ミスコン その9
【亮平】
ミスコンが終わった後、学祭のトリを飾ったのは恒例のクラス対抗歌合戦で、ミスコンの空気を引きずる事なく例年通りの盛り上がりを見せた。中でも盛り上がったのは審査員の中でも最も厳しい評価をする甲田が9点の札を出した時だった。
誰かが甲田なりに気を遣ったんだろと言ってたがそんな事はない。ミスコンが少しだけスベったのは甲田には関係ない事だ。優勝したのは去年高得点を叩き出した実家がスナックをやっているアカネで、去年の活躍で結成した男女混合のミックスバンドだった。予想では新田とその取り巻き達のグループが優勝候補で、ステージで唄っていた新田はいつもと変わらず笑顔だったが、下を向く回数が多いような気がした。
体育館を出てからもミスコン終わりの微妙な空気が残っていて、特に男子と女子との間にハッキリとした壁を感じた。目に見えない壁なのでそれはただの空気な訳だけど、それは確かに空気の違いで生じた壁だった。今の状況ではとても女子に話しかけられなくて、相手が新田だとしても難しそうだった。
とりあえず現状を共有しようと武一を探した。ミスコンには一応ギリギリ間に合ったらしく、武一は体育館の入り口の所にいて、そこで普通に女子と話していた。しかも相手は大門だった。外したマントと襷を受け取っていて、気まずい様子もなく普通に話していた。大門と話し終えたところで武一に声をかけた。
「武一、」
「おう」
「間に合ったんだ」
「一応な」
「お前どうすんだよ、この空気」
「大丈夫だよ。大門がみんなチャラにしてくれたから。後で礼言っとかないとな」
この時は武一の言ってる意味がわからなくて、1人この微妙な空気から解き放たれてる武一を見て、このプラス思考は最早病気だなと思うだけだった。
後になってわかったのは、色々言われながらやったミスコンが滞りなく進行していって、最初文句言ってた連中も会場の空気と合わさってそれなりに楽しみ始めた。けど何事もなくそのまま終わりそうになるのを見て何か違うと。このままでいいの? という感情が一部で漂い始めた。ミスコンをやるとなって全校生徒が集まってはいたが、それ全部が賛同してる訳じゃなく、中には冷ややかに見ている奴もいた訳だ。
ミスコンが決まって、盛り上がってる男子と一部を除いて完全外野扱いのマジョリティーなその他女子。チラシやポスターを見てもよくわかる。俺達はそんな奴らの事を丸っきり無視していた。気遣いもせず、ただ「わーきゃー」騒いでた。女子からしたらふざけんなって事だろう。で、そんな時に大門が出てきて釘を刺した訳だ。周りの空気に合わさっていた連中も、それで気づいたと思う。俺達男子は、少しはしゃぎ過ぎた。だから武一の言う通り、もしあのまま終わってたら女子との間に溝が生まれていたかもしれない。しかもかなり深い。で、俺らはそれに気づかない。なんでなんで? と思うだけ。そして埋まらない溝を抱えたまま卒業していく。もう卒業だというのにそんな隔たりを生むのは御免だし、じゃあそれを作った張本人には誰なんだって事にもなる。そうなれば武一だって今の立ち位置じゃいられない。たかがミスコンで取り返しのつかない状態になる所だった。
それを大門が救ってくれた。ミスコンの中で終わらせてくれた。だから今のこの空気は仕方ない。その先の事を思うとたかがしれている。この時はまだそこまで気づけなくて、居心地が悪いままでいるのは仕方がない。けど明日にはもう元に戻ってると思う。喝を入れられて少ししょんぼりしてる男子をそのままにしておくほど、アゲ高の女子達は冷たくない。それが「アゲ女」と呼ばれる所以でもある。
教室に戻る途中にチュージのクラスの前を通りがかって、クラスの子達に取り囲まれて照れ臭そうに笑っているチョーさんを見ると少しほっとした。
学祭の目玉だったミスコンが微妙な空気を残して終わった事は少し誤算だったが、学祭自体は盛り上がった。後は明日の体育祭のみ。ここ2週間程続いた学祭の空気が明日で終わると思うと寂しい気もするが、これが学祭ロスという奴なのだろう。けど、そんな感傷に浸るのはまだ早く。
明日の体育祭は、ある意味ミスコン以上に重要な『1hフォーク』と学祭の最後を締めくくる『夜祭』があった。




