ミスコン その2「三月①」
【亮平】
オープニングの映像が終わると壇上にライトが当てられて、壇上に上がっていったのは三月だった。オープニングの映像が終わっても暫く誰も現れず、少し周りが騒つき始めた所での三月だったので、一層驚きは増した。
三月がミスコンを仕切る事は事前に武一から聞いていて、それもあって驚きはそうなかったが、それでも実際壇上に上がった三月を見ると違和感があった。
「武一が仕切るんじゃないの? てか、何で三月?」
そんな声があちこちから聴こえた。知っていた俺でさえそうなのだから、周りがそう思うのは当然だろう。
三月が壇上に上がってからも暫く周りは騒ついたままだったが、三月はいつも通りの堂々とした佇まいでステージ上手に設置された卓の前に立つと、マイクに向かって高らかにミスコンの開催を宣言した。周りからは冷やかしや野次めいた声も聴こえたが、壇上の三月は気にする素ぶりを見せなかった。
武一から三月の話を聞いた時は正直驚いた。まず一番に驚いたのは三月云々じゃなく、ミスコンの主催者である武一が当日、居ない事だった。
武一はここら辺ではちょっと名の知れた水泳の選手で、全国でも指折りの実力を持つ地元の期待の星でもあった。で、その水泳の大会と学祭の日程がまんまと被ってしまった訳だ。期待の星である武一が欠席する訳にはいかないので、ミスコンの仕切りは誰かに任せるしかなかった。それで選ばれたのが三月だった。このミスコン自体、男子主導だった事もあって、女子が運営側で参加する事はないと思っていたし、また協力もしないだろうと思っていた。それぐらい今回のミスコンは一方的で、だから当日の進行にしても当然武一がやるもんだと思っていた。武一じゃないにしても実行委員の男子の誰かがやるだろうと。けど武一は妙な事も言っていて、
「大会が被ったのはたまたまでさ。最初からそのつもりだったから」
水泳の大会関係なしに武一はミスコンの仕切りを女子に託そうとしていたようだ。
わからない。全くわからない。
が、よくよく考えてみて最初こそ驚きはしたが、武一の目論見は悪くないとも思った。今回のミスコンでは、女子は評価される対象ではあるが、投票権がないという、かなり男寄りの一方的な企画。だからこそ、そこに女子が参加すれば男子だけでない女子公認という体裁が取れ、今回のミスコンに一応の体裁が整う。おそらく武一の狙いはそういう事だったんだと思う。また、進行役が女子なら、参加する女子にとっても安心材料になるし、男子だけで盛り上がって見える所を防ぐ役割もある。
武一がどこまで考えているのかはわからないが、男子主導のミスコンだと言いつつも、武一なりの女子への気遣いがあった事は確かだろう。現に三月の存在は、普段男子よりではない女子という事もあって、確実に会場の空気を変えた。けどせっかく女子に仕切らせるなら、なんでよりによって三月なのか。その想いが拭えなかった俺は武一に提案してみた。三月より相応しい女子は1人しか思い浮かばない。
「新田はダメだろ?」
俺の提案はあっさりと却下された。
けど、理由を聞いて納得出来た。そもそも女子にミスコンを進行させるのは無理があって。まず一番の理由はミスコンの対象が女子だからだ。特に新田の場合、上位にランキングされる可能性があった。どんなコンテストでもそうだろうが、プレゼンターが当事者である事は少ない。何かの賞を主催して、自分で自分の名前を呼ぶのは本人も嫌がるだろう。己惚れでも何でもなく新田の場合、その可能性が大いにあった。
そう考えると進行役を女子にする場合、その子は当事者でないという事になる。上位にランクインする事がない、自分で自分の名前を言う可能性がない女子………‥。それをわかってて引き受ける奴なんているか? とはいえ名前が呼ばれないからといって、それは上位に入っていないというだけで、不人気とイコールという事にはならない。けどハナからその可能性がない事を認めるのもどうなのだろう? 特に三月みたいにプライドの高い女子なら尚更だ。なので武一が三月の名前を出した時も、どうせ引き受けないだろうと思っていた。だから男子の誰か、実行委員の中の誰かがやるだろうと。けど壇上に上がったのは女子で、三月だった。
三月の意図はわからない。気まぐれなのか何なのか。けど、三月は今引き受けた事を後悔していると思う。壇上に上がった三月に向けられた声援は決して肯定的な物ではなかったからだ。周りから聞こえる野次や冷やかしは男子の声が大きくて。でも、それは驚きの意味合いが強く、なじるような物ではなかった。本当の意味での野次や冷嘲を浴びせているのは、ほとんど女子達だった。それは壇上の下にいる俺にもそれは充分伝わっていて。壇上の上にいる三月はもっとだろう。壇上に立って、生徒達を見下ろしている三月にはどう見えているんだろう。




