「3年B組 菊池亮平」その1
校門には「アゲ高祭」と書かれた看板が掲げられていた。
ど太い文字で躍動感たっぷりに書かれたその文字を見て、それを書いたのが結城だとわかるのは俺たち3年ぐらいだろう。特に「アゲ」の部分が強調されていて、単純には読めない。結城の雰囲気からしてそういうセンスは想像しにくいが独特で遊び心がある。けど、それが本来の結城の姿なのかもしれない。
学祭でミスコンをやる事になって男子が盛り上がる事は想像出来たが、女子もそうなるとは思ってなかった。女子は女子で誰がこの学校で一番なのかを知りたかったという事だろうか? それかただミーハーなだけか。真意はわからないが、とにかく今年の学祭の目玉はミスコンに決まった。俺達3年にとっては高校最後。ミスコン云々関係なく、嫌でも記憶に残るだろう。途中中だるみした感もあって興味のピークは長続きしなかったけど、いざ始まってみると男女関係なく、ほぼ全校生徒の注目が集まった。
ミスコンの時間が近づくにつれ体育館に集まる生徒の数が増えていって、始まる直前には、ほぼ全生徒が集まっていた。可愛い奴らである。
体育館に入るとやけに館内が騒ついていて、それはこれから始まるミスコンへの期待もあるが、理由はそれだけじゃなかった。ミスコンの前にコスプレ企画が行われていて、冗談みたいな低レベルなコスプレが続く中、K組の冨田が見せた女装の完成度の高さに見ていたみんなが度肝を抜かれて、その余韻がまだ残っていた。特に女子達のショックは大きかったようで、女装した冨田は大門とタメ張るかもしれない、そんな事を言いだす奴もいた。
それでも今回の目玉はミスコンで、始まってしまえば冨田の余韻もすぐに消えてしまうだろう。
学祭ではミスコン以外にも企画がいくつかあって、大体いつでも盛り上がるのが歌合戦。どこの学校でもやっている鉄板企画で、アゲ高でも勿論盛り上がる。少し違うのはその本気度だ。
歌合戦はクラス対抗で行われ、各クラスから1組が出場する。体裁は1人でもグループでもいい。候補者の多いクラスでは代表を決めるための予選が行われる事もある。で、それぞれが好きな曲や流行ってる曲を歌う訳だが、タイトルに「歌合戦」とある通り、これは戦いなのでそこに厳正な審査が加わる。なので、1組事に審査員が点数を付けて採点するのだが、アゲ高ではその審査員役を教師達が担った。その顔ぶれは校長、教頭、そして学年主任でもあるK組担任の甲田の3人。この3名、生徒への気遣いが一切ない。生徒達がどれだけ盛り上がっていようが終止険しい表情で、壇上の隅に設置された審査員席に座り、ずっと腕組みをしている。生徒が唄っている最中も眉間に寄った深い皺がなくなる事はない。審査方法も独特で、1人10点満点の合計30点で争われるが、1人が3点以上出す事は滅多にない。なのでほとんどの出場者の点数は一桁で、合計が二桁に乗ると会場から「おー」と言ったどよめきが起こった。この生徒達に全く忖度しない審査方法は最早アゲ高では恒例であり、そこに生徒達の不満はなく、逆にそのスタイルを楽しんでいた。一度、審査員の中でも最も厳しいとされる甲田が8点の札を出した事があって、その時は会場全体が揺れる程のどよめきが起こった。その時、歌っていたのは実家がスナックをやっているアカネだった。
そんな歌合戦が恒例の鉄板企画として最後に行われる事になっていて、その大トリの前に行うのがミスコンだった。いつもなら歌で盛り上がって終わり。それだけで十分楽しめる。けど今年は違う。ミスコンがある。高まる事この上なかった。




