな?」
「それは発想が幼稚過ぎない?」
「そうかな?」
「人より成長が早いってだけだろ」
「成長? 早熟って事?」
「そう」
「あの色気もそう? 制服の着こなしからして他の子と全然違うのもそう?」
「それはまた別じゃね。スタイルがいいのは才能だから。普通の子より背が高いとか、足が長いとかさ」
「そうか」
「多分さ、元々モデルみたいな体型してて、足が長くてくびれがあるとか。そういう子が制服着たら他の子と違って見えるんじゃねーの?」
「確かに結城は可愛いけど、ちょっと足太いもんな。腰もくびれてるようには見えないし」
「お前、本当怒られるよ」
「でもなんかちょっとわかった気するわ。そっか才能か。スタイルいいのも才能なんだな。だから大門って違うんだ」
「だから考える意味ないって」
大縄で巻き上げられた砂埃の先に見えるのは、周りより大人びて見える子と年相応の子達。集団の中で見る大門は、確かに際立って見えた。
「でもさ、見た目もそうだけど大門の場合はただスタイルがいいとかだけじゃなくて纏ってる空気が違うのはあるよな」
「それも才能?」
「個性というかキャラクターというか。多分スタイルいいだけならドコにでもいるだろうからさ。大門のスペシャル感は大門にしか出せないと思う」
「それは平たく言うとつまり?」
「個性になるのかな」
「なるほど」
「でもさ、俺らの代って優秀だよ。大門と結城がいてさ、新田に上澤もいて。で、ヘッドと長瀬だろ」
「俺たちって恵まれてるよな」
「感謝しないとな」
「感謝感謝」
一方、平和の集団。
「何やってんのあれ? 何かこっちに向かって手合わせてるけど」
「ウソ? 見えてる?」
「違うでしょ(笑)」
「いいよ、ほっとこ。男子がバカやってるのなんて珍しくもないし」
「そうだね」
男子には男子の平和がある。
遠巻きにディスられている事を知らないのもまた平和。知らない事が未来に繋がる。
「お前、大門の事好きなの?」
「うん。あ、いや。好きというか興味がある。どうなってんだろうって」
「はあ」
「一番気になる存在ではある。それは確かだと思う。どうなってんだろ? ってスゲー思う」
「けど恋愛感情じゃないんだ?」
「うん」
「なるほど。ちょっと複雑な。そんな事もないか?」
「うん?」
「面倒くさいんだな多分」
「そうなの?」
「うん。もし大門にそれ言ったら、気持ち悪いから近づくなって言われるぜ」
「マジ? 今大門に嫌われたら死ねる自信あるわ」
「何も言うな。遠目に見てるだけにしとけ」
「それだとダメなんだよ。俺も大門にちゃんと認識されないと」
「うん、もうやめようか。面倒くさいや」
「うん。ありがとな」
亮平は立ち上がると次の種目に出るために高校生らしく入場門まで走って行った。
なぜか急に拗らせた亮平がいなくなった後、少し前にした亮平との会話を思いだした。
「お前、大門と付き合いたいと思った事ある?」
「ない。ヤリたいとは思う事はあるけど、付き合いたいと思った事はない」
「それさ、女子に聞かれてもそうやって言える?」
「言う訳ないじゃん。女子の前で本音言う奴なんていねーだろ? 向こうだって同じだと思うけど」
「まあ、そうだけど」
「もし本音で話すとしたら、それは只の女子じゃなくて特別な誰かだ」
「例えば?」
「母ちゃんとか」
「アホか。ちなみにさ、なんで大門と付き合いたいと思わないの? 別にアイツがいいのは見た目だけじゃないだろ?」
「なんかさ、気ぃ遣いそうじゃん? 俺そういうの苦手なんだよね。疲れそうだから」
亮平の言葉には妙にリアリティがあって、今まで踏んだ場数を想像させた。けど後になって、どっかで聞いた事あるフレーズだなと思っていたら、前テレビで見た今まで付き合った人数を聞かれて「3人です」と答えていた40過ぎの独身男と同じ事を言っていた。




